木造アパートを個人名義で運営していると、「毎年の税金が重い」「修繕費が思ったよりかさむ」といった悩みが尽きません。実は同じ物件でも、法人化するだけで手元に残るキャッシュが増えるケースが少なくありません。本記事では、木造物件の特徴を踏まえた法人化のメリットと注意点を、初心者の方でも理解できるように整理します。読み終えたときには、自分にとって法人化が本当に有利かどうかを判断できるようになるはずです。
木造投資を取り巻く市場環境と税制の基本

まず押さえておきたいのは、市場環境と税制が木造投資の収益構造に与える影響です。木造アパートは鉄骨造やRC造に比べ初期費用が抑えやすく、賃料利回りが高い傾向にあります。一方で耐用年数が22年と短く、金融機関の融資期間も相対的に短い点がリスク要因になります。国土交通省の2025年版住宅着工統計では、賃貸用木造住宅の着工戸数が全体の64%を占めており、需要自体は依然として堅調です。つまり、木造アパート投資は身近な一方、キャッシュフローと税務を精緻に設計する姿勢が欠かせません。
税制面では、個人の所得税と法人税の税率構造が最初の分かれ道です。2025年度の所得税は超過累進課税が続き、課税所得が900万円を超えると33%に跳ね上がります。これに対し、資本金1億円以下の中小法人は年間所得800万円までは15%、それを超える部分でも23.2%で頭打ちです。また、個人の場合は赤字が3年間しか繰り越せないのに対し、法人は10年間繰り越せる点も覚えておきましょう。以上の構造を理解したうえで、次章では法人化で生まれる具体的なメリットを掘り下げます。
法人化による節税効果と資金調達力

ポイントは、税率差と経費計上範囲の広さが生み出すキャッシュフローの好転です。たとえば年間家賃収入1,200万円、経費400万円の木造アパートを想定すると、個人では課税所得800万円として約233万円の所得税・住民税が発生します。一方、同じ条件を法人が引き受けると、税額は約160万円で済み、70万円以上の差が生まれます。この時点で手残り資金に大きな違いが出るのです。
さらに、法人化すると給与所得控除を活用した所得分散が可能になります。オーナー自らに役員報酬を支払えば、給与所得控除分だけ法人の損金が増え、オーナー個人の課税所得もコントロールできます。加えて、家族を役員や従業員に登用することで、法定福利費を含む人件費を経費化できる点も実務上の強みです。
資金調達面でも法人化は追い風になります。金融庁の「金融モニタリングレポート2025」によると、中小企業向けの事業性融資残高は前年同期比4.1%増です。事業としての賃貸経営を明確に示せる法人は、個人より融資期間や金利条件で優遇される傾向があります。つまり、節税と融資のダブル効果が、木造物件の短い耐用年数を補完してくれるわけです。
木造物件特有の減価償却と修繕計画
重要なのは、減価償却費をいかに活用し、将来の修繕費を計画的に積み立てるかです。木造住宅の法定耐用年数22年は、RC造の47年と比べて半分以下です。この短さは減価償却を早期に取り切れる利点がある一方、帳簿上の資産価値が早く薄まるリスクにもつながります。法人化して複数棟を保有する場合、設備更新や外壁塗装のタイミングが集中するとキャッシュが枯渇しかねません。
そこで役立つのが修繕引当金の設定です。法人は「将来発生が見込まれる費用」を損金算入できる場合があり、税引き前利益を平準化できます。また、2025年度から適用される「中小企業等経営強化法」の固定資産税軽減措置は、長期優良住宅仕様の木造アパートにも条件付きで利用可能です。適用を受けると、完成から5年間は固定資産税が1/2になるため、修繕原資を確保しやすくなります。
修繕費そのものも経費計上の幅が広がります。個人では資本的支出と判断されやすい大型改修が、法人の会計処理では部分的に費用計上できるケースが多いからです。言い換えると、木造物件の短いライフサイクルを前提に、法人会計でキャッシュを管理することで、想定外の支出に備えやすくなります。
個人か法人かを見極める損益分岐点の考え方
まず押さえておきたいのは、家賃収入と維持費のバランスが法人化の適否を決めるという点です。一般的に、課税所得が年間700万円を超えるあたりが法人化の損益分岐点と言われます。しかし、木造アパートの場合は減価償却の影響で帳簿上の所得が圧縮されるため、実効税率を計算し直す必要があります。国税庁の「法人税等の実効税率データ(2025年)」を用い、所得1,000万円のケースを試算すると、個人より法人が約90万円有利という結果が出ています。
一方で、法人設立には登録免許税や司法書士報酬を含めて30万円前後の初期コストがかかります。さらに、赤字であっても7万円の均等割(地方税)が毎年発生します。そのため、キャッシュフローが不安定な築古木造物件だけを保有している場合、法人化が逆効果になることもあるのです。
また、社会保険加入義務も忘れてはいけません。常勤役員が一人でもいる法人は原則として健康保険と厚生年金に加入します。保険料の会社負担分が増えるため、節税効果とのネットバランスを必ず試算しましょう。実は、この社会保険料を経費化できる点こそがトータルではプラスに働くケースも多く、短絡的な判断は禁物です。
実務フローと2025年度の公的支援策
ポイントは、法人設立から物件の名義変更、融資付けまでをスムーズに行う段取りです。まず法人成りのタイミングですが、決算期と確定申告時期が重ならないよう、4~9月に設立すると作業量を分散できます。次に不動産の所有権を法人へ移す際は、登録免許税(固定資産評価額の2%)と不動産取得税(同3%)がかかるため、資金計画を綿密に立てましょう。なお、同族間の譲渡でも適正な時価評価が求められる点に注意が必要です。
公的支援策としては、日本政策金融公庫の「中小企業事業資金(2025年度)」が活用しやすい制度です。木造アパートを含む不動産賃貸業でも、設備資金として最長20年、金利1.3%台(2025年12月時点)の固定プランが利用できます。また、環境性能の高い木造住宅には、環境省の「ZEB・ZEH支援事業(2025年度)」が適用可能です。一定の断熱性能と再エネ設備を満たすと、建設費の1/3が補助される枠もあるため、新築計画がある場合は検討の価値があります。
最後に、税務署への青色申告承認申請と、都道府県への賃貸住宅供給計画届出を忘れずに行いましょう。適切な手続きを踏むことで、法人化の効果を最大限に引き出し、不測のトラブルも回避できます。
まとめ
木造アパートは初期投資と利回りのバランスが良く、法人化との相性が高い投資対象です。税率差、減価償却、資金調達力という三つの観点で見ると、年間課税所得700万円を超えるあたりから法人化のメリットが顕在化します。一方で、設立コストや社会保険料を加味せずに進めると逆効果になりかねません。まずは自分の収支を洗い出し、専門家とシミュレーションを行ったうえで最適なタイミングを選びましょう。適切に法人化を活用すれば、木造投資でも安定した長期収益を実現できます。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅着工統計2025年版 – https://www.mlit.go.jp
- 国税庁 法人税等の実効税率データ(2025年) – https://www.nta.go.jp
- 金融庁 金融モニタリングレポート2025 – https://www.fsa.go.jp
- 日本政策金融公庫 中小企業事業資金 – https://www.jfc.go.jp
- 環境省 ZEB・ZEH支援事業(2025年度) – https://www.env.go.jp