不動産投資を始めようとすると、「新築ならとりあえず安心」という声をよく耳にします。しかし実際には、家賃が想定より伸びない、維持費が重くてキャッシュフローが赤字になるなど、購入後に頭を抱えるケースが後を絶ちません。本記事では、こうした失敗を避けるために欠かせない「新築 シミュレーション」の考え方と具体的な作り方を解説します。読了後には、数字に基づいた判断軸を手に入れ、物件選びから融資交渉まで自信を持って進められるはずです。
新築投資でシミュレーションが欠かせない理由

まず押さえておきたいのは、新築物件でも想定外のコストやリスクが存在するという事実です。国土交通省の「住宅経済関連データ」によると、首都圏の新築ワンルームの平均価格は10年前より約25%上昇しています。一方で賃料は同期間で6%程度の伸びにとどまり、利回りは年々低下しています。つまり、表面利回りだけを見て購入を決めると、返済比率が高止まりしキャッシュフローが極端に薄くなるのです。
さらに新築は建築直後の空室リスクが低いものの、家賃が周辺相場より高く設定される傾向があります。三年目以降に賃料を適正水準へ下げざるを得なくなると、想定していた利回りが簡単に崩れます。このように「新品である安心感」が判断を曇らせるため、購入前の精緻なシミュレーションが欠かせません。
重要なのは、楽観的な家賃と金利を前提にしないことです。入居率90%、金利1.5%で組んだ計画が、空室期間や金利上昇で破綻する例は枚挙にいとまがありません。投資家は最初から「悪いシナリオ」を織り込んで資金計画を立てる必要があります。
購入前に押さえる収支シミュレーションの作り方

ポイントは「年間キャッシュフロー」を具体的な数値で算出することです。家賃収入から管理費、固定資産税、ローン返済額を差し引き、年間でいくら手元に残るかを把握します。住宅金融支援機構の「民間住宅ローン実態調査」では、2025年時点の投資用ローン金利は固定1.9〜3.0%が主流と示されています。ネット上で見かける1%台の金利は、条件が限られることを念頭に置きましょう。
シミュレーションの流れは、以下の四段階に整理すると理解しやすくなります。
- 想定家賃と空室率を設定し、年間総収入を試算
- 管理費・修繕積立金・税金など運営コストを引き、営業純利益を算出
- ローン返済額を差し引き、税引き前キャッシュフローを把握
- 所得税・住民税を加味し、手取り額を確認
実は、多くの初心者が見落とすのは「ローン繰上返済をしない場合の30年後残債」です。家賃下落が続くと売却しても残債が完済できず、資産どころか負債を抱えるリスクが生じます。したがって、出口戦略として10年、20年後の売却価格も同時に試算し、残債を上回るか確認しておくことが肝要です。
入居率と賃料下落をどう想定するか
実は、シミュレーションの精度を左右する最大の要素は入居率です。総務省統計局の「住宅・土地統計調査」では、全国の賃貸住宅空室率は2023年時点で13.8%に達しています。首都圏の新築に絞れば平均空室率は5%前後ですが、郊外や地方都市では15%を超えるエリアも珍しくありません。
そこで、物件所在地の人口動態と将来推計を確認し、賃料下落ペースを慎重に見積もる必要があります。都道府県の統計資料や都市整備局の住宅市場動向を参照し、人口が減少しているエリアでは家賃下落を年1%ではなく年2〜3%で設定するのが安全です。たとえば月8万円の家賃を年2%ずつ下落させると、10年後は約6万5千円まで下がります。この差額は年間18万円、10年で180万円の収入減となり、ローン返済に直結します。
ポイントは「平均空室率×家賃下落率」を組み合わせ、複数パターンを作ることです。悲観シナリオでもキャッシュフローがプラスになる物件を選べば、想定外の事態が起こっても致命傷を避けられます。
修繕・減価償却・税金のシミュレーション
まず押さえておきたいのは、新築でも10年目以降に大規模修繕が必ず発生するという現実です。国土交通省ガイドラインによれば、外壁補修・屋上防水・給排水管の更新で、のべ床面積30㎡の部屋1戸あたり60〜80万円の費用が目安とされています。区分所有であっても、修繕積立金の不足分が一括徴収されるケースは少なくありません。
減価償却費は、建物価格を耐用年数で割り経費計上する仕組みです。木造新築なら22年、RC造なら47年が法定耐用年数ですが、購入価格のうち土地分は償却できない点に注意してください。減価償却を計画的に活用すると、所得税・住民税の圧縮効果が期待できます。しかし耐用年数超過後は経費計上額が減るため、納税額が増える点も忘れずにシミュレーションしましょう。
さらに、2025年度の住宅ローン減税は原則として自己居住用のみが対象で、投資用新築には適用されません。そのため税メリットを過度に見込まず、工学的な修繕費や固定資産税評価額を正確に試算することが重要です。
資金調達と金利変動リスクのシミュレーション
重要なのは、金利1%上昇で返済額がどれほど変わるかを具体的に計算することです。たとえば3,000万円を期間30年、元利均等で借り、当初金利1.8%の場合、月々の返済額は約10万9千円です。金利が2.8%に上昇すると、月返済は約12万4千円へ増加し、年間18万円近い負担増になります。キャッシュフローが年間プラス20万円しかない計画なら、金利1%の上昇で簡単に赤字へ転落するのです。
一方で、長期固定金利に切り替えると金利は高めに設定されます。金利が下降局面なら変動を選択し、上昇局面では固定で守るなど、市場環境を見ながらシミュレーションを複数作成すると安心感が増します。日本銀行の金融政策決定会合の議事要旨や長期金利の推移を定期的に確認し、必要に応じて借り換えや繰上返済を検討しましょう。
また、自己資金比率が20%を超えると金利優遇を受けやすい傾向があります。自己資金ゼロでも融資が出る広告を見かけますが、金利が高く、修繕積立金も薄くなりがちです。つまり、自己資金を十分に用意し、複数の金融機関を比較することが、シミュレーションの前提を強固にする最短ルートと言えます。
まとめ
本記事では、新築物件であっても家賃下落、空室、修繕、金利上昇といった多面的なリスクを数値化し、「新築 シミュレーション」で検証する重要性を解説しました。入居率と賃料を厳しめに見積もり、修繕費や税金も漏れなく計上すれば、投資判断は格段に精度を増します。最後に、楽観シナリオだけでなく悲観シナリオでもキャッシュフローが黒字になる物件を選ぶことが、長期的な資産形成の近道です。シミュレーション結果を武器に、金融機関との交渉や物件選定を自信を持って進めてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅局 – https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/
- 総務省統計局 「住宅・土地統計調査」 – https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/
- 住宅金融支援機構 「民間住宅ローン実態調査」 – https://www.jhf.go.jp/
- 東京都都市整備局 「住宅市場動向」 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/
- 不動産流通推進センター 「不動産流通市場動向」 – https://www.retpc.jp/