不動産投資を始めようとすると、数字の多さに戸惑う方が少なくありません。特に一棟アパートは金額も責任も大きく、シミュレーションなしでは不安が残ります。とはいえ専門家へ相談する前に、自分で収支を組み立てておくと判断が格段に速くなります。本記事では、一棟アパート シミュレーションの考え方と作り方を丁寧に解説し、2025年時点で押さえるべき税制や市場データを踏まえつつ、実践的な収益予測の方法をお届けします。
一棟アパート投資の全体像を掴む

まず押さえておきたいのは、区分マンションと比べて一棟アパートは「事業」に近いという点です。購入価格が大きい分、融資期間や金利が収益に与える影響も大きくなります。さらに空室が一戸だけでも家賃収入が数%減るため、運営手腕が結果を左右します。国土交通省の2025年10月調査では全国平均空室率が21.2%と発表され、前年比でわずかに改善したとはいえ油断できません。つまり、収支シミュレーションで保守的な前提を置くことが成功の前提条件になるのです。
一棟アパートでは土地と建物をまとめて取得するため、減価償却費という非現金の経費を活用できる点も魅力です。木造なら最短22年、鉄骨なら34年の法定耐用年数があり、築古でも投資効率を高められます。さらに建物全体を自由にリフォームできるため、長期的には物件価値を引き上げる戦略も取りやすくなります。こうした特徴を踏まえ、シミュレーションでは「収入」「支出」「税金」「キャッシュフロー」の四つを軸に組み立てると全体像が掴みやすくなります。
シミュレーションで押さえる収支項目

ポイントは、表面利回りだけで判断しないことです。表面利回りとは年間家賃総額を購入価格で割った単純な指標ですが、ここに経費や空室リスクは含まれていません。実際の手残りを把握するには、運営費率や税金を差し引いた「実質利回り」が欠かせません。運営費率は木造で20%、鉄骨で15%程度を基準にし、管理委託や修繕積立を含めると安心です。
さらに家賃下落もシミュレーションに入れるべき要素です。総務省の家賃指数は年0.5%前後で推移していますが、地方では下落幅が大きい場合もあります。期間を30年と仮定するなら、最初の10年で年1%、その後は0.5%といった現実的な設定が必要です。保守的すぎると購入のチャンスを逃すものの、楽観的すぎると融資返済に行き詰まります。バランスを取るためには、複数のシナリオを作って比較することが有効です。
購入前に試すキャッシュフローパターン
実は、キャッシュフローの山と谷を事前に把握すると精神的な余裕が生まれます。融資を受けて買う場合、返済額は固定化されますが、家賃収入は景気や空室で変動します。このギャップを埋めるのが、予備費という安全網です。家賃の3カ月分を運転資金として用意しておくだけで、突発的な設備故障が起きても慌てずに済みます。
ここではシミュレーションの手順を簡潔に整理します。
- 家賃収入と空室率を年間ベースで入力
- 運営費・修繕費・保険料を毎年引く
- 減価償却費と利息を計上し税引前利益を算出
- 所得税・住民税を控除し税引後キャッシュフローを確認
この流れをエクセルや専用アプリで回せば、購入初年度から10年目、20年目にかけての資金繰りが一目で見えるようになります。グラフ化して、キャッシュフローがマイナスに落ち込む年を事前に把握すれば、追加投資や借り換えのタイミングを計画的に決められます。
リスクシナリオと出口戦略を描く
重要なのは、良い時期だけでなく悪い時期を想定することです。例えば金利が上昇して0.5%上がると仮定すると、返済額が年間数十万円増えるケースもあります。日銀の金融政策による影響は避けられないため、金利上昇シナリオを必ず検証しましょう。また、退去が重なると空室率が一時的に30〜40%に達する可能性もあります。この場合でも返済が滞らないかどうか、シミュレーションで確かめておくと安心です。
出口戦略としては、10年後に一括売却するケースと、長期保有し家賃で稼ぎ続けるケースの二択が一般的です。国税庁の統計によると、不動産を5年超で売却すると長期譲渡所得となり、税率は約20%に下がります。したがって売却益を狙うなら6年目以降のシナリオも作成し、ローン残債との比較で手取り金額を試算します。一方で、家賃収入を老後資金に充てるなら、築25年を超えたあたりで大規模修繕が必要になる前提を置き、修繕積立を多めに計上しておくとキャッシュフローが崩れにくくなります。
2025年度の制度と税制を織り込む方法
まず押さえておきたいのは、2025年度も継続している住宅ローン控除の仕組みです。住居用と異なり賃貸用ローンは控除対象外ですが、個人が取得する場合、所得税の損益通算は可能です。減価償却で赤字を作り、給与所得と相殺する節税効果をシミュレーションに入れるだけで、手取りが大きく変わります。
不動産取得税の特例措置も2025年度末まで延長されており、課税標準を軽減する効果があります。具体的には建物評価額から1200万円を控除できるため、築浅物件ほどメリットが大きくなります。また2025年度の固定資産税は、一定の耐震・省エネ改修を行った場合に3年間半額となる制度が継続中です。これらを活用すると、シミュレーション上の支出が数十万円単位で減ります。
さらに中小企業庁の「省エネ投資促進税制」は、賃貸住宅の共用部に高効率照明を導入した場合、特別償却30%が認められています。法人で一棟アパートを保有する場合は、初年度の減価償却が増えるため、課税所得を圧縮できます。このように2025年度時点で確実に使える制度を組み入れることで、実質利回りを数ポイント押し上げることも可能です。
まとめ
記事を通じて、一棟アパート シミュレーションの組み立て方を解説しました。重要なのは、空室率や金利上昇といった悲観シナリオまで織り込み、税制優遇を最大限活用することです。シミュレーションを丁寧に作れば、購入の是非だけでなく、保有中の資金繰りや出口戦略まで見通せます。まずはご自身の予算と目的に合わせて数字を入力し、手残りがどこで伸び縮みするのかを確認してみてください。行動に移す勇気は、緻密な準備から生まれます。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計調査 2025年10月速報 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省 家計調査 家賃指数 2025年版 – https://www.stat.go.jp
- 国税庁 長期譲渡所得の税率 – https://www.nta.go.jp
- 中小企業庁 省エネ投資促進税制 2025年度概要 – https://www.chusho.meti.go.jp
- 日本銀行 金融政策決定会合議事録 2025年9月 – https://www.boj.or.jp