不動産投資に興味があっても、「個人と法人のどちらで保有すべきか」で悩む方は多いはずです。特に一棟マンションは金額が大きく、税金や融資の影響も無視できません。本記事では法人化の利点と落とし穴を丁寧に解説し、2025年度の最新制度を踏まえて具体的な判断材料を提示します。読み終えたとき、あなたは自分に適した保有形態を見極め、次の一歩を自信を持って踏み出せるでしょう。
法人化を選ぶかどうかの基本的な考え方

まず押さえておきたいのは、法人化は節税だけでなくリスク分散や資金調達力にも影響する総合的な決断だという点です。ここでは個人名義との違いを俯瞰し、判断軸を整理します。
個人で一棟マンションを所有すると、家賃収入が給与所得と合算され累進課税の対象になります。その結果、年収が高い投資家ほど所得税と住民税の負担が膨らみやすい仕組みです。一方、法人の場合は利益に対して法人税が課税されますが、税率は中小法人であれば所得800万円以下に対し15%(2025年時点)と比較的低く抑えられています。つまり高所得者ほど法人化の節税メリットが大きくなります。
しかし、法人は赤字でも均等割という住民税の最低課税が発生し、社会保険の加入義務も生じます。さらに設立費用や毎期の決算申告コストがかかるため、単純に税率だけを比較して決めるのは危険です。節税効果が維持費を上回るかを試算し、長期のキャッシュフローを予測する姿勢が欠かせません。
重要なのは、個人と法人の両方を併用する選択肢もある点です。たとえば既存の区分マンションは個人で保有し、これから購入する一棟マンションは法人で取得するという方法なら、リスクを分散しつつ税率もコントロールできます。保有物件の規模、家族構成、将来の事業承継まで含めて総合的に設計しましょう。
税務面で得られる具体的なメリット

ポイントは、法人化によって使える経費範囲と損益通算の柔軟性が飛躍的に広がることです。ここでは代表的な税効果を具体的な数字とともに確認します。
法人は役員報酬という形で所得を分散できます。たとえば年間利益1,200万円の一棟マンションを夫婦で経営し、各600万円ずつ報酬を取れば、所得税の累進負担を緩和できます。また法人が適正な家賃で自宅を社宅扱いにすると、家賃の大部分を経費計上できるため、実質的な手取り増加に直結します。
減価償却の計算方法も法人の方が柔軟です。個人では定額法のみですが、法人なら定率法が選択可能です。2025年度税制では鉄筋コンクリート造マンションの耐用年数が47年とされており、定率法を採用すると当初数年間の費用計上が厚くなります。この前倒し効果で、購入直後のキャッシュフローを安定させやすくなります。
さらに、消費税還付の可能性も特徴です。新築一棟マンションを建設し、法人が課税事業者を選択して短期で課税売上割合を調整すれば、建築時に支払った消費税を取り戻せる場合があります。ただし還付スキームは税務調査での指摘が多いため、専門家と設計段階から相談し、適法なスキームを組むことが不可欠です。
最後に、法人は赤字を10年間繰り越せます。個人の3年に比べて大幅に長いため、大規模修繕で一時的に赤字が出ても、将来の黒字と相殺しやすい点は心強い材料です。
融資戦略と法人格の信用力
実は、融資条件が法人化の最大の利点になるケースも少なくありません。金融機関は事業計画と担保評価を重視し、法人向けに長期融資枠を用意しているからです。
都市銀行は個人にはフルローンを出しづらい一方、設備投資枠として法人へは返済期間30年超の融資を提示することがあります。また日本政策金融公庫の「中小企業経営強化資金」(2025年度継続)では、耐震・省エネ性能を満たす一棟マンションへの融資上限が7億2,000万円に拡充されました。法人で申請すれば固定金利1%台を享受できる可能性があります。
さらに、法人は複数の金融機関と同時に取引口座を開き、債務者区分を分散できる点が強みです。たとえば個人で3億円の借り入れがある場合、次の物件取得は難しくなりますが、法人で新規に借りると個人信用情報に影響が及びにくく、追加投資の余地が広がります。
一方で、設立間もないペーパーカンパニーでは与信が弱く、代表者保証を求められるのが一般的です。設立後2期分の黒字決算を積み、自己資本比率を20%以上に維持すると、保証解除や金利優遇の交渉がしやすくなります。資金繰り計画を緻密に立て、金融機関との関係を段階的に深めることが重要です。
法人運営とリスク管理の実務
まず押さえておきたいのは、法人化によって管理体制が複層化し、ガバナンスが問われる点です。経理、修繕計画、テナント対応を社内外で適切に分担しなければ、せっかくの節税効果も失われます。
経理面ではクラウド会計を導入し、毎月の入出金を自動連携させると締め作業が大幅に短縮できます。私は弥生会計オンラインを利用し、領収書をスマホで撮影する運用に変えたところ、月次報告書の作成時間が半減しました。可視化したデータをもとに翌期の修繕費を平準化し、資金拘束を防ぐことができます。
テナント管理は管理会社に丸投げするのではなく、法人名義で直接契約内容を精査する体制が望ましいです。2025年の民法改正により、更新料特約の説明義務が強化されました。社内でチェックリストを策定し、管理会社の書式を定期監査することで、入居者トラブルを未然に防ぎます。
保険も法人専用の商品を選ぶと補償範囲が広がります。たとえば火災保険に施設賠償責任特約を付帯すると、共用部で第三者がケガをした際の損害賠償金までカバーできます。リスクを数値化し、保険料と自己負担額のバランスを継続的に見直す姿勢が求められます。
2025年度制度と今後の展望
ポイントは、2025年度の税制改正と補助制度を活用しつつ、中長期視点で出口戦略を描くことです。制度は永続しないため、適用期限に合わせた行動計画が必要になります。
2025年度税制では、中小法人の交際費等の損金算入特例が800万円まで延長されています。この枠内で賃貸経営セミナーやオーナー会費を計上すれば、情報収集と節税を同時に実現できます。また固定資産税の軽減措置として、耐震基準適合マンションは税額が3年間1/2となる特例が続行されます。耐震改修を検討している物件は、2026年3月末までに着工すると大きな恩恵を得られます。
出口戦略として、一定期間後に個人へ譲渡する「資産移転スキーム」も視野に入ります。法人が築年数を重ねて簿価を圧縮し、その後、相続対策として家族へ時価より低い評価額で売却すれば、贈与税を抑えながら保有体制を再構築できます。2025年の相続税基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人数のままですが、将来的な改正余地もあるため、税理士とシミュレーションを重ねて備えましょう。
最後に、東京23区の新築マンション平均価格が7,580万円と高止まりする一方、賃料の上昇は年2%前後にとどまっています。不動産経済研究所のデータを踏まえると、キャップレートは横ばいで推移する見込みです。したがって購入は利回りだけでなく、立地と再開発計画の進捗を詳細に見極める必要があります。
まとめ
この記事では一棟マンションを法人化する際の判断軸、税務メリット、融資戦略、運営実務、そして2025年度制度のポイントを解説しました。法人化は節税だけでなく、資金調達やリスク管理を立体的に最適化する仕組みです。まずは自身の所得水準と将来の保有方針を整理し、長期のキャッシュフローを試算してください。その上で専門家と連携し、制度の有効期限を逆算してアクションプランを描けば、安定収益と資産形成を同時に実現できます。今日学んだ視点をもとに、具体的な行動を一歩踏み出しましょう。
参考文献・出典
- 国税庁 – https://www.nta.go.jp
- 中小企業庁 – https://www.chusho.meti.go.jp
- 金融庁(金融機関の監督指針) – https://www.fsa.go.jp
- 日本政策金融公庫 – https://www.jfc.go.jp
- 不動産経済研究所 – https://www.fudousankeizai.co.jp
- 総務省統計局 – https://www.stat.go.jp