空き店舗が目立つ商店街を見るたびに、「今なら安く買って高利回りを狙えるのでは」と考える人は少なくありません。しかし、住宅と違い、店舗物件は収益が大きい分だけリスクも複雑です。本記事では、店舗 利回りの基本から相場、利回りを高める実践策までを体系的に解説します。読み終える頃には、数字の裏側を読み解き、自分に合った投資判断を下せるようになるはずです。
利回りの基礎と店舗投資ならではの特徴

まず押さえておきたいのは、利回りが「年間家賃収入÷物件価格×100」で表される指標だという点です。この計算式は住宅でも店舗でも同じですが、店舗投資では賃料変動が大きい分だけブレ幅が広がります。実は、同じ利回り6%でも安定度はテナントの業種や契約形態で大きく異なるのです。
そこで重要なのは、表面利回りと実質利回りを分けて考えることです。表面利回りは募集賃料ベースで算出するため、空室期間や修繕費を無視しています。一方、実質利回りは運営コストを差し引くため、現実に近い数値になります。店舗の場合、原状回復費や広告料が住宅より高い傾向にあるため、実質利回りとの差が2〜3ポイント開くケースも珍しくありません。
さらに、店舗契約は定期借家契約が主流で、更新時に賃料が上がることも下がることもあります。つまり、利回りは固定ではなく、テナントの事業成績によって変動する変数と理解した上でシミュレーションを行う必要があります。
店舗利回りを左右する五つの要素

ポイントは、利回りを決定づける要素を分解して分析することです。立地、物件スペック、テナント属性、契約内容、そして運営コストの五つを押さえれば、収益の全体像が見えてきます。
まず立地ですが、商圏人口だけでなく昼間人口と通行量の質が店舗収益を左右します。オフィス密集地のランチ需要と、住宅地のディナー需要ではピーク時間帯が違うため、最適なテナント業種も異なります。このギャップを理解せずに賃料設定をすると、想定利回りが簡単に崩れます。
次に物件スペックです。天井高や排気ダクトの有無など、飲食向け設備が整っていれば内装工事費が抑えられ、その分だけテナントは高い賃料を支払えます。逆にスケルトン(設備なし)状態なら、初期投資回収のために賃料交渉が長期化し、空室期間が伸びる可能性があります。
三つ目はテナント属性で、上場企業のフランチャイズと個人経営では信用度が違います。信用度が高いテナントは賃料がやや低くても長期入居が見込めるため、結果として実質利回りが安定します。一方、高賃料を提示するスタートアップは、撤退リスクも同時に抱えている点を忘れてはいけません。
四つ目に契約内容ですが、店舗では保証金(敷金)と償却が一般的です。保証金の水準が高ければ、賃料不払い時の回収リスクを抑えられます。また、定期借家契約の期間を短めに設定すれば、将来の市場変動に合わせて賃料を見直せる柔軟性が生まれます。
最後が運営コストです。店舗では看板更新や共用部光熱費の負担割合など細かい項目が多く、オーナー側が負担する範囲が広いと利回りが下がります。管理会社と分担を明確にし、入居前にテナントと費用負担を取り決めることで、収益のブレを最小限に抑えられます。
数字で見る店舗利回りの相場と住宅物件との差
実は、店舗利回りの平均値を把握すると投資判断が一段とクリアになります。日本不動産研究所の2025年レポートによると、東京23区の小規模路面店舗の平均表面利回りは6.1%です。これに対し、同年同地区のワンルームマンションは4.2%、ファミリータイプは3.8%、木造アパートは5.1%と公表されています。住宅より1〜2ポイント高いものの、利回りの分散幅は店舗が倍以上広い点が特徴です。
ここで注目したいのは空室期間です。国土交通省の「不動産投資市場動向調査2025」によると、住宅の平均空室期間が1.8ヶ月であるのに対し、店舗は約4.5ヶ月に伸びています。つまり、表面利回りが高くても空室損を加味すると実質利回りの差は縮まります。
また、賃料改定率のデータを見ると、住宅が年−0.2%であるのに対し、店舗は+0.8%です。改定幅の正負が逆転するため、好立地を選べば賃料アップによる利回り向上も期待できます。ただし、2020年代前半のコロナ禍で分かった通り、市場ショック時には店舗が先に下落する傾向も認識する必要があります。
利回りの比較を図示すると以下のようになります(表面利回り、2025年)
- 店舗 6.1%
- 木造アパート 5.1%
- ワンルーム 4.2%
- ファミリー 3.8%
この数字だけを見れば店舗が魅力的ですが、空室リスクと賃料変動リスクの二つを調整した「リスク調整後利回り」で並べ替えると、優良なアパートと同程度になるケースも多いのが現実です。
利回りを高める運営とリスク管理の実践策
基本的に、店舗利回りを向上させるカギは「テナント選定」「賃料設定」「コスト最適化」の三つに集約されます。中でもテナント選定は長期的な収益を左右するため、与信チェックと業態バランスの両面が欠かせません。
例えば、飲食店ばかりを集めると収益は高くても油汚れによる原状回復費が膨らみ、実質利回りが低下します。そこで、物販やサービス業を組み合わせて排水・排煙負担を平準化すると修繕コストが安定します。この発想は小規模路面店舗でも同様で、隣接テナントとの相乗効果が集客力と賃料維持に直結します。
次に賃料設定ですが、周辺相場の平均だけでなく、売上歩合賃料(売上高の一定割合を賃料とする方式)の導入も検討すると柔軟性が高まります。歩合賃料は好景気時に利回りを伸ばし、不況時に空室を防ぐクッションとなります。日本チェーンストア協会の統計によれば、歩合賃料を採用した郊外型店舗の空室率は通常契約に比べて1.5ポイント低いと報告されています。
コスト最適化では、スマートメーターの設置やLED照明化など、小規模でも設備更新の効果が大きい項目を優先します。経済産業省の2025年度「省エネ補助金」はLED・空調更新で最大50%補助(上限200万円)を提供しており、店舗物件も対象です。補助金が活用できれば、自己負担を抑えつつ運営費を削減し、利回り向上に直結します。
さらに、金融機関とのコミュニケーションも忘れてはいけません。店舗物件は評価が分かれやすいため、開業済みテナントの売上資料や来店データを定期的に提供すると金利優遇が受けられるケースがあります。0.2%の金利引き下げでも、1億円を2%・25年で借りた場合の総返済額は約300万円減少し、実質利回りが0.3ポイント向上します。
2025年度の税制・融資動向と利回りへの影響
重要なのは、税制と融資環境を把握しておくことが利回り管理に直結する点です。2025年度税制改正で注目されるのが、店舗を含む「非住宅用建物の減価償却期間短縮」です。鉄骨造プレキャスト工法の場合、耐用年数が34年から31年に見直され、1年あたりの減価償却費が増加します。言い換えると、初期年の課税所得が圧縮され、キャッシュフローが増えるため、実質利回りが改善します。
固定資産税については、中小企業庁の「中小企業経営強化税制」が2025年度も継続します。認定経営革新等支援機関のサポートを受け、エネルギー効率を高める改修を行った場合、固定資産税が最長3年間半額になります。改修費1000万円のうち補助金と税額控除を合わせると実質負担が約600万円まで圧縮できる試算もあります。
融資面では、日本政策金融公庫が2025年度の店舗取得資金に対し、最大20年・基準金利▲0.4%の特別利率を継続しています。長期固定で借りられる枠があると、変動金利の上昇局面でもキャッシュフローが読みやすくなります。また、民間銀行でも環境配慮改修を条件に0.1〜0.3%の金利優遇が広がっており、改修計画と併用することで利回りを底上げできます。
このように、税制と融資の最新情報を組み合わせることで、購入時だけでなく保有期間全体で利回りを高水準に保てる余地が大きくなっています。情報は毎年更新されるため、制度の適用期限や要件を必ず確認し、専門家と連携しながら活用する姿勢が欠かせません。
まとめ
店舗 利回りは住宅より高い反面、空室リスクや賃料変動リスクが大きいため、数字の裏側を読み解く力が求められます。立地やテナント属性、契約内容を丁寧に分析し、設備更新や税制優遇で運営コストを抑えれば、実質利回りを安定的に高めることが可能です。まずは周辺相場と自分のリスク許容度を照らし合わせ、シミュレーションを作成するところから始めてみましょう。適切な準備と継続的な改善が、将来の安定収益につながります。
参考文献・出典
- 日本不動産研究所 – https://www.reinet.or.jp
- 国土交通省 不動産投資市場動向調査2025 – https://www.mlit.go.jp
- 日本チェーンストア協会 業界統計2025 – https://www.jcsa.gr.jp
- 経済産業省 省エネ補助金2025 – https://www.meti.go.jp
- 中小企業庁 経営強化税制 – https://www.chusho.meti.go.jp
- 日本政策金融公庫 融資情報2025 – https://www.jfc.go.jp