退去の連絡が入ると、多くのオーナーは「修繕費はいくらかかるのか」「敷金はどう精算するのか」と不安になります。実は、退去時の対応で適切な手順を踏むだけで、トラブルの大半は未然に防げます。本記事では、2025年12月時点の法令と実務に基づき、退去通知から次の入居募集までを体系的に解説します。賃貸管理 退去時対応の基本を押さえ、空室期間を最短にしつつ入居者との信頼関係も守る方法を学びましょう。
退去連絡を受けたらまず確認すべきポイント

重要なのは、退去予定日の確定と現地立会いのスケジュールを早期に押さえることです。退去通知を受けた瞬間から、オーナーの時間との戦いが始まります。
まず入居者には、書面またはメールで「退去届」を提出してもらいましょう。書面化しておけば、後日の言った言わないを防げます。次に、賃貸借契約書に定めた解約予告期間(通常30日)を確認し、賃料の最終支払日を双方で共有します。この時点で入居者が滞納している場合は、早急に督促を行い、退去日までに清算できるよう段取りを組むことが大切です。
一方で、原状回復費用の目安を伝える前に、物件の状態を把握する必要があります。そこで退去立会いの日程を入居者と合意し、管理会社がある場合は担当者も同席させるとスムーズです。立会い予約のメールには、当日のチェック項目と必要書類を明記し、入居者に心理的な準備を促すことでクレームを減らせます。
最後に、ガス・電気・水道などライフラインの閉栓手続きについても案内しておくと親切です。これにより使用量の最終精算が明確になり、敷金清算を迅速に進められます。
原状回復の範囲とトラブルを防ぐ考え方

ポイントは、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(2024年改訂版)」に沿って判断することです。ガイドラインは法的拘束力こそありませんが、裁判例でも一定の基準として参照されており、2025年12月現在も最も信頼できる指標となっています。
ガイドラインでは、経年劣化や通常損耗はオーナー負担、故意・過失による損傷は入居者負担と明確に区分されています。例えばフローリングの日焼けや壁紙の軽い変色はオーナー負担ですが、タバコのヤニ汚れやペットによる引っかき傷は入居者負担になります。ここをあいまいにすると感情的な対立に発展しやすいため、写真を用いて説明し、見積書をその場で提示するのが効果的です。
なお2020年の民法改正で導入された「敷引き特約」の規制が定着し、特約が有効となるには①減価償却方式の明示②入居者の合意③金額の合理性が求められます。結論として、あらかじめ契約書で具体的に記載していない費用を差し引くことは、2025年現在ほぼ通用しません。オーナーは契約時点から透明性を確保し、退去時のトラブル予防につなげましょう。
最後に、立会い後は入居者に確認書へサインをもらいます。修繕箇所・負担区分・概算費用を盛り込んだ書式を用意し、その場で交付すると「聞いていない」というクレームを防止できます。
敷金精算の実務と法的ルール
まず押さえておきたいのは、民法第622条の2(敷金返還義務)です。オーナーは、賃借人が明け渡しを完了した時点で、敷金から未払い賃料と修繕費用を差し引いた残額を返還しなければなりません。2025年現在、返還期限は法律で明示されていませんが、国土交通省は「遅くとも1か月以内」を目安とするよう推奨しています。
実務では、退去立会い後に修繕見積もりを確定させ、入居者へ精算書を送付します。修繕業者の手配に時間がかかる場合でも、概算額を示して一次報告する姿勢が信頼につながります。敷金を超える費用が発生する場合は、写真付きの詳細見積もりを添付し、分割払いなど柔軟な提案を行うと合意形成が早まります。
支払い方法は振込が一般的ですが、電子マネーやQR決済を希望する入居者も増えています。金融庁の2025年キャッシュレス推進データによると、個人間送金の約35%がアプリ経由となりました。こうした潮流に合わせて選択肢を示すことが、若年層の満足度向上につながります。
次の入居までにやるべき修繕と募集準備
実は、空室期間の大半は「工事待ち」と「写真撮影待ち」で生じます。したがって、退去前から業者のスケジュールを確保し、立会い終了直後に鍵と現場を引き渡せる体制を整えることが重要です。
修繕では床・壁・水回りを優先し、機能回復に加えて見栄えを向上させると賃料下落を防げます。国土交通省の住宅市場動向調査(2025年版)によれば、内装をリフレッシュした部屋は、そうでない部屋と比べ平均3.2%高い賃料で成約しています。また、LED照明やスマートロックなど低コストで導入できる設備を追加すれば、入居決定までの日数が短縮される傾向があります。
募集開始は、工事完了後を待つ必要はありません。簡易清掃と室内写真の撮影が終わった段階で、ポータルサイトやSNSに掲載を始めましょう。AIによる賃料査定サービスが普及した今、競合物件の募集状況をリアルタイムで確認し、賃料設定を随時見直すことも効果的です。
管理会社と連携して効率化するコツ
ポイントは、役割分担を明確にし、情報共有をリアルタイムで行う仕組みを作ることです。退去対応が滞る原因の多くは「誰が、いつまでに、何をするか」が不透明なことにあります。
まず管理委託契約を見直し、退去立会いの立ち会者、修繕発注の裁量範囲、敷金精算書作成の責任者を明記しておきます。特に修繕費の上限額を設定し、それ以下は管理会社が即時発注できるようにすると時間を大幅に短縮できます。
さらに、チャットツールやクラウドストレージを用い、写真・見積書・精算書を共有する体制を整えましょう。総務省「令和7年(2025年)通信利用動向調査」によると、中小企業でもクラウド利用率は78%に達し、不動産管理業界でも導入が当たり前になりつつあります。リアルタイムで情報が更新されれば、オーナーの意思決定も迅速になり、空室ロスを最小化できます。
最後に、管理会社の担当者と定期的にオンライン面談を設定し、対応フローを振り返りましょう。改善策を都度共有することで、小さなミスの蓄積を防ぎ、長期的な信頼関係を築けます。
まとめ
退去通知を受けた瞬間から、現地立会い、原状回復の区分、敷金精算、そして次の募集開始までを一気通貫で管理することが賃貸経営の成否を左右します。法令とガイドラインを踏まえ、写真や書面でエビデンスを残し、費用負担の根拠を明確にすれば入居者とのトラブルは大幅に減少します。さらに、工事と募集を同時並行で進め、管理会社とリアルタイムで情報共有すれば、空室期間を最短化できるでしょう。この記事を参考に、自身の賃貸管理 退去時対応フローを点検し、早速改善策を実行に移してみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(2024年改訂版) – https://www.mlit.go.jp
- 国土交通省 住宅市場動向調査2025 – https://www.mlit.go.jp
- 金融庁 キャッシュレス決済に関する現状と課題(2025年版) – https://www.fsa.go.jp
- 総務省 令和7年通信利用動向調査 – https://www.soumu.go.jp
- 最高裁判所 民法第622条の2関連判例検索システム – https://www.courts.go.jp