築年数が30年を超えるアパートやマンションは、投資対象として気になるものの「古い物件で本当に利益が出るのか」と不安を抱く人が少なくありません。実は、適切な税務戦略を取れば、築古でも十分なキャッシュフローと節税メリットを得ることが可能です。本記事では、築30年以上の物件を活用しながら税負担を軽減する具体的な方法を、初心者でも理解しやすいように解説します。読み終える頃には、手元に残るお金を増やす実践的なノウハウがイメージできるはずです。
築古物件が注目される理由

重要なのは、築年数が古いからといって投資価値が低いわけではないという点です。価格と家賃のバランスが良く、高い利回りを狙えることが大きな魅力になります。
まず、同じ立地条件でも新築に比べ、築古は物件価格が大幅に下がっています。国土交通省の「不動産価格指数」によると、築25年を超える木造アパートの流通価格は新築時の30〜40%程度まで低下する例が一般的です。それでも家賃は半額まで下がらないため、家賃収入と取得価格の比率が改善し、利回りが上昇します。
さらに、売主が早期売却を希望しているケースでは、指値交渉の余地が大きくなります。購入価格を抑えられれば、融資割合が減り、月々の返済負担も軽くなります。金利上昇局面ではこの効果がより顕著です。
一方で、空室リスクや修繕リスクも無視できません。しかし、後述する減価償却や修繕費の取り扱いを理解すれば、税金面のメリットでリスクを相殺しやすくなります。つまり、築古物件は「安く買って高い利回り+節税」で勝負する戦略だと覚えておきましょう。
減価償却で生まれる節税インパクト

ポイントは、築30年以上の建物なら残存耐用年数が短くなり、加速度的に減価償却費を計上できることです。減価償却費は現金流出を伴わない経費なので、課税所得を大きく圧縮できます。
建物の法定耐用年数は、木造で22年、鉄筋コンクリートで47年です。中古物件の場合、「法定耐用年数×20%」と「法定耐用年数−経過年数」のいずれか長い方を新たな耐用年数として採用できます。たとえば築32年の木造アパートなら、22年×20%=4.4年と22−32=−10年を比較し、4年が適用可能です。購入価格のうち建物部分を4年で償却すると、初年度から大きな経費を計上でき、所得税・住民税の負担が大幅に減ります。
具体例として、建物価格2,000万円、4年償却の場合、年間500万円を経費算入できます。給与所得900万円のサラリーマンがこの物件を保有すると、所得税率33%層なら500万円×33%=165万円、住民税10%で50万円、合計215万円の税金が圧縮されます。手残りキャッシュフローが一気に増える計算です。
もっとも、償却期間が短いと5年目以降に経費が減り、課税所得が上がる点には注意が必要です。繰り返し買い増して償却費の波を平準化する、あるいは長めの耐用年数を選択して安定させるなど、中長期の計画が不可欠です。
修繕費と資本的支出の見極め
まず押さえておきたいのは、修繕に使った費用が全額その年の経費になるかどうかで節税効果が変わることです。修繕費として計上できれば即時経費化でき、キャッシュフローが向上します。
国税庁のガイドラインでは、①原状回復のための支出、②おおむね3年以内の周期で行う設備更新、③20万円未満または軽微と認められる工事などは修繕費とされます。例えば、外壁の補修や給湯器の交換は原則として修繕費に該当します。
一方、耐用年数を延ばしたり、価値を大きく高めたりする工事は「資本的支出」として扱われます。たとえば、屋上防水を全面的にやり直して期待耐用年数を10年延長した場合などが該当し、工事費を数年にわたり減価償却する形になります。
判断が微妙なケースでは、工事の目的と効果を示す見積書や写真を保存し、税理士と相談することが安全策です。修繕費として認められる範囲を正しく見極めれば、築30年以上 節税の柱となるキャッシュフロー改善が実現します。
2025年度の税制とインセンティブ活用
実は、2025年度には中古賃貸物件の省エネ改修や耐震化を後押しする税制がいくつか延長されています。要件に合致すれば、固定資産税の減額や税額控除を受けられます。
代表的なのが「耐震改修促進税制(2025年度末まで)」です。1981年以前の旧耐震基準物件を耐震改修し、市区町村の認定を受けると、翌年度の固定資産税が半額または3分の1に軽減されます。築古RC造マンションを保有する場合、年間固定資産税が120万円なら最大40万円の削減効果です。
また、国土交通省が所管する「賃貸住宅省エネ改修促進税制」も2025年度まで継続しています。一定の断熱改修や高効率給湯器の導入を行えば、工事費の10%(上限250万円)の税額控除が可能です。省エネ改修は入居者ニーズの高まりにも対応できるため、空室対策と節税を同時に実現できます。
加えて、設備更新に伴う「中小企業経営強化税制」の即時償却も賃貸業者が利用できます。エアコンやエレベーターなど生産性向上設備に該当すれば、取得価額全額を当期に一括償却できるため、減価償却の加速と同様の効果が得られます。制度は年度ごとに改正されるため、申請期限や対象設備を必ず確認しましょう。
築30年超物件のリスクと対策
ポイントは、高い利回りと節税効果に目を奪われすぎず、物件固有のリスクを正しく見積もることです。リスクを抑え込む体制があってこそ、節税メリットが生きてきます。
構造的リスクとしては、雨漏りや配管劣化などの潜在トラブルが挙げられます。購入前のインスペクション(建物診断)を怠ると、想定外の修繕費でキャッシュフローが悪化します。国交省の「既存住宅状況調査技術者」による診断を活用すれば、費用は10〜15万円程度で済み、長期的には保険料のような効果を発揮します。
次に、空室リスクです。築古物件はデザインや設備が古く、若年層に選ばれにくい場合があります。Wi-Fi無料化や宅配ボックスの設置など、ターゲット層に刺さる小規模リノベを行うことで、家賃を維持しながら入居率を高められます。
最後に、金利上昇リスクへの備えが必要です。短期固定や変動金利で借入れる場合、金利1%上昇で年間返済額が数十万円単位で増えることがあります。返済比率を家賃収入の50%以内に抑え、減価償却が終了する時期に繰上返済できる余力を持つと安心です。これらの対策を講じることで、築30年以上 節税の効果を最大限に引き出せます。
まとめ
築30年以上の中古物件は、取得価格の安さと加速償却の組み合わせで強力な節税効果を生み出します。加えて、2025年度まで利用できる耐震・省エネ改修の優遇税制を活用すれば、固定資産税や所得税をさらに圧縮できます。とはいえ、建物劣化や空室といったリスク管理を怠ると、キャッシュフローが逆転しかねません。インスペクションやターゲットを意識したリフォームを計画的に行い、税務と物件管理を両輪で運用することが、長期的な資産形成への近道です。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp
- 国税庁 中古資産の耐用年数の取り扱い – https://www.nta.go.jp
- 国土交通省 耐震改修促進税制の概要(2025年度) – https://www.mlit.go.jp
- 経済産業省 中小企業経営強化税制パンフレット – https://www.meti.go.jp
- 環境省 賃貸住宅省エネ改修促進税制ガイドライン – https://www.env.go.jp