空室は増えるのに家賃は上げられない。この状況で「賃貸管理 自主管理vs委託」の選択に頭を抱えるオーナーは少なくありません。適切な管理方式を選ばないと、手残りが毎月数万円単位で変わります。本記事では、最新の法改正と市場データを基に、自主管理と委託管理の違いをわかりやすく整理し、あなたが後悔しない判断を下せるよう具体的な判断軸を示します。
自主管理のメリットと注意点

まず押さえておきたいのは、自主管理には自由度とコスト削減という魅力がある一方、時間と専門知識を要求される点です。以下では、その仕組みとリスクを具体的に見ていきます。
自主管理では管理会社に支払う手数料が発生しません。そのため、表面利回りが同じ物件でも手残りは年数十万円増えることがあります。また、入居者からの要望を直接聞けるので、改善点をすばやく施策に反映できる柔軟性も手に入ります。
しかし現場の業務量は想像以上です。募集広告の作成、内見対応、賃貸借契約の締結、賃料の入金確認、退去立ち会い、原状回復の手配など、多岐にわたる作業をオーナー自らこなさなければなりません。トラブル発生時は深夜でも緊急対応が求められ、休日の計画が崩れることも珍しくありません。
加えて、2021年に施行された賃貸住宅管理業法により、敷金の精算や退去時の説明義務が厳格化しました。自主管理オーナーも例外ではなく、国土交通省のガイドラインに沿った書面を用意しなければ契約無効や行政指導のリスクがあります。法改正を追いかけ、契約書式を更新し続ける手間と責任は軽くありません。
物件数が増えるほど負荷は指数関数的に高まります。戸数が十を超えると、単純な家賃回収だけで月末は半日以上が消えがちです。つまり、自主管理は小規模運営との相性が良い一方、拡大戦略を取る場合は労働集約度がネックになりやすいと言えます。
委託管理の特徴と費用構造

一方で、管理を専門会社に任せる委託管理は、時間をお金で買う発想に近い方法です。オーナーは戦略的な意思決定に集中できます。
一般的な管理委託契約では、家賃の3%から7%程度を管理手数料として支払います。手数料には募集広告、入居審査、家賃集金、クレーム対応、退去精算などが含まれ、24時間コールセンターを設ける会社も増えました。オーナーは月次の報告書を確認するだけで運営の全体像を把握できます。
2025年度時点では、賃貸住宅管理業法に基づく国土交通大臣への登録が義務化され、未登録業者は業務が行えません。この制度により、財産の分別管理や重要事項説明のルールが標準化され、賃貸トラブルの抑制効果が報告されています。同法の罰則は最大100万円の罰金であり、登録の有無を確認することが安心につながります。
手数料が利益を圧縮するのは事実ですが、管理品質の向上で長期的な空室率が下がれば収支は改善します。国土交通省の令和6年住宅市場動向調査では、委託管理の平均空室率は自主管理より2.3ポイント低いという結果が出ています。空室1ヶ月の損失は手数料数年分に相当するケースもあり、費用と効果を総合的に比較することが重要です。
ただし、管理会社にも得手不得手があります。都市部のワンルームを得意とする会社が郊外の戸建てを扱うと、修繕ネットワークが脆弱で対応が遅れる可能性があります。契約前には担当者の経験年数や管理戸数、解約率などを数字で確認し、複数社を面談するとミスマッチを防げます。
法改正と2025年度の最新動向
実は、法律と補助制度の変化を把握すると管理方式の選択肢が広がります。ここでは2025年度時点で有効な情報を整理します。
前述の賃貸住宅管理業法は、2025年6月までに全管理会社の登録情報をオンライン公開する方針です。オーナーは物件所在地で検索し、苦情件数や処分歴を無料で確認できます。この透明化は、委託を検討する際の比較材料として大いに役立ちます。
既存住宅の質向上を目的とした2025年度住宅セーフティネット制度では、高齢者等の入居支援を行うオーナーに対し、改修費の最大三分の一を国と自治体が補助します。この制度を利用する場合、バリアフリー改修や省エネ工事の工期管理を委託会社に任せると手続きが円滑です。逆に自主管理では書類作成や工程監理を自ら行う必要があり、負担は大きくなります。
また、2024年に解禁された電子賃貸契約は2025年度に普及率が6割を超えました。クラウド上で署名が完結するため、印紙税が不要になり、郵送も省けます。自主管理オーナーでも導入は可能ですが、システム選定や初期設定に時間がかかる点を考えると、管理会社が一括で対応してくれる委託管理が優位に立つ場面が多いです。
環境配慮型賃貸への需要も高まっています。経済産業省の調査では、太陽光や高断熱仕様の賃料プレミアムは平均3%と報告されました。こうしたアップグレードは複数業者との連携が不可欠で、委託管理のネットワークを活用するとスムーズです。自主管理の場合は施工品質の見極めや保証交渉を自身で行うため、経験がものを言います。
オーナーはどう選ぶか
ポイントは、自分の時間、資金、目標規模を数値化し、方式の組み合わせを検討することです。
まず、毎月賃貸経営に充てられる時間を紙に書き出してください。週5時間以内なら委託管理、10時間以上確保できるなら自主管理でも回せる可能性があります。また、管理手数料を支払っても年利回り7%を維持できるか、シミュレーションソフトで確認すると判断がぶれません。
たとえば、区分マンション1戸だけを所有し、職場から物件まで電車で15分というケースでは、家賃5万円のうち管理手数料5%は月2500円です。休日に現地へ行ける体制があり、トラブル対応を学ぶ意欲があるなら自主管理で経験を積むメリットが大きいでしょう。ただし、繁忙期の問い合わせには即応する覚悟が必要です。
逆に地方に10戸のアパートを所有している首都圏在住のオーナーは、委託管理を基本にしたほうが安心です。現地までの移動費と時間を考慮すると、手数料を支払っても総コストはむしろ低くなります。賃料改定やリフォームの方針だけをオンライン会議で決める「戦略オーナー」に徹するイメージです。
最近は管理会社に集金業務だけを任せ、物件状態のチェックや修繕は自分で行うハイブリッド型も選べます。賃貸管理 自主管理vs委託を二者択一と捉えず、タスクごとに最適化する発想が長期的なキャッシュフローを安定させます。定期的に数字と手間を見直し、ライフステージに合った管理体制へ柔軟に移行しましょう。
まとめ
ここまで見てきたように、自主管理はコスト優位、委託管理は時間優位という構図が基本です。ただし、法改正や補助制度の利用可能性を織り込むと、答えは人と物件で変わります。あなた自身の時間価値とリスク許容度を数値化し、1年ごとに管理体制を見直すことが、将来のキャッシュフローを守る最短ルートです。
参考文献・出典
- 国土交通省 賃貸住宅管理業法関連資料 – https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000168.html
- 国土交通省 住宅市場動向調査2024 – https://www.mlit.go.jp/statistics/details/t-jutaku-doukou.html
- 経済産業省 省エネ住宅に関する調査報告2024 – https://www.meti.go.jp/press/2024/energy_report.html
- 総務省統計局 住宅・土地統計調査2023 – https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/index.html
- 一般社団法人全国賃貸住宅経営協会 管理実態調査2025 – https://www.zenchin.or.jp/report2025.html
- 日本政策金融公庫 不動産投資融資実態調査2024 – https://www.jfc.go.jp/n/release/pdf/topics_2024.pdf