人口減少時代でも安定した家賃収入を求める人が増えていますが、木造より耐久性が高い鉄骨造をどう始めればよいのか不安を抱く方は少なくありません。資金計画や物件選び、管理のコツを知らずに契約を急げば、思わぬ出費や空室リスクに悩まされる恐れがあります。本記事では、鉄骨造 始め方の基本を丁寧に解説し、2025年12月時点で利用しやすい融資や税制の情報も織り交ぜます。読み終えるころには、必要な準備と行動ステップが具体的に見えてくるはずです。
鉄骨造の特徴とメリット

まず押さえておきたいのは、鉄骨造が木造とRC(鉄筋コンクリート造)の中間に位置する構造である点です。国土交通省の2024年度建築着工統計によると、賃貸アパートの約27%が鉄骨造で、10年前に比べ微増しています。耐久性と建築コストのバランスが良く、減価償却期間(法定耐用年数34年)が木造より長い一方で、RCより短いことから、税務上の節税効果とキャッシュフローの両立が期待できます。
重要なのは、耐震性能とメンテナンスコストの関係です。鉄骨造は柱と梁を溶接またはボルト接合するため揺れに強く、戸あたり修繕費が抑えられる傾向にあります。日本損害保険協会の地震リスク試算では、同規模木造に比べ保険料が平均15%程度低くなる事例も報告されています。つまり、長期保有を前提にすると、運営費の予見性が高い点が投資家にとって大きな魅力です。
一方で、建築コストは木造より1割ほど高くなるのが一般的です。これを補うために、FIRE(早期リタイア)を目指す投資家は、家賃設定を周辺相場より5%ほど高めに設定するケースがあります。しかし、高い家賃だけでは選ばれません。遮音性を高める二重床工法や共用部のデザイン性を向上させることで、空室期間を短縮する戦略が効果的です。
資金計画と融資のポイント

ポイントは、自己資金と融資をどう組み合わせるかです。金融庁「2025年度金融レポート」によると、地方銀行や信用金庫で鉄骨造アパート向けの融資審査は、自己資金20%以上を目安に返済比率(年間返済額 ÷ 年間家賃収入)が40%以下であれば比較的通りやすい傾向にあります。
資金計画を立てる際は、建築費だけでなく諸費用も加味してください。設計料や確認申請費用に加え、火災保険・地震保険の初年度一括払い、登記費用、仲介手数料などが合計で建築費の7〜10%前後かかります。また、2025年度税制改正で継続中の固定資産税の新築減額(住宅部分・床面積要件あり)は2年間適用されますが、3年目から元に戻るためキャッシュフローが一時的に落ち込む点も織り込む必要があります。
さらに、金利タイプの選択が長期収益に影響します。日銀のマイナス金利解除後も、2025年12月時点で長期固定金利は2%前後、変動金利は1%台前半で推移しています。金利上昇リスクを抑えたいなら、融資額の半分を固定、残りを変動にするミックス型も選択肢です。シミュレーションでは、金利上昇2%・空室率15%でも手元キャッシュが赤字にならないか確認しましょう。
返済期間は法定耐用年数以内が基本ですが、中古鉄骨造を取得してリノベする場合は残存耐用年数が短くなり、融資期間も圧縮されがちです。リフォーム費用込みで長期融資が必要な場合、「長期優良住宅化リフォーム推進事業」(2025年度・最大250万円補助)を活用し、躯体の耐震性能を高めつつ金融機関の評価を上げる方法もあります。
物件選びとエリア分析
まず物件選びで意識したいのは、駅距離と周辺人口動態の両面を数値で確認することです。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、地方圏の若年人口は2035年までに14%減少する見込みです。そのため、駅徒歩10分圏内かつ近隣に大学や工業団地があるエリアは、将来も賃貸需要が底堅いといえます。
一方で、郊外でも家賃と広さのバランスを重視するファミリー層を狙う戦略があります。この場合、自治体の子育て支援策や保育園の待機児童数を確認し、入居者が長く住みやすい環境かをチェックします。例えば、埼玉県三郷市は2025年度も子育て住宅取得支援補助を継続しており、ファミリー層の流入が続くと予測されています。
物件内部の空間設計も競争力を左右します。鉄骨造は柱と梁で構造を支えるため、壁構造の木造より間取り変更がしやすいのが利点です。IoT設備を後付けできる可変性をアピールすれば、単身者向けでも家賃を下げずに満室を維持しやすくなります。
リスクとして忘れてはならないのが、供給過剰エリアです。国土交通省の賃貸住宅市場データによれば、2025年時点で郊外主要駅から徒歩15分超の築20年以上鉄骨造物件は空室率が平均18%に達しています。購入前には過去3年分の募集賃料と成約賃料を比較し、下落トレンドに入っていないかを確認してください。
建築・リノベーションで注意すべき点
重要なのは、コストコントロールと長期修繕計画の両立です。新築の場合、鉄骨材の価格は2022年から高止まりしていましたが、2025年4月の関税調整で輸入鋼材が1割ほど値下がりし、建築費も下げ基調にあります。その一方、断熱等級6以上の省エネ基準が標準化しつつあり、断熱材コストが増える点には注意が必要です。
リノベーションでは、耐火・遮音性能を満たせるかが最大の課題です。消防法では延べ面積500㎡超の鉄骨造共同住宅にスプリンクラー設置義務があるため、築古物件を買う前に消防署との事前協議を行い、追加コストを見積もりましょう。また、国交省「長期優良住宅化リフォーム」の技術審査に通れば最大250万円の補助を得られるため、構造補強と同時に採光改善やバリアフリー化を進めると入居者満足度が上がります。
施工会社の選定は、アフターサービスの体制を重視してください。保証期間中の無償点検や、24時間駆けつけサービスがあるかで入居者対応のスピードが変わります。加えて、建築確認図面と実際の施工内容が一致しているか第三者機関に検査を依頼すれば、将来の売却時に「構造図が整っている物件」として高く評価されやすくなります。
運営管理と出口戦略
実は、運営管理の質が長期収益を左右します。総合管理会社に委託する場合でも、オーナーがKPI(重要業績評価指標)を持つことが欠かせません。具体的には、年間入居者入替率15%以下、原状回復工事1室あたり15万円以下、月次入金遅延率1%未満を目標に置くと、家賃収入のブレを最小化できます。
入居者ニーズの把握には、毎年アンケートを実施して改善点を洗い出しましょう。鉄骨造は間仕切り変更が容易なため、小規模なリノベでレントロール(賃貸条件一覧)を改善する余地があります。例えば、1Kを1LDKに転換したところ、家賃が1.3倍になり空室期間が半減した事例も見られます。
出口戦略としては、新築後10年以内に売却する「短期転売型」と、法定耐用年数終了後に土地値で売る「長期保有型」があります。2025年12月時点の東証REIT指数はやや調整局面にありますが、個人投資家の現物不動産取得意欲は高まっており、築浅鉄骨造アパートの表面利回り5%前後でも売却は比較的容易です。一方、長期保有型では土地の将来価値が重視されるため、都市計画道路や再開発情報を継続的にチェックし、将来の買い手が付きやすいポテンシャルを確保しましょう。
最後に、相続対策としての活用も視野に入れると出口が多様化します。相続税評価額は建築費より低くなる傾向があるため、賃貸併用住宅や法人名義での保有を検討すると、家族全体の資産形成にもメリットが生まれます。
まとめ
鉄骨造 始め方で大切なのは、構造の特性を理解しながら、資金計画・物件選び・建築管理・出口戦略を一貫して設計することです。耐震性やメンテナンス性に優れる鉄骨造は長期収益を支えますが、建築費やエリア需給を見誤るとキャッシュフローが崩れます。この記事で紹介した補助金や融資の最新情報、KPI管理の考え方を活用し、まずは小さく試算を回しながら次の一歩を踏み出してください。継続的な学習とデータ確認を怠らなければ、安定した不動産ポートフォリオを築けるはずです。
参考文献・出典
- 国土交通省 建築着工統計 2024年度版 – https://www.mlit.go.jp/
- 金融庁 2025年度金融レポート – https://www.fsa.go.jp/
- 国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口 2023年推計 – https://www.ipss.go.jp/
- 日本損害保険協会 地震リスク試算データ 2025年版 – https://www.sonpo.or.jp/
- 日銀 金融市場月報 2025年12月号 – https://www.boj.or.jp/
- 国土交通省 賃貸住宅市場データブック 2025年版 – https://www.mlit.go.jp/