築30年以上の中古物件を見て「古すぎて投資対象にならないのでは」と感じたことはありませんか。実は、法人を活用すれば築古物件でも収益を伸ばしやすい仕組みがあります。本記事では「築30年以上 法人化」を軸に、税務メリットから資金調達、リフォーム戦略、2025年度の支援制度までを網羅します。読み終えるころには、築古物件を法人名義で運用する具体的な手順と注意点がつかめるはずです。
築古物件を法人名義で保有するメリット

まず押さえておきたいのは、築30年以上の物件でも法人化によって収益構造を最適化できる点です。個人では高い所得税率が適用されやすい一方、法人は段階税率で利益が一定水準に収まれば実効税率を抑えられます。また、減価償却費の計上方法を柔軟に選べるため、キャッシュフローを平準化しやすくなります。
国税庁の令和6年度会社標本調査によると、資本金1億円以下の法人の実効税率は平均で約22%です。個人の最高税率45%と比べれば大きな差があることがわかります。築古物件は建物価格が低く抑えられ、土地より建物割合を引き上げやすい傾向にあります。言い換えると、法人で保有すれば減価償却費を多く取り、課税所得をさらに圧縮しやすいのです。
ただし、赤字を続ければ金融機関からの評価が下がる点には注意が必要です。減価償却で黒字を赤字にする方法は短期的な節税には有効ですが、長期的な信用力を犠牲にする恐れがあります。したがって、家賃収入と経費のバランスをシミュレーションし、最終的に黒字化できる計画を立てることが欠かせません。
築30年以上 法人化で押さえる税務のポイント
重要なのは、取得時と保有期間中の税負担を総合的に見ることです。取得時にかかる登録免許税や不動産取得税は個人と法人で差がないものの、法人設立費や毎年の法人住民税均等割が追加で発生します。
法人を設立するなら、設立時期に合わせた決算月の設定が節税効果を左右します。例えば、物件取得から決算期までの月数が短いと、初年度の課税所得を低く抑えやすくなります。また、中古木造なら最短4年で償却できる定率法を選択可能です。償却期間を圧縮すれば早期に資金を内部留保できる一方、早期に償却が尽きるリスクも理解しておく必要があります。
譲渡を視野に入れる場合、法人が5年以上保有しても譲渡益は通常の法人税率で課税されます。個人の長期譲渡税率20%と比較し、一概に法人が有利とは限りません。出口戦略に応じて、最初から売却益狙いか賃貸長期保有かを明確にし、税効果を計算することが成功への近道です。
資金調達とリフォーム戦略を連動させる
ポイントは、金融機関からの評価を高めるリフォーム計画を同時に組むことです。築30年以上でも、耐震基準適合証明やインスペクション結果を提示できれば、融資期間を延ばせるケースが増えています。住宅金融支援機構の2025年度調査でも、耐震補強済みの中古アパートは未補強物件より平均2年長い融資期間が認められました。
リフォーム費用は法人の経費として一括損金計上できる工事区分もあります。例えば原状回復を超えるバリューアップ工事であっても、部分的な設備交換なら修繕費扱いが可能です。この区分判断を税理士と詰めることで、キャッシュフローを圧迫せずに物件価値を高められます。
一方で、過度なリノベーションは家賃相場を逸脱しやすく、投資効率を下げる恐れがあります。周辺賃料データを基に、改修後にいくら賃料を上げられるか綿密に試算しましょう。法人帳簿上の資産計上額と市場価値が乖離すると、融資リファイナンス時に評価が伸び悩むこともあるため、数字の整合性を常に意識することが肝心です。
賃貸経営の出口をどう描くか
実は、築古物件の法人化は出口戦略で真価を発揮します。法人株式の譲渡により、不動産そのものを登記変更せずにオーナーチェンジできる手法があるからです。株式譲渡なら不動産取得税が発生せず、登録免許税も不要となります。買主が法人株式を取得するハードルはあるものの、インカムゲインが安定していれば魅力的な売却手段となり得ます。
さらに、オーナー個人が相続対策を考える際も法人化は役立ちます。株式の評価は純資産価額方式で算定されるため、減価償却で純資産を圧縮しておけば、相続税評価を下げる効果が期待できます。ただし、過度に評価を下げると金融機関の融資姿勢が硬化するため、定期的にBS(貸借対照表)の健全性をチェックしながら調整する必要があります。
出口の選択肢としては、物件売却、株式譲渡、持ち続けて配当を得る方法があります。いずれを選ぶにしても、開始時点で「何年後に、どの方法で、どの程度の税負担になるか」を試算し、逆算して経営計画を立てることが重要です。
2025年度の支援制度と実務上の注意点
まず、2025年度も有効な国の補助として「長期優良住宅化リフォーム推進事業」があります。築30年以上の賃貸物件でも、耐震・省エネ・劣化対策を満たす工事に対し、1戸当たり最大200万円の補助を受けられます。補助額は予算上限に達し次第終了するため、申請スケジュールを早めに確認しましょう。
また、東京都など一部自治体では築古賃貸の省エネ改修に対する独自補助を継続しています。ただし、自治体補助は年度途中で変更されやすく、法人名義の場合は対象外となるケースもあります。制度を利用する際は「法人でも申請可か」「工事発注前に申請が必須か」を必ず事前にチェックすることが欠かせません。
最後に、2025年12月時点でインボイス制度がすでに本格運用されています。賃貸住宅の家賃は非課税ですが、店舗や駐車場は課税対象です。法人が課税売上高1,000万円を超える場合、適格請求書発行事業者として登録し、消費税の申告を行う必要があります。築古物件は設備投資が多く仕入税額控除を取りやすいため、免税点を超えるかどうかシミュレーションしておくと安心です。
まとめ
築30年以上 法人化のキーワードには、個人では得にくい節税効果と資金調達の柔軟性が詰まっています。法人税率の低さ、減価償却のコントロール、株式譲渡という出口の多様さが大きな魅力です。ただし、設立コストや赤字リスク、消費税への対応など、法人特有の義務も伴います。重要なのは、物件購入前から出口までのシナリオを描き、税理士・金融機関・施工会社と連携しながら進めることです。築古物件でも戦略次第で高い収益を実現できるので、まずは信頼できる専門家と事業計画を作成し、一歩踏み出してみてください。
参考文献・出典
- 国税庁 法人税率の概要 – https://www.nta.go.jp
- 住宅金融支援機構 2025年度民間住宅ローン調査 – https://www.jhf.go.jp
- 国土交通省 長期優良住宅化リフォーム推進事業 2025年度概要 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省「インボイス制度の手引き」2025年版 – https://www.soumu.go.jp
- 東京都住宅政策本部 既存住宅省エネ改修助成 2025 – https://www.metro.tokyo.jp