不動産の税金

築20年リスクを味方にする投資術

築20年前後の中古マンションやアパートは、価格が新築より抑えられる一方で「本当に大丈夫だろうか」と不安を抱く人が少なくありません。設備の老朽化、融資条件の厳格化、入居者ニーズの変化など、気になる要素は多岐にわたります。しかし、リスクを正しく把握し対策を講じれば、利回りを高められる狙い目でもあります。本記事では、築20年の物件に潜むリスクを整理しつつ、データと実例を交えて対処法を解説します。読み終える頃には、リスクを危険ではなく「チャンス」と捉える具体的な視点が身につくはずです。

築20年は「曲がり角」か「狙い目」か

築20年は「曲がり角」か「狙い目」かのイメージ

重要なのは、築20年が設備更新と価格調整のタイミングだという事実を理解することです。国土交通省の不動産価格指数によれば、首都圏の区分マンションは築15〜25年で価格下落が緩やかになり、以降は価値が安定しやすい傾向があります。つまり、購入時点で割安感が出る一方、家賃が急落しづらくなる局面でもあるのです。

まず価格面を考えると、築20年物件は新築時の約6割まで値下がりしているケースが一般的です。また、固定資産税も評価額が下がるため、保有コストが軽くなります。さらに、建物躯体(くたい)が鉄筋コンクリート造なら耐用年数47年とされ、法定耐用年数の折り返し点を過ぎたばかりです。税務上の減価償却メリットがまだ残っている点も投資家に有利に働きます。

一方で、築20年を超えると金融機関が融資期間を短縮する場合があります。融資期間が20年以下になると月々の返済額が大きくなるため、キャッシュフローが圧迫されやすいのは事実です。ただし、地銀やノンバンクが個別審査で25年融資を出す例もあり、自己資金比率や返済比率を調整すれば対応可能です。

見落としがちな建物リスクと法的チェック

見落としがちな建物リスクと法的チェックのイメージ

実は、築20年の建物で最も注意すべきは構造よりも設備の更新履歴です。給排水管や給湯器、エアコンなどの設備寿命は15〜20年が目安とされ、更新を怠ると漏水事故や急な退去を招くリスクがあります。購入前には、管理組合の長期修繕計画や過去の工事記録を必ず確認し、近い将来に高額な修繕が集中していないか見極めましょう。

また、法令面の確認も欠かせません。2000年の改正建築基準法以降、耐震基準適合証明が取りやすくなっていますが、1995年以前に建てられた物件は現行耐震基準を満たしているか個別調査が必要です。耐震診断を実施し、必要に応じて補強工事コストをシミュレーションしておくと安心です。

さらに、区分マンションの場合は管理状態が資産価値を左右します。総務省「住宅・土地統計調査」では、管理費滞納率が高い物件ほど数年で修繕計画が遅れる傾向が明らかになっています。売買契約前に管理費・修繕積立金の滞納額をチェックし、組合が健全に運営されているか確認してください。

賃貸経営の数字で見る築20年のリアル

ポイントは、築年数と賃料下落が直線的に連動しない点にあります。東京都都市整備局のデータでは、築5年ごとに賃料が平均5〜7%下がるものの、築20年を過ぎると下落幅は2%程度に鈍化しています。空室率も同様に、築浅と比べて大きく跳ね上がるわけではなく、立地と管理状態が大きな差を生みます。

キャッシュフローを分析すると、購入価格が低いため利回りは8%前後になる例が多く、新築の5%と比べて表面利回りだけで約3ポイントの差があります。もちろん修繕費を想定に入れる必要がありますが、月間家賃収入の1〜1.5割を修繕積立として計上しても、手残りが確保できるケースが珍しくありません。

融資条件が厳しい場合は、自己資金を2割ではなく3割入れることで返済比率を下げられます。例えば、物件価格2000万円、金利2.2%、期間20年で計算すると、自己資金2割の月返済額は約8万2千円ですが、3割入れると約7万円に減少し、年間で15万円以上の余裕が生まれます。空室が1カ月発生しても赤字になりにくく、長期運営が現実的になります。

リノベーション戦略で価値を上げる方法

まず押さえておきたいのは、築20年の室内を「今の標準」に合わせるだけで賃料アップが期待できる点です。国土交通省「賃貸住宅市場景況調査」では、表層リフォームに約50万円を投じた場合、月額賃料が平均3千〜5千円高くなると報告されています。単純計算で回収期間は1年弱と短く、投資効率が高いことがわかります。

さらに、間取り変更や水回り設備の刷新を含む本格リノベーションを行うと、築25年でも新築同等の賃料を実現するケースがあります。ここで注意すべきは、費用対効果を冷静に測ることです。リノベ費用が家賃増額の140カ月分を超えると、20年運営でも利益が圧縮されるため、工事項目を精査し「見える部分」を重点的に刷新するのが得策です。

また、2025年度は住宅省エネ改修に対する補助金制度が継続予定で、窓の断熱改修や高効率給湯器の導入に対し最大50万円の補助が受けられます。条件を満たせば投資回収期間をさらに短縮できるため、必ず施工会社に申請可否を確認してください。省エネ性能が高まれば光熱費削減を訴求でき、入居者の満足度向上にもつながります。

長期視点で考える融資と出口戦略

重要なのは、購入時だけでなく売却時のシナリオまで描くことです。日本政策金融公庫の調査によると、築30年以上の区分マンションでも立地が良好なら実需層への売却が可能で、首都圏では平均4カ月で成約に至っています。一方で地方都市は流動性が低く、売却まで1年超かかる例もあるため、取得時に出口の選択肢を複数用意しておく必要があります。

融資期間を短くせざるを得ない物件は、繰上返済計画を早期に立てましょう。家賃収入のうち手残りの50%を返済原資に充てると、実質返済期間を3〜4年短縮でき、売却益の最大化につながります。繰上返済するときは、元金と利息のバランスを見て「期間短縮型」を選ぶと総支払額を減らしやすい点も覚えておきたいところです。

出口戦略の一環として、相続対策を意識する投資家も増えています。築20年物件は路線価が低く、相続税評価額を抑えやすいのが特徴です。さらに、賃貸中物件の評価額は自用の8割程度に圧縮されるため、資産承継のツールとして利用価値が高いといえます。賃料収入を得ながら評価額を抑える仕組みを理解すれば、家族への資産移転もスムーズになります。

まとめ

築20年の物件は、設備更新や融資条件など課題がある一方、価格の安定、税務メリット、高利回りといった利点が揃っています。ポイントは、建物調査と管理状態の確認を徹底し、修繕費と資金計画を数値で把握することです。さらに、省エネリノベや繰上返済を組み合わせれば、キャッシュフローの安定と資産価値の向上を同時に狙えます。物件選定から出口戦略まで一貫してリスクを管理すれば、「築20年リスク」はむしろ投資家の味方になるでしょう。次の物件探しでは、本記事で得た視点を活用し、チャンスを着実にものにしてください。

参考文献・出典

  • 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp/
  • 国土交通省 賃貸住宅市場景況調査 – https://www.mlit.go.jp/
  • 総務省 住宅・土地統計調査 – https://www.stat.go.jp/
  • 東京都都市整備局 住宅市場動向 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/
  • 日本政策金融公庫 不動産担保評価に関する調査 – https://www.jfc.go.jp/

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