築10年の中古物件に興味はあるものの「個人で買うか法人で買うか」で迷う人は少なくありません。家賃収入が増えると所得税率が上がり、手残りが思ったほど伸びないと感じる場面も多いはずです。実は、築10年物件を法人名義で保有すると減価償却を最大限に活用でき、税率のフラット化によってキャッシュフローを安定させやすくなります。本記事では、築10年と法人化を組み合わせるメリットやリスクを整理し、2025年度の最新制度を踏まえた実践的な進め方を解説します。読み終えたとき、あなたは物件選びから法人設立、融資交渉までの流れを具体的にイメージできるでしょう。
築10年物件の魅力と注意点

まず押さえておきたいのは、築10年物件がバランスに優れるという点です。新築に比べて価格が2〜3割下がっている一方、建物設備はまだ十分に新しく、修繕費の急増リスクも限定的です。国土交通省の「中古住宅流通・リフォーム実態調査」では、築10年前後の物件は家賃下落が緩やかで、退去率も低水準にとどまる傾向が示されています。
ただし、優良物件とそうでない物件の差は大きいため、周辺賃料と空室率を細かく確認する必要があります。特に地方都市では人口動態の変化が収益に直結するため、市区町村の将来人口推計をチェックするだけでなく、最寄り駅の乗降客数や商業施設の開発計画を照合しましょう。そうすることで、購入後に想定外の賃料下落に直面するリスクを減らせます。
さらに、築10年であっても共有部分の配管や屋上防水は劣化が進み始めます。管理組合の修繕計画が未整備だと突発費用が膨らむため、重要事項調査報告書の残積立金と長期修繕計画を必ず確認しましょう。
法人化で得られる税務メリット

ポイントは、所得税と法人税の税率構造の違いを理解することです。個人の場合、課税所得が900万円を超えると税率33%が適用され、住民税と合わせれば約43%に達します。一方、2025年度の法人実効税率はおおむね30%前後で、所得が増えるほど差が開きます。つまり、家賃収入が大きいほど法人化の節税効果は大きくなるわけです。
築10年の木造アパートなら法定耐用年数は残り12年ですが、法人所有とすることで加速度償却を採用しやすく、年間の減価償却費を増やせます。減価償却は現金支出を伴わない経費のため、キャッシュを温存しながら課税所得を圧縮できる点が魅力です。また、役員報酬として所得を分散させることで、家族の所得控除も柔軟に活用できます。
加えて、法人は修繕積立金や広告費を含む諸経費を範囲広く計上できます。個人では生活費との区別が曖昧になりがちな支出でも、法人名義のクレジットカードや口座を使えば、税務調査での説明が容易になります。必要経費を漏れなく計上できることが、法人化による実効税率の低下を後押しします。
築10年×法人化が生むキャッシュフロー効果
実は、築10年物件を法人で保有するとキャッシュフロー計算が安定しやすい構造になります。たとえば、1億円のRCマンション(耐用年数47年、残存37年)を例に取り、毎年の家賃収入が900万円、経費が200万円、借入金利2%で35年返済とすると、個人と法人で年間の手残りは次のように変わります。
・個人所有:減価償却250万円、所得税・住民税合計330万円、返済後手残り120万円 ・法人所有:減価償却350万円、法人税等230万円、返済後手残り220万円
このシミュレーションでは、法人化により手残りが約1.8倍になります。増えている主因は減価償却費の計上額と税率差であり、築10年前後の中古物件は取得価額に占める建物割合が高く、償却に回せる金額が大きいため効果が顕著です。
また、法人は金融機関の融資審査で「実績重視」の姿勢を取られることが多いものの、決算書で安定したキャッシュフローを示せば、2棟目以降の借入枠が広がりやすくなります。最初の1期目で黒字を確保するためにも、築10年の減価償却パワーを活かして早期に財務体質を整える戦略が有効です。
2025年度の制度と融資動向
基本的に、2025年度時点で築年数に応じた特別控除や補助金は存在しません。しかし、日本政策金融公庫の「生活衛生関係貸付」や地方銀行の「不動産投資ローン」において、エネルギー性能の高い物件には金利優遇が継続されています。築10年物件でも、断熱改修や太陽光設備を追加することで省エネ基準を満たせば、年0.3%前後の金利引き下げが期待できます。
日本銀行のマイナス金利政策は2025年も継続されており、長期固定金利は1%台後半で推移しています。金融庁の「金融モニタリング報告」では、法人スキームを用いた不動産投資の審査が厳格化した一方、自己資本比率が高く、事業計画が明確な案件への融資姿勢は堅調とされています。つまり、法人であること自体が不利になるわけではなく、事業としての収益性を示せればむしろ有利です。
また、2025年度税制改正では減価償却制度の大枠は維持され、法人税率や消費税率にも大きな変更はありません。したがって、築10年×法人化の戦略は今後も安定的に機能する見通しです。
法人化手続きと実務上の注意点
重要なのは、法人化のタイミングと設立形態を慎重に選ぶことです。物件取得前に設立すれば登記名義が一本化され、登録免許税や不動産取得税の負担を法人で計上できます。一方、取得後に法人化する場合、個人から法人へ物件を売却する形になるため、譲渡所得課税と仲介手数料が発生します。コストを抑えるなら取得前の設立が有利です。
設立形態としては株式会社と合同会社が主流ですが、投資規模が小さく機動性を重視するなら合同会社が適しています。登記費用が安く、決算公告義務もないため、ランニングコストを抑えられます。ただし、金融機関によっては株式会社の方が与信評価が高い場合があるため、融資担当者に事前確認すると安心です。
日常の経理はクラウド会計ソフトで自動化し、領収書はスキャン保存を徹底しましょう。2024年1月に完全施行された電子帳簿保存法により、スキャナ保存要件が緩和され、記録要件を満たせば紙原本の保管義務がなくなりました。これにより経理負担が軽くなり、不動産管理に集中できます。
最後に、法人化後も個人の生活費と法人の経費を明確に分けるルールを社内規程として定めておくことが重要です。役員借入金や立替金が膨らむと資金繰りを誤認しやすくなるため、毎月の残高チェックを習慣化しましょう。
まとめ
築10年物件は価格と設備状態のバランスが良く、減価償却費を確保しやすい点が魅力です。この特徴を法人化と組み合わせることで、税率のフラット化と経費計上の柔軟性を同時に享受できます。その結果、キャッシュフローが安定し、次の投資へとつながる資金を確保しやすくなります。行動に移す際は、物件選定と法人設立を並行し、金融機関との交渉材料となる収支計画書を準備しましょう。そうすることで、2025年の低金利環境を追い風に、築10年 法人化戦略を最大限に活かせます。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅局「中古住宅流通・リフォーム実態調査」 – https://www.mlit.go.jp
- 国税庁「法人税のあらまし(2025年度版)」 – https://www.nta.go.jp
- 金融庁「金融モニタリング報告書 2025」 – https://www.fsa.go.jp
- 日本銀行「主要指標 マイナス金利政策の状況」 – https://www.boj.or.jp
- 中小企業庁「電子帳簿保存法 Q&A」 – https://www.chusho.meti.go.jp