突然の相続で親の不動産を共有名義にしたものの、「他の相続人と話がまとまらない」「売却したくても同意が得られない」と悩む方は少なくありません。感情が絡む上に法律や税金も関係するため、放置すると兄弟げんかや資産価値の低下につながります。本記事では、不動産 相続 共有名義の基本から2025年度の税制までをわかりやすく解説し、円満に資産を守るための具体策を提示します。読み終えたときには、今すぐ取れる行動と専門家に相談すべきポイントが整理できるはずです。
共有名義とは何か

まず押さえておきたいのは、共有名義が単なる「共同所有」ではない点です。民法では各相続人が持分割合に応じて権利を持つと定めており、たとえ三分の一の持分でも単独で家を貸したり売ったりはできません。つまり、他の共有者と合意形成を図れなければ、資産が事実上「凍結」されるリスクが高いのです。
共有名義を選ぶ場面は、遺言がなかった場合の法定相続や、相続税の節税策として複数人で所有するケースが典型例です。国税庁の統計によると、2024年度に相続税を申告した世帯のうち約29%が土地建物を複数名義で受け継いでおり、この傾向は2025年も続いています。また、相続時精算課税制度を利用して生前に贈与を受けた持分を組み込む事例も増加中です。
重要なのは、登記簿上の共有者全員の同意がなければ、賃貸借契約や抵当権設定などの行為もできない点です。さらに、共有者の一人が亡くなると、その持分はさらに相続で分散します。結果として「名義人が十数人」になる物件も珍しくありません。管理が複雑になる前に、将来のシナリオを具体的に描くことが欠かせません。
相続で共有とするメリット・デメリット

ポイントは、共有名義が相続人間の公平感を保ちやすい一方で、長期的には意思決定を鈍らせる可能性が高いことです。公平性と機動性はトレードオフになりやすく、自身の家庭状況に合わせた判断が求められます。
メリットとしてまず挙げられるのが、遺産分割協議で短期間に結論を出しやすい点です。「とりあえず共有にする」ことで深刻な対立を回避できる場合があります。また、複数人で相続すると各人の相続税評価額が減るため、基礎控除内に収まる可能性が高まります。一方で、共有状態が長引くほど固定資産税や修繕費の負担割合を巡り意見が割れることが多いのも事実です。
国土交通省の「空き家実態調査2023」では、所有者が複数いる空き家の約六割で管理者が決まっておらず、草木の繁茂や老朽化が進行しているとの報告がありました。さらに、2025年4月施行の改正空家対策特別措置法では、放置空き家に対する行政指導が強化され、是正命令に従わない場合は固定資産税が最大六倍になる可能性があります。共有名義のまま空き家を放置すると、税負担が膨らむ点に注意が必要です。
共有名義の活用方法と手続き
実は、共有名義でも上手に管理すれば安定収益を得ることができます。具体的には「管理委託契約を一本化し、賃料を持分比率で分配する」方法が代表例です。賃貸管理会社と代表共有者が契約し、共益費や修繕積立金をあらかじめ口座でプールしておくと、トラブルを最小限に抑えられます。
手続き面では、2025年度も引き続き利用できる登録免許税の軽減措置が活用可能です。相続を原因とする所有権移転登記は、本来なら固定資産評価額の0.4%が課税されますが、相続登記は固定税率が0.4%から0.2%に軽減される特例が継続見込みとなっています。登記を怠ると、2024年4月に施行された相続登記義務化によって、過料(10万円以下)のリスクが生じるため、早期手続きが不可欠です。
共有名義を円滑に機能させるためには「遺産分割協議書に管理方法を明記する」「共有者間で定期的な収支報告書を共有する」など、ルールの文書化が必須となります。金融機関から融資を受けてリフォームを行う場合は、共有者全員の印鑑証明が求められるため、事前に委任状のフォーマットを合意しておくと手続きがスムーズです。
売却・分割・持分譲渡の選択肢
共有名義を解消する代表的な方法は三つあります。
- 物件ごと第三者に売却して現金を分ける
- 代償分割で一人が物件を取得し、他の共有者に代償金を支払う
- 持分のみを譲渡または売却して共有関係を抜ける
まず物件を丸ごと売却する方法は、早期に現金化できる点が魅力です。しかし買主が住宅ローンを利用する場合、全共有者が抵当権設定に同意しなければならず、スケジュール調整が容易ではありません。
代償分割では、一人が金融機関の「共有持分買い取りローン」や「相続手続き融資」を活用し、代償金を用意します。2025年度は金融庁の監督指針に沿い、共有持分の評価を実勢価格の70%前後とする銀行が増えています。評価が下がる分、借入額も抑えられるため、返済負担を軽減しやすい点がメリットです。
持分譲渡は最も手軽に見えますが、譲渡先の第三者と他の共有者がうまく協調できるかが問題です。また、自分の持分を売却した時点で譲渡所得税が課税されます。譲渡所得は「売却価格−取得費−譲渡費用」で計算され、所有期間が5年超であれば20.315%、5年以下なら39.63%の税率です。税負担と関係性の変化を天秤にかけ、慎重に判断しましょう。
2025年度の税制と注意点
重要なのは、税制が共有名義の意思決定に大きく影響する点です。2025年度も小規模宅地等の特例が継続見込みで、自宅土地330㎡までの評価額を最大80%減額できます。ただし、配偶者か同居親族が相続後も居住することが条件です。共有名義にした結果、誰も住まなくなると特例を受けられず、相続税額が跳ね上がる恐れがあります。
また、相続時精算課税制度は2024年の改正で基礎控除が年間110万円に拡大され、2025年度も適用可能です。生前贈与で子が持分を取得している場合、相続開始時に再計算される点を忘れないでください。贈与当時の評価額で相続財産に加算するため、市況が下落していれば税負担が割安になる一方、上昇していれば逆効果になります。
固定資産税についても留意が必要です。総務省の通知によると、2024年度から評価額が地価公示に連動しやすい方式へ移行し、都市部の標準宅地は平均3%前後の上昇が見込まれました。2025年度も同水準で推移する可能性が高く、共有者間で税負担をどう按分するか早めに協議しておくことが肝心です。
まとめ
共有名義は相続人間の公平を図りやすい反面、管理や処分で全員の合意が必須となる点が最大の弱点です。空き家対策法の強化や相続登記義務化など、2025年は放置リスクが一段と高まっています。共有を続けるなら管理ルールを文書で取り決め、解消するなら売却・代償分割・持分譲渡の違いを理解して早期に着手しましょう。専門家への相談を先送りせず、家族会議を開くことが円満相続への近道です。
参考文献・出典
- 国税庁 相続税の申告事績 – https://www.nta.go.jp/
- 国土交通省 空き家実態調査2023 – https://www.mlit.go.jp/
- 法務省 相続登記義務化ガイドライン – https://www.moj.go.jp/
- 総務省 固定資産税に関する通知 – https://www.soumu.go.jp/
- 金融庁 共有持分ローンに関する監督指針 – https://www.fsa.go.jp/