親から築古のアパートを引き継ぐか、現金で残すか――相続を考えた瞬間に税金と資産価値の維持という二つの壁が立ちはだかります。実はワンルームマンションを活用すれば、比較的少ない資金で節税と安定収益の両立が狙えることをご存じでしょうか。本記事では、2025年12月時点の税制とマーケットデータをもとに、仕組みから物件選び、制度活用までを順序立てて解説します。読み終えるころには、ご自身に最適な一歩を判断できるようになるはずです。
なぜ今相続対策にワンルームが注目されるのか

重要なのは、ワンルームマンションが少額から始められ、単身者需要に支えられている点です。これが相続対策との相性を高めます。
まず単身世帯の増加が背景にあります。総務省「将来推計世帯数」によると、2025年には全国世帯の38%が単身世帯となり、東京都区部ではすでに半数を超えました。単身者向け住宅の需要は今後も底堅いと見込まれるため、空室によるキャッシュフローの乱れが起こりにくいのです。
またワンルームは投資額を抑えられます。東京23区の新築マンション平均価格が7,580万円と高騰する一方、築10年前後の中古ワンルームなら2,000万円台から購入可能です。相続税評価額は建物部分が経年で減価していくため、同額の現金を残すよりも課税対象が小さくなります。言い換えると、同じ資金で複数戸に分散しやすく、リスク管理にもつながるわけです。
さらに流動性も見逃せません。都心のワンルームは賃貸需要が強く、売却時の買い手も国内外から見込めます。相続人が現金化を希望しても市場での出口が確保しやすく、資産分割の調整がスムーズになる点は大きな魅力です。
税負担を軽減する仕組みを理解する

ポイントは、相続税評価額を圧縮する二つの仕組みを使いこなすことです。小規模宅地等の特例と建物の減価による評価減が柱になります。
小規模宅地等の特例は、被相続人や配偶者が賃貸経営していた土地を相続する場合、最大200㎡までを80%評価減できる制度です。2025年度も存続が決定しており、賃貸用ワンルームの敷地は要件を満たしやすいのが特徴です。適用後の土地評価額は5分の1になるため、現金や株式と比べて大幅な節税効果が生まれます。
建物部分は固定資産税評価額で課税されますが、鉄筋コンクリート造ワンルームの法定耐用年数47年に対し、築年数が進むほど評価額は減少します。たとえば築15年の物件なら、新築時評価の約60%まで下がるケースが一般的です。つまり現金をそのまま残すよりも、実質的に課税対象を圧縮できる仕組みです。
さらに、2025年度も継続する「住宅取得等資金贈与の特例」を併用すれば、生前に子へワンルーム購入費を非課税で贈与できる可能性があります。期限付きの制度なので、活用予定がある場合は金融機関や税理士に早めに相談し、手続きや書類の準備を怠らないことが重要です。
物件選びで失敗しない三つの視点
まず押さえておきたいのは、立地・管理・価格の三要素を同時に満たす物件を探すことです。どれか一つでも欠けると、相続対策の効果が薄れてしまいます。
立地については駅徒歩7分以内が目安になります。特にJR山手線内側や都心5区は賃料と入居率が安定しており、築年の古い物件でも高い需要があります。一方で利回りを追い過ぎて郊外に踏み出すと、空室期間が長引き評価額以上に収益が落ち込む危険があります。
管理体制も見逃せません。修繕積立金が適切に積み立てられ、長期修繕計画が公開されているか確認しましょう。国土交通省の調査では、積立不足があるマンションは10年後の資産価値が平均15%下落すると報告されています。相続人が運営を引き継ぐ際の手間を減らすためにも、管理組合の健全性は重要です。
最後に価格です。2025年時点で表面利回り4%台前半が都心中古ワンルームの相場ですが、リノベーション費用や固定資産税を差し引いた実質利回りを必ず計算してください。購入価格を抑えても大規模修繕前の物件だと、数年以内に数百万円の出費が発生し、トータルのキャッシュフローが悪化するケースもあります。
キャッシュフローと管理体制の整え方
実は、相続対策として購入したワンルームでも、毎月のキャッシュフローが安定しなければ本末転倒です。重要なのは保守的なシミュレーションを行い、手残りを確保する仕組みを作ることにあります。
融資を利用する場合、金利上昇リスクを試算に盛り込みましょう。例えば借入金利1.5%を2.5%に引き上げても手残りが赤字化しないよう、自己資金は物件価格の30%程度を目標にすると安心です。仮に2,800万円の物件なら840万円を頭金にし、家賃8万円・空室率10%で試算すると、月3万円前後の純収入が見込めます。これが固定資産税や管理費を賄い、継続的な相続対策効果を支えます。
管理会社の選定も大切です。募集力が弱い会社に任せると、空室期間が一気に長引くリスクがあります。レポート提出の頻度や修繕提案の透明性をチェックし、複数社を比較する姿勢を忘れないでください。賃料査定が妥当かどうかは、SUUMOやHOME’Sの掲載情報を使って自分でも検証する習慣を持つと、数字に対する感度が高まります。
万が一、相続人が不動産経営に不慣れでも、家賃収入と支出構造がシンプルなら引き継ぎが容易です。家賃口座や管理会社との契約書をまとめた「資産管理ファイル」を作成し、家族と共有しておけば、突然の相続発生時にも混乱を最小化できます。
2025年度の制度活用と注意点
まず押さえておきたいのは、2025年度税制改正でワンルームマンション投資に直接影響する大幅な変更は発表されていない点です。ただし既存の特例には期限や適用条件があるため、早めの準備が欠かせません。
小規模宅地等の特例は、賃貸事業を継続する意思があることが前提です。相続後にすぐ売却すると特例が取り消される恐れがあるため、少なくとも3年間は保有する計画を立てましょう。ここを誤解すると追徴課税が発生し、節税どころか資金繰りを圧迫します。
住宅取得等資金贈与の非課税は、2026年12月31日までの契約・入居が条件です。2025年中に贈与を実行し、翌年までに引き渡しが完了するスケジュール感が理想となります。贈与契約書や耐震基準適合証明書の提出漏れがあると、非課税枠を適用できません。手続きは必ず税理士と二重チェックしてください。
最後に相続登記義務化への対応です。相続開始を知った日から3年以内の登記申請が2024年から義務化され、2025年も罰則対象となります。ワンルームマンションを複数所有している場合は、物件ごとに登記漏れがないか確認し、相続人の負担を軽減しておきましょう。
まとめ
結論として、ワンルームマンションは少額投資で相続税評価額を圧縮しながら、単身世帯の安定需要で家賃収入を確保できる万能型の相続対策ツールです。土地と建物の評価減、小規模宅地等の特例、生前贈与の非課税枠を組み合わせれば、現金や株式よりも効率的に税負担を軽くできます。一方で、立地と管理体制を見誤ると節税効果が薄れ、キャッシュフローも悪化します。今すぐできる第一歩は、信頼できる管理会社と税理士をリストアップし、保守的な収支シミュレーションを行うことです。行動に移すかどうかで、数年後の相続時に残る資産の大きさは大きく変わるでしょう。
参考文献・出典
- 国税庁 – https://www.nta.go.jp/
- 国土交通省 – https://www.mlit.go.jp/
- 不動産経済研究所 – https://www.fudosankeizai.co.jp/
- 総務省統計局 – https://www.stat.go.jp/
- 東京都都市整備局 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/