不動産オーナーとして初めて一棟アパートを手に入れたとき、最初にぶつかる壁が確定申告です。家賃収入が給与収入と重なると、税金がどれほど増えるのか不安になる方が多いでしょう。しかし正しい申告を行えば、合法的に節税しキャッシュフローを守ることができます。本記事では、2025年12月時点の最新ルールを踏まえながら、申告の基本から経費計上のコツ、優遇制度の活用方法まで順を追って解説します。読み終える頃には、毎年の確定申告を単なる義務ではなく、利益最大化のチャンスへと変える視点が身につくはずです。
なぜ確定申告が利益を守るカギになるのか

まず押さえておきたいのは、申告の目的が「税額計算」だけではないという点です。青色申告を選択すれば最大65万円の特別控除が使え、赤字が出た年は3年間の繰越控除で翌年以降の税負担を軽減できます。逆に計算ミスや期限後申告は、延滞税や無申告加算税といったペナルティにつながり、利回りを大きく損ないます。
2025年分の申告期限は2026年3月16日(月)ですが、電子申告(e-Tax)を利用すると最長で24時まで送信できるため、事前準備をしておけばギリギリで駆け込むリスクを減らせます。また、インボイス制度が導入済みの今、適格請求書の保存が青色申告特別控除の要件に含まれるため、領収書管理の精度が一段と重要になりました。つまり、正確かつ迅速な確定申告こそが、一棟アパート経営の収益を守る最前線なのです。
経費になる項目を正しく把握する

重要なのは、家賃収入に直結する支出だけでなく、間接的な支出まで視野に入れることです。具体的には、ローン利息、管理委託手数料、共用部の電気料金、火災保険料などが代表例です。これらはすべて不動産所得の必要経費となり、課税所得を圧縮します。
一方で私的支出との線引きが曖昧になりやすいのが、現地視察の交通費やセミナー参加費です。国税庁の質疑応答事例では、「物件管理や経営改善に直接必要と認められる費用」は経費として認められるとされています。言い換えると、目的や内容を説明できる領収書と日報を残しておくことで、税務調査でも安心できるわけです。
さらに2025年度も継続している「少額減価償却資産の特例」により、30万円未満の備品は一括償却が可能です。鍵交換やLED照明の導入など小口投資が多い一棟アパートでは、この特例の有無で当期利益が大きく変わります。経費の取りこぼしを防ぐため、クラウド会計ソフトに領収書を即時アップロードする習慣を持つとよいでしょう。
減価償却と修繕費の判断ポイント
実は、減価償却の計算方法を誤ると数年後に追徴課税を受けるケースが少なくありません。木造アパートは法定耐用年数22年、鉄骨造は34年、RC造は47年と定められ、取得価額から土地代を差し引いた金額が毎年の費用になります。ここで設備部分の区分を忘れると、償却期間を短縮できるチャンスを逃すため要注意です。
修繕費と資本的支出の線引きも悩ましい点です。国税庁は、機能維持を目的とする修繕は即時経費、価値を高める改良は資本的支出と示しています。たとえば外壁塗装のうち、ひび割れ補修だけなら修繕費として一括計上可能ですが、デザイン変更を伴う全面張り替えは資本的支出になり、長期償却となります。
ポイントは、請負契約書を「修繕」「改修」など目的別に分け、写真や見積明細を添付しておくことです。これにより税務署から質問があっても、支出の性格を説明しやすくなります。なお、2025年度から新たに導入された定額法の加速償却制度は賃貸住宅には適用外のため、誤って適用しないよう確認しましょう。
2025年度の税制優遇と注意点
まず知っておきたいのは、青色申告特別控除65万円の適用条件が電子帳簿保存とe-Tax送信に一本化された点です。紙ベースでの保存だけでは55万円控除に下がるため、帳簿ソフトの電子保存対応を早急に済ませましょう。また、マイナンバーカードとICカードリーダーがあれば署名手続きが簡単になっています。
エネルギー効率の高い賃貸住宅に対する固定資産税の減額措置も2025年度まで延長されています。ただし減額率は新築後3年間で2分の1に縮小し、認定低炭素建築物かつ延べ床面積が200㎡以下であることが条件です。一棟アパートでも該当すれば年間数十万円の節税効果が期待できますが、自治体への申請期限は竣工後90日以内なので注意が必要です。
一方で、家賃収入が1,000万円を超えた場合の消費税課税は引き続き重要な論点です。住宅の貸付は原則非課税ですが、自販機や駐車場収入は課税売上に含まれます。簡易課税制度を選ぶときは、課税売上割合と仕入税額控除のバランスをシミュレーションし、逆に損をしないようにしましょう。
見落としやすい申告手順とスケジュール管理
ポイントは、申告作業を「記録」「集計」「提出」の三段階に分けることです。毎月の家賃入金と支出を銀行連携で自動取り込みし、月次で損益を可視化しておけば、年末にまとめて作業するより精神的にも楽になります。
また、所得税だけでなく住民税・事業税の試算も並行して行うと、翌年度のキャッシュフロー計画が立てやすくなります。例えば東京都の場合、家賃収入に対する事業税率は5%ですが、経費控除後の所得が290万円以下であれば非課税です。こうした基準を把握することで、節税策を選択する判断材料が増えます。
最後に、税理士へ依頼する場合でも領収書の整理はオーナーの責任です。国土交通省の2025年10月調査では、全国アパート空室率は21.2%と依然高水準にあるため、突発的な賃料下落リスクを見据えた資金繰りが欠かせません。申告準備を通じて経営状況を定点観測する姿勢が、長期的な安定収益につながります。
まとめ
ここまで、一棟アパート 確定申告の基本から2025年度の最新税制まで解説してきました。青色申告の活用、正確な経費計上、減価償却の適切な区分、そして優遇制度の期限管理が、税負担を抑えキャッシュフローを守る鍵です。申告は単なる年一回の作業ではなく、物件経営を俯瞰する大切なプロセスと捉えてください。早めの準備と記録の習慣化で、税金を味方に付けた健全な不動産投資を実現しましょう。
参考文献・出典
- 国税庁 – https://www.nta.go.jp
- 財務省 – https://www.mof.go.jp
- 国土交通省 住宅統計調査 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省 e-Tax ポータル – https://www.e-tax.nta.go.jp
- 中小企業庁 経営サポート情報 – https://www.chusho.meti.go.jp