築十年の中古マンションを買っても、本当に利益が出るのかと不安に感じる方は多いものです。家賃下落、修繕費、ローン残債といった要素が複雑に絡み、将来の数字を読むのは簡単ではありません。しかし、基本的な前提条件と公的データに基づくシミュレーションを行えば、見通しは大きく変わります。この記事では「築10年 シミュレーション」という視点で、収支計画から出口戦略までを初心者向けに解説します。読み終えたとき、購入前に何を確認し、どの数字に注目すべきかが具体的にイメージできるようになります。
築10年物件の魅力と潜むリスク

まず押さえておきたいのは、築十年の物件が新築より価格が抑えられつつ、設備寿命がまだ十分に残っている点です。一方で将来の修繕費や家賃下落を正しく織り込まないと、期待した利回りに届かない恐れがあります。つまり、メリットとリスクを両面から捉えて初めて、実際の収益力が見えてくるのです。
国土交通省の「住宅市場動向調査2025」によると、築十年時点の中古マンション価格は新築時比で平均二割下落しています。この価格差が表面利回りを押し上げるものの、購入後五年以降は設備交換や大規模修繕の積立金が増える傾向が見られます。修繕積立金の平均月額は築十五年で一戸当たり一万四千円程度に達し、運営費全体の三割を占めるケースもあります。こうした将来コストを織り込まなければ、シミュレーション結果が甘くなりがちです。
さらに築十年時点では空室率が地区平均より低くても、人口動態や競合供給の影響を受けやすい点には注意しましょう。地方都市の場合、同調査で示された今後十年の空室率上昇幅は三ポイント前後とされています。購入前に周辺再開発計画や大学移転情報などを調べ、需給バランスの変化を数字で確認する習慣が欠かせません。
キャッシュフロー10年予測の基本構造

重要なのは、家賃収入から運営費、借入返済、税金までを時系列で並べ、毎年の手取りを計算することです。この工程を「キャッシュフローシミュレーション」と呼び、投資判断の背骨となります。まず家賃は築年数に応じて年一%下落、空室率は三%から五%に漸増という保守的な前提を置きましょう。税金については固定資産税評価額が築後二十年で底打ちしやすい点も併せて組み込みます。
金融機関からの融資は金利一・八%、元利均等三十年返済を用いると、元金比率は十年目で約三六%に達します。つまり十年間で元金が三割以上減るため、売却時に手元資金を厚くできる可能性が高まります。一方で金利が〇・五%上昇すれば、年間返済額は十五万円程度増えるため、余裕を持った設定が欠かせません。手取りキャッシュフローがマイナスになる年をゼロに抑える計画が、長期保有を成功させる前提となります。
計算にはエクセルや無料のオンラインツールで十分対応できますが、面倒でも項目を自分で入力することで数字への感度が上がります。特に修繕積立金と管理費は管理組合の長期修繕計画書を写し取り、実際の上昇幅を反映させると精度が高まります。数字を動かしながら最悪ケースでも手残りが黒字となるかを確認する姿勢が、初心者を早期離脱から守るカギです。
修繕費と家賃下落を読むコツ
ポイントは、修繕費と家賃下落を過去データから算出し、楽観と悲観の幅をあらかじめ把握しておくことです。この二つの変数が予定外に膨らむと、一気に表面利回りが意味を失います。だからこそ保守的な前提を置き、シミュレーションを上振れではなく下振れ目線で作ることが不可欠です。
国交省の「マンション大規模修繕工事実態調査2024」では、築十二年目に行う一次修繕費は一戸平均九十万円と報告されています。築二十年時点での二次修繕費は百二十万円程度に増えるため、購入後十年間で最低でも百万円を積み立てる計算が必要です。修繕積立金だけに頼らず、年間家賃収入の一〇%を内部留保とするルールを設定すると、想定外資金の手当てが楽になります。管理組合の財務状況が赤字の場合、臨時徴収リスクもあるので議事録と決算書のチェックを怠らないでください。
家賃下落の推定には国土交通省の「住宅賃貸指数」を基に、築年ごとの指数変化を掛け合わせると客観性が高まります。都心区分マンションでは築後十年間で平均五%下落、地方中核市では一二%下落というのが直近データの中央値です。この幅をそのままシミュレーションに織り込み、空室率を含めた実質家賃収入を算出すれば、より実態に近い数字が得られます。
ローン残債と売却戦略のシミュレーション
実は、出口戦略まで描くことで初めてキャッシュフローの意味が固まります。十年後に残るローン残債と予想成約価格を比較し、売却益か追い金かを早期に把握しておきましょう。この手順が曖昧だと、利益確定のタイミングを逃しやすくなります。
不動産情報サービスのレインズ成約事例では、築二十年時点の価格は築十年比で平均一五%下落しています。たとえば三千万円で購入し、十年後の予想価格が二五五〇万円、ローン残債が二〇〇〇万円なら、売却益五五〇万円が目安です。そこから仲介手数料や譲渡所得税を差し引くと、手取りは三〇〇万円前後になります。この数字を目標利回りや再投資資金と比較し、保有継続か売却かを判断することで冷静な選択が可能です。
金利上昇や家賃下落が想定以上に進む場合でも、元金返済が進んでいれば大きな損失を回避できるケースは多いものです。そのため借入期間を三十年にしつつ、繰上返済用に年数十万円をプールしておくと、出口の選択肢が増えます。買い替え特例や不動産取得税の軽減といった制度は自宅用が中心ですが、投資家も要件次第で活用できる場合があるため専門家に確認してください。
2025年度も使える支援・軽減策
まず押さえておきたいのは、不動産投資向けの直接補助金は少ないものの、税負担を下げる軽減措置は継続している点です。これらをシミュレーションに組み込めば、実効利回りを数値以上に高める効果が期待できます。
具体的には、2025年度も引き続き適用される「登録免許税の軽減措置」が代表例で、築二十年以内の中古住宅なら税率が一部引き下げられます。例えば所有権移転時に通常〇・二%の税率が〇・一%になると、三千万円の物件で三万円の削減です。また「不動産取得税の減額特例」も2025年三月三十一日取得分まで期限が延長されており、一定の耐震基準を満たす中古住宅は課税標準から千二百万円が控除されます。
法人で購入する場合は中小企業経営強化税制の固定資産税軽減が適用できるケースもあるため、法人化を検討している読者は税理士に相談してください。さらに環境性能の高いリフォームを行う際に利用できる「住宅エコリフォーム減税(2025年度)」は、所得税控除として最大二十五万円の還付が受けられます。このような制度は期限が延長されることも多いものの、期末をまたぐと適用外となるため、計画を前倒しするだけで実質利回りが改善します。
まとめ
ここまで築十年物件を題材に、購入時の価格差、十年間のキャッシュフロー、修繕費、売却戦略、税制までを総合的に見てきました。数字を自分の手で動かし、最悪ケースでも手残りが黒字となるかを確認する姿勢が、安全運用への近道です。また登録免許税や不動産取得税の軽減など2025年度の制度を押さえれば、スタート時点から優位に立てます。シミュレーションが描けたら、次は信頼できる管理会社と組み、現地調査で想定とのギャップを埋め、行動に移してみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅市場動向調査2025年版 – https://www.mlit.go.jp
- 国土交通省 マンション大規模修繕工事実態調査2024 – https://www.mlit.go.jp
- 国土交通省 住宅賃貸指数 – https://www.mlit.go.jp
- 不動産流通機構(REINS) 市場データ2025 – https://www.reins.or.jp
- 総務省 住宅・土地統計調査2023 – https://www.stat.go.jp
- 財務省 固定資産税関係特例措置 2025年度 – https://www.mof.go.jp