家族向け住宅の需要が高まる一方で、マンション投資の競争は激しさを増しています。その流れを受け、「戸建て賃貸を始めてみたいが何から手を付ければ良いのか」と迷う人が増えています。本記事では、物件探しから資金計画、運営管理、さらには出口戦略までを順を追って解説します。15年以上現場を見てきた筆者の経験と2025年10月時点の最新データを交えながら、失敗しにくい進め方を具体的に示します。読み終えたときには、自分に合ったスタート手順がはっきり見えるでしょう。
戸建て賃貸が選ばれる背景

ポイントは、戸建て賃貸が持つ独自の市場ポジションを理解することです。国土交通省「住宅市場動向調査」によると、ファミリー世帯の約35%が「集合住宅よりも戸建てを希望」と回答しています。また、在宅勤務の定着で「一部屋多い住まい」を求める声が強まり、郊外の庭付き物件への問い合わせが増えました。つまり、需要サイドの追い風が明確に存在します。
次に供給側を見てみましょう。中古戸建ての価格はマンションほど高騰しておらず、築20年超でも土地値が下支えします。これにより、物件取得後に資産価値がゼロになるリスクを抑えやすいのです。一方で、戸建ては一棟につき一世帯しか入居できないため、空室時の収益ゼロリスクが避けられません。需要と供給の特徴を把握し、リスクとリターンを天秤にかける姿勢が求められます。
さらに、賃貸管理会社が戸建て専門プランを拡充した点も追い風です。日本賃貸住宅管理協会の調査では、2025年時点で全管理戸数のうち戸建ての割合は5%を突破しました。管理ノウハウが広がるにつれ、「戸建ては手間がかかる」という従来のイメージは薄れつつあります。この変化を好機と捉え、早めに参入することで競合を少なく抑えられる可能性があります。
物件購入までのステップ

まず押さえておきたいのは、戸建て賃貸用物件の候補を絞る際に「出口」を意識して選定することです。将来、自宅転用や売却を考えたときに需要が残るエリアかどうかをチェックします。具体的には、最寄り駅からバス便で15分以内、かつ小学校まで徒歩15分圏内なら、家族層の流入が期待できます。
物件探しでは、レインズ公開情報や不動産ポータルで築20〜30年の木造戸建てに注目します。建物価格が減価しているため、土地値に近い金額で取得できるケースが多いからです。ただし、耐震基準に適合しているか、雨漏り跡がないかを必ず確認します。築古戸建てはリフォーム費用が読みにくいため、内見時に工務店へ同行を依頼し、概算見積もりを取ると安全です。
売買契約では、重要事項説明で「再建築不可」や「43条但し書き道路」などの制限がないかを丁寧に確認します。再建築が出来ない物件は将来価値が大きく下がる可能性があるため、初心者が避けるのが無難です。また、瑕疵保険の付帯が可能であれば、支出を抑えつつ入居者募集時の安心材料になります。こうした手続きを踏むことで、購入後のトラブルを大幅に減らせます。
資金計画と融資のポイント
実は、戸建て賃貸では自己資金の割合がマンション投資より高めに求められる傾向があります。日本政策金融公庫の統計では、2025年度の設備投資向け不動産融資は、購入価格の60〜70%が融資上限となる事例が多いと報告されています。自己資金を30〜40%用意する前提で計画すると、審査が通りやすく返済比率も安定します。
金利は変動型で年1.5%前後、固定型で年2.2%前後が目安です。仮に2,000万円を20年返済で借りた場合、金利1.5%なら月々およそ9万7,000円、2.2%なら10万3,000円と、わずかな差でも年間7万円以上の差額が発生します。複数行の事前審査を同時進行し、金利と融資手数料、団体信用生命保険の条件まで総合比較することが重要です。
また、戸建ては修繕費がまとまって発生しやすいため、キャッシュフローシミュレーションでは「築後25年で屋根・外壁に150万円」「10年ごとの給湯器交換20万円」など現実的な数字を織り込みます。空室率は厳しめに10〜15%で計算し、それでも手残りが黒字になるかを確認してください。保守的なモデルに耐えられる物件だけを選ぶ姿勢が、長期運営の鍵となります。
入居者募集と運営管理のコツ
ポイントは、「戸建てならではの強み」を入居者に伝える戦略です。庭や駐車場、ペット飼育可などマンションにはない魅力を明確に打ち出すことで、家賃を相場より5〜10%上乗せできるケースがあります。募集サイトでは室内だけでなく、ウッドデッキや収納力を示す写真を多めに掲載すると効果的です。
管理に関しては、近隣トラブルを避けるため、入居前にゴミ出しルールや騒音対策を文書で説明することが欠かせません。戸建ては隣家との距離が近い地域も多いため、自治会情報を共有しておくとクレームが減ります。また、設備故障の一次対応を24時間受け付けるコールセンター付き管理会社に委託すれば、オーナーの手間を大幅に減らせます。
長期空室を避けるには、定期的な設備アップデートが有効です。例えば、古い照明をLEDに交換し、浴室乾燥機を追加するだけで検索ヒット率が上がります。国土交通省の家賃推計でも、設備追加による家賃増額効果は月2,000〜5,000円と試算されています。適度な投資で競争力を維持し、収益を底上げしましょう。
売却・出口戦略を描く
基本的に、投資は「買う時より売る時が難しい」と言われます。戸建て賃貸でも同様で、出口を見据えた戦略が欠かせません。まず、賃貸経営を5年ごとに見直し、資産価値が上昇していれば早期売却を検討します。
売却時に高値を狙うなら、入居中よりも空室のほうが実需層へ売りやすい点を覚えておきましょう。家族が自己居住目的で購入する場合、「内覧しやすい」「好きにリフォームできる」空室物件を好むからです。ただし、空室期間は家賃収入が途絶えるため、売却活動を3カ月以内に終える計画を立てます。
一方、10年以上運営し減価償却が完了したタイミングでの売却は、帳簿上の譲渡益が大きくなりやすい点に注意が必要です。税理士と相談し、譲渡所得税や住民税を加味したネット利益を試算してから決断すると、手取り額の予想と現実のズレを防げます。出口まで視野に入れることで、投資全体のリスクをより正確に評価できます。
まとめ
戸建て賃貸は、需要の堅いファミリー層をターゲットに安定収益を狙える一方、空室時のリスクが大きいことも事実です。物件選定では将来価値の残る立地を見極め、資金計画では自己資金を厚くすることで返済負担を抑えます。さらに、戸建てならではの魅力を訴求し、適切な設備更新で競争力を維持すれば長期安定経営が可能です。まずはシミュレーションと金融機関相談から始め、自分に合った「戸建て賃貸 始め方」を一歩ずつ形にしていきましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅市場動向調査 2024年度版 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省 住民基本台帳人口移動報告 2025年上期 – https://www.soumu.go.jp
- 日本政策金融公庫 融資制度のご案内 2025年度 – https://www.jfc.go.jp
- 日本賃貸住宅管理協会 賃貸住宅市場景況感調査 2025年4月 – https://www.jpm.jp
- 全国賃貸住宅新聞 家賃動向データ 2025年7月号 – https://www.zenchin.com
