鉄骨造に興味はあるものの、実際のメリットとデメリットを具体的に把握できず、一歩を踏み出せない方は多いのではないでしょうか。投資用物件として選ぶ場合、構造の違いは収益性とリスク管理に直結します。本記事では、鉄骨造の特徴を初心者でも分かる言葉で整理し、数字や事例を交えて解説します。読み終えたとき、あなた自身の投資目的に合うかどうかを判断できるようになるはずです。
鉄骨造とは何か

重要なのは、鉄骨造が他の構造と比べてどのような素材と工法で成り立つかを理解することです。鉄骨造とは読んで字のごとく、柱や梁に鉄骨を用いる建物の総称で、英語ではSteel Structureとも呼ばれます。木材や鉄筋コンクリートに比べ、素材自体が均質で強度が高い点が大きな特徴です。
鉄骨造は軽量鉄骨造と重量鉄骨造に大別されます。軽量鉄骨造は建築基準法上の壁式構造に近く、厚さ6mm未満の鋼材を組み合わせて二〜三階建ての住宅に多く採用されます。一方、厚さ6mm以上の鋼材を使う重量鉄骨造は五階建て以上の中高層ビルでも耐えられる設計が可能です。つまり、同じ鉄骨造でも目的と予算によって適切なサブタイプが異なります。
2025年度の国土交通省の建築着工統計では、共同住宅に占める鉄骨造の割合は約28%でした。数字が示すように、住宅系でも一定の支持を集めており、供給が安定しているため流通価格や融資条件の参考事例が豊富です。また、工場生産の部材を現場で組み立てるプレハブ方式が普及したことで、工期の短縮と品質の均一化が進みました。
ただし、鉄骨をむき出しのままにすると錆が進むため、防錆塗装や耐火被覆が法律で求められます。建築基準法では延べ面積が1000平方メートルを超える場合、耐火性能を確保するために厚さ制限や被覆の仕様を明示する必要があります。素材だけでなく周辺の法規制も合わせて理解しておくと、後の手続きで慌てる心配が減ります。
価格とコスト面のリアル

まず押さえておきたいのは、鉄骨造の建築コストが木造より高くRC造より低い傾向にあるという点です。国土交通省の2024年度公共建築工事積算資料を基にすると、坪単価は木造が約70万円、鉄骨造が約95万円、RC造が約110万円前後で推移しています。数字だけ見ると割高に感じるものの、耐用年数や減価償却期間を考慮すると必ずしも不利とは言えません。
鉄骨造の法定耐用年数は、国税庁の耐用年数表で軽量鉄骨造が27年、重量鉄骨造が34年と定められています。木造が22年、RC造が47年であることを踏まえると、中間的なポジションにあることが分かります。減価償却による節税効果を得られる期間が木造より長い点は投資家にとって魅力です。ただし、金融機関の融資期間は法定耐用年数より短めに設定される場合があるため、事前に相談しておくと計画が立てやすくなります。
また、建築後のランニングコストも忘れてはいけません。鉄骨造は躯体が軽量であるため、基礎工事が比較的簡素で済み、地盤改良費を抑えられるケースがあります。さらに、乾式工法が主流のため大規模修繕の工期も短く、空室期間による機会損失を軽減できます。一方、鋼材価格は国際市況の影響を受けやすく、メンテナンス時期に資材高騰が重なると費用が膨らむリスクがあります。
固定資産税評価額は一般的に建物コストに比例するため、木造よりは高く設定されるのが通例です。しかし、鉄骨造で高い断熱性能を確保し、省エネ基準を満たせば2025年度の住宅ローン減税の対象となり、所得税控除でキャッシュフローを改善できる可能性があります。制度の適用には適合証明書が必要なため、設計段階から専門家と連携することが大切です。
耐震性・耐久性の実力
実は、鉄骨造が投資家から支持される最大の理由は耐震性にあります。鉄骨は引張強度と延性に優れ、地震エネルギーをしなやかに吸収する特性を持ちます。阪神淡路大震災後の兵庫県の調査でも、倒壊率は木造が8.2%、鉄骨造が1.3%にとどまりました。
さらに、接合部に高力ボルトや溶接を使うことで剛性を確保しつつ、柱梁接合部に減衰機構を組み込む最新技術も普及しています。2025年に改訂された建築基準法施行令では、鉄骨造の柱脚設計に関する計算手順が明確化され、より安全側の設計が可能になりました。この法改正により、設計者のスキル差による性能のバラつきが減ると期待されています。
耐久性の面では、防錆対策が生命線になります。塩害地域や工業地域では亜鉛めっきや重防食塗装の採用が一般的で、国土交通省の技術基準書では設計耐用年数60年を想定しています。また、屋内の結露対策として断熱材と通気層を組み合わせることで、鋼材の腐食を抑えられます。適切な設計とメンテナンスを施せば、長期修繕計画の費用分散が容易になります。
一方で、火災時の温度上昇には弱い点がデメリットです。鉄は550度を超えると急激に強度が低下するため、耐火被覆を厚くすると建築コストが上がります。ただし、2025年度に告示された省令で、耐火時間が1時間以内の中規模建築物ではスリム化された被覆材の使用が認められました。材料コストの削減と軽量化の両立が進みつつあるため、将来的にはデメリットが縮小すると見込まれています。
運用とメンテナンスの注意点
ポイントは、運用フェーズで発生する細かなメンテナンスを事前に計画しておくことです。鉄骨造は部材の取り替えが比較的容易である反面、定期点検を怠ると錆が短期間で進むリスクがあります。国土交通省の長期優良住宅制度では、10年ごとに劣化対策の状況を評価する仕組みが設けられており、鉄骨造でも例外ではありません。
メンテナンスコストは、一般住宅規模で外壁塗装が約120万円、屋上防水が約180万円というのが2025年の相場です。木造より高めに感じますが、工期が短いため家賃収入の機会損失は抑えられます。さらに、躯体が乾式なので内部の配管や配線の交換が簡単で、更新費用を段階的に分散しやすい利点があります。
賃貸経営においては、入居者へのアピールポイントとして遮音性能と間取りの自由度をどう確保するかが課題になります。鉄骨は剛性が高いためスパンが広く取れ、壁式の木造より可変性に優れています。しかし、床衝撃音が伝わりやすいという弱点があるため、防振ゴム付きの二重床や吸音材を組み合わせるなど、内装段階での工夫が欠かせません。
保険料も構造によって変わります。火災保険では鉄骨造が木造より約2割安く、地震保険料も半額近いケースがあります。これは前述の耐震性の高さがリスク評価に反映されているためで、トータルの運用コストを考えるうえで見逃せない要素です。
木造・RC造との比較で見える選択基準
まず、構造ごとに投資家が重視する指標を整理しておきましょう。利回り、融資期間、修繕費の三つが代表的ですが、地域の再開発計画や人口動態も無視できません。鉄骨造は利回りこそ木造よりやや低めに出るものの、長期的な修繕計画を立てやすく、金融機関の評価が安定しています。
2025年の主要都市圏のデータでは、木造アパートの表面利回りが平均7.2%、鉄骨造マンションが6.4%、RC造が5.9%でした。利回りだけを見ると木造が有利に思えますが、空室率は鉄骨造が5.1%、木造が8.3%と逆転しています。収益の安定度を示す実質利回りで比較すると、鉄骨造が中庸でバランスが取れていることが分かります。
また、融資条件は構造によって大きく変わります。木造は築15年を過ぎると融資期間が短縮されやすく、借り換えが難しくなります。鉄骨造は耐用年数が長いため、築30年前後でも期間15年程度の融資を受けられる例があります。RC造は評価が高い一方、自己資金比率を多めに求められるため、資金効率という面では鉄骨造が一歩リードします。
結論として、短期で高い利回りを狙うなら木造、資産保全重視ならRC造、その中間でバランスを取りたいなら鉄骨造というポジショニングになります。投資目的が賃料収入メインなのか、相続対策や売却益を見据えるのかによって適切な構造が変わるため、自身の戦略を明確にして選ぶことが不可欠です。
まとめ
ここまで鉄骨造のメリットとデメリットを多角的に見てきました。耐震性や融資期間の長さは大きな魅力ですが、防錆と耐火対策にはコストと手間がかかります。それでも、工期の短さや修繕計画の組みやすさはキャッシュフローを安定させる要因になります。まずは想定する保有期間と出口戦略を明確にし、自分に合う構造かどうかを冷静に判断してください。適切な専門家と連携すれば、鉄骨造は堅実なポートフォリオを築く有力な選択肢になるでしょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 建築着工統計調査報告 2025年版 – https://www.mlit.go.jp
- 国税庁 法定耐用年数表 令和7年度版 – https://www.nta.go.jp
- 兵庫県 阪神淡路大震災 建物被害調査報告書 – https://web.pref.hyogo.lg.jp
- 一般財団法人 建設物価調査会 公共建築工事積算資料 2024年度版 – https://www.kensetu-bukka.or.jp
- 日本損害保険協会 住宅用火災保険料率参考資料 2025年度 – https://www.sonpo.or.jp