建築確認済証を取得しないまま建築工事に着手したり、建築確認済証とまったく違う内容の工事をしたりすると違反建築物として役所の厳しい指導を受けることになります。それでも指導を無視して工事を続けたとしたら、その建物はどうなるのでしょうか。この記事では違反建築物の行く末を解説していきます。
違反建築物は、2000年代に入って大きく変容しました。現在の違反建築物の位置づけを理解するために、まずは違反建築物の今と昔がどのように違うのかをみていきましょう。
1990年代までの違反建築物
かつて違反建築物を扱う部署では、けっして大げさではなく毎日のように怒号が飛び交っていました。大声をあげているのは、違反指導を受けている人だけではありません、違反を通報した人も役所の動きが遅いと怒鳴ることがあったのです。
違反をした建築主や施行者が大声を出すのは、「世の中に違反建築物が溢れているのに、なぜ自分の家だけが指導をうけるのか」といった主旨が中心です。そんな主張をするだけあって、この頃は実に多くの違反建築物が存在していました。
政令指定都市級の市役所では、違反建築物を指導する部署だけでひとつの課を構成していました。この職場では、明けても暮れても違反建築物の指導業務に追われていました。
2000年代の違反建築物
しかし2000年代に入ると、違反建築物の様相は大きく変わりました。とにかく違反建築物が劇的に減少したのです。なぜ、こんなに極端に変わったのかといえば、原因は2つあります。
ひとつは、銀行が違反建築物に対して住宅ローンの融資をしなくなったのです。さらにもうひとつの要因は、中間検査制度の導入です。中間検査は建築基準法によるものと各自治体の条例によるものがあり、各都市で内容が異なりますが、多くの都市では一般住宅の中間検査を義務付けています。
こうしたことから、違反建築物の件数が大幅に激減しました。このため市役所も違反建築物の指導だけで、ひとつの課を構成することができなくなったので、現在では耐震改修やバリアフリー法といった業務をする課の中のひとつの係として存在しているのが実情です。
水が澄んでくると魚が見える
1990年代までは、あまりに違反建築物が多かったので、かなり悪質な案件でないと行政代執行案件には至りませんでした。たとえば住宅地に騒音の激しい工場を建てるといったケースです。しかし現在では、大幅に違反建築物が減ってきたために、従前であれば後回しにされていたような案件でも、積極的に指導に乗り出すというスタンスで全国各地の役所は取り組んでいます。
つまり池の水がきれいに澄んでくると、それまで存在を知らなかった魚が目視できるようになるのと同じで、些細な課題でも大きく浮き彫りにされるということです。
それでは、違反が発覚した場合、どのように指導をされていくのか解説をしましょう。
そもそもなぜ違反が発覚するのか
違反の発覚するのは、ほとんどが近所の通報によるものです。近所の人達は、自分達の家が、どこまでの規模なら建築できるのかを熟知しているので、近所に不審な動きがあると、ただちに役所に問い合わせをするのです。
時折「違反パトロール」の実施が報道されることがありますが、対象となるのは、建売住宅や共同住宅です。現在これらの建築物が違反をすることは、まずありません。指導を受けるとすれば、建築確認済証の看板を現場に掲示していないことくらいです。これも口頭で注意する程度で終わります。
役所から呼び出しがある
違反の疑いがあると、現場の大工や現場監督に役所に来るよう要請の文書が渡されます。呼び出されるのは、建築主か施工業者です。
役所に出向いて、違反であることが確定すると、口頭で工事を停止することが伝えられます。この時点で素直に工事を止めると、傷口は浅くて済みますが、この指導を無視するとさらに大きな処分が下ることになります。
工事停止命令が公布される
役所での口頭指導を無視して工事を進めていくと、工事停止命令が建築主と工事施工者に郵送されてきます。そればかりでなく、工事現場に「工事停止」と書かれた赤い紙が数枚張り付けられたうえで、道路から見える場所に「工事停止」を命じた旨の看板が設置されます。
同時に水道、電気、ガスの事業者に供給しない旨の依頼文書が送付されます。ただし実際に供給中止をするかは、各事業者の判断によって異なります。
いよいよ行政代執行が視野に
工事停止命令が出されても工事を続けるケースは、そんなにあることではありません。工事停止命令を出した場合、市役所は県庁に対して、工事施工者の処分を要請します。
口頭の指導のうちは、県庁も要請を受け入れてくれませんが、はっきりと工事停止命令が出された事実を把握すると、処分を検討します。多くは営業停止処分です。
たとえば一般の住宅が違反した場合を想定してみましょう。本来2階建てで申請していたのに、いつの間にか3階建てを建てようとしている事実が発覚したとします。これを看過すると、さらなる違反を誘引することになりますから、市役所としても見過ごすわけにはいきません。
しかし、このまま強行に工事が進められ、入居してしまうと、現実的に行政代執行は不可能になってしまいます。このため、こうしたケースでは、市役所は行政代執行の手続きを急ぎます。
行政代執行案件になると、市役所は警察に告発をするので、状況によっては建築主の逮捕という事態にも発展します。
こうした緊迫した状況に及んでも工事を進めているようであれば、行政代執行の手続きを進めるのみです。何月何日までに建物を解体しないと行政代執行をしますという最後通告が届きます。
是正はどこまですればいいのか
ところで行政代執行直前の建物の是正はどこまですればいいのでしょうか。建築物の定義は、「土地に定着する屋根を有する工作物」です。だとすると、たとえば平屋の建物であれば屋根だけを撤去すれば、いいということになりそうです。
しかし「いったん建築物として構築したものは、屋根を外してもすべてが建築物」というのが、今日的な解釈とされています。また「建築物として構築しようとすることが明らかな工作物」も基礎も含めてすべて建築物として扱われます。
このため是正命令を受けた建築物は、屋根だけでなく基礎まですべて撤去する必要があります。ただし実際にどこまで許容するかは市役所の裁量によります。
行政代執行
行政代執行が決定されると、是正の意志を示さない限り中止されることはありません。市役所は、そのために体制を組んで、解体業者と契約までしています。たとえ当日解体を始めたとしても、建築主が一人で解体を始めている程度であれば、是正の意志がないと見なされて、行政代執行の開始が宣言されてしまいます。
役所の手が入る前に、建築主が現場にレッカー車を手配して、本格的に解体を始めて、ようやく「様子を見る」として行政代執行が保留されます。
この行政代執行が実施されるのと直前で是正されるのでは、大きな違いがあります。ひとつは報道です。行政代執行が実施されると、全国的に大きく報じられることになりますが、直前で是正を開始すると、ほとんど報じられることはありません。
また市役所は解体業者と契約を交わしたり、さまざまな資材の手配をしたり、状況によっては現場事務所まで設置していますが、直前で是正した場合は、これらの費用は請求されません。
しかし、いったん行政代執行が開始されると、これらに要した費用は建築主に全額請求されます。
支払われない場合は、職権で預金や不動産の差押さえまで行いますから、行政代執行に至る事態になれば最悪の展開だといえます。
違反物件は売れない
行政代執行まで至らなくても、違反建築物として指導を受けている案件はなかなか売却できません。なぜなら、違反の責任や是正義務は、新しい所有者にも及ぶからです。いくら違反を知らずに購入したとしても、新しい所有者に対して是正指導が行われます。
また違反建築物は住宅ローンを融資してもらうことができませんから、現金でわざわざ違反建築物を買う人は、まずいないというのが現実です。
違反建築物が大きく減った現在では、世の中から受け入れられない存在になりつつあります。違反をしても何の意味もないばかりか、逆に大きな損失を被ることすらあります。不動産の売買に関しては、必ず適法である状態で売却することが重要です。
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