築10年を迎えた賃貸物件のオーナーは、「そろそろ空室が増えそう」「家賃の下落が怖い」といった不安を抱えがちです。実際、国土交通省の住宅市場動向調査によると、築10年前後から成約スピードが緩やかに落ち始める傾向があります。しかし適切な空室対策を打てば、家賃収入を維持しながら資産価値を高めることは十分可能です。本記事では、築10年物件が直面するリスクを整理し、賃料設定・設備改修・集客強化・公的支援活用まで、効果的な方法を体系的に解説します。読み終える頃には、自身の物件に合った改善策をすぐに行動へ移せるはずです。
築10年前後の物件が直面する空室リスク

まず押さえておきたいのは、築年数と入居率の関係です。総務省「住宅・土地統計調査」では全国平均の空室率が13.6%ですが、築10~14年の区分に限ると空室率は10%弱とやや低めに推移しています。それでも築浅と呼ばれる5年未満の物件と比べると、駅近であっても募集期間が1.2倍に延びるというデータがあります。つまり築10年は空室対策の分岐点であり、早めの手当てが後々のキャッシュフローを左右します。
一方で、築10年物件には新築よりも優位な点があります。分譲仕様の設備を備えるケースが多く、建物構造もまだ減価償却途中です。したがって、適度なリフォームと差別化施策を組み合わせれば競争力を復活させやすい段階と言えます。また金融機関の評価も安定しやすく、追加融資を受けて改修資金を確保しやすい時期です。
重要なのは、地域の賃貸需要と競合物件を定期的にモニタリングし、家賃水準と設備グレードのギャップを可視化することです。ここを曖昧にしたまま家賃だけ下げると、収益性を損ないながら入居付けにも失敗する悪循環に陥ります。
賃料設定を見直して魅力度アップ

ポイントは、家賃を下げる前に「価格の根拠」をデータで示すことです。レインズやat homeの募集情報を分析すると、同エリア・類似築年数の成約賃料は募集賃料より平均5%低い数字で着地しています。つまり、初期設定を5%程度高めに掲示し、内見後の交渉で適切に歩み寄る戦略が功を奏します。
次に、家賃と付帯サービスを組み合わせる柔軟性が求められます。たとえばインターネット無料や宅配ボックス設置を条件付きで導入し、相場より2,000円高い設定でも入居者に「実質お得」と感じてもらう方法があります。東京都心の需要調査では、インターネット無料物件の成約率が1.3倍に向上し、解約率も15%下がったという結果があります。
また、賃料の「下げ幅」より「見せ方」が重要です。家賃を2,000円下げる代わりに敷金ゼロへ切り替える、または礼金を半額にする等、初期費用圧縮で意思決定を促す手法が有効です。築10年 空室対策としては、収益への直接的ダメージを抑えながら競合と差別化できるため、実行しやすい手段と言えます。
さらに、法人契約を視野に入れて家賃を税込み表示にし、契約事務を仲介会社へ一任できる体制を整えると、企業の総務担当者から選ばれやすくなります。こうした細やかなパッケージ化が賃料下落を防ぐ鍵です。
設備と内装のアップグレードで差別化
実は、築10年時点で最も投資効果が高いのは「部分リフォーム」です。国交省のリフォーム実態調査(2024年度)では、20万円未満の水回り更新で平均家賃が3,000円上昇したケースが多数報告されています。とりわけ単身向けワンルームでは、浴室乾燥機や温水洗浄便座の有無が成約スピードに直結します。
一方で、全面リノベーションは注意が必要です。工事費を家賃で回収するには7〜10年かかる場合が多く、築10年時点では費用対効果が読みにくくなります。そのため、キッチン水栓や照明、アクセントクロスなど「目に付く」部分から優先的に刷新し、投資額を抑えて印象を大きく変えることが現実的です。
また、エネルギー効率を高める設備は2025年度の税制優遇を受けやすいメリットもあります。具体的には高効率給湯器や断熱窓の導入で、固定資産税の減額措置を受けられる自治体が増えています。こうした補助制度は期限付きのため、施工前に自治体窓口へ確認し、書類を整えるステップを忘れないようにしましょう。
最後に、内装カラーを柔らかいグレートーンへ統一し、調光可能なLED照明を取り入れると、写真映えが向上します。SNS経由の問い合わせが増加し、募集コストを抑えながら集客力を高められる点も見逃せません。
マーケティングと管理体制を強化する
まず押さえておきたいのは、ポータルサイトに頼り切らない情報発信です。2025年現在、20代の約35%が物件探しにSNSを併用していると総務省の通信利用動向調査が示しています。管理会社と協力し、内装写真を縦型動画へ編集し、InstagramやTikTokへ掲載するだけでも、非公開内見予約が増えるケースが多くなりました。
さらに、内見から申込までのスピードを上げる仕組みも効果的です。電子契約サービスを導入すると、紙契約に比べて平均2日短縮でき、競合物件へ流れるリスクを抑制できます。電子契約は2025年現在、国交省のガイドラインに従えば宅建業法上も問題なく利用可能です。
加えて、入居後の顧客満足を高めることが長期入居につながります。24時間駆け付けサービスを外部委託し、月額500円を共益費へ上乗せすると、オーナーの実質負担を抑えつつ対応品質を維持できます。退去理由の上位である「管理対応への不満」を事前に防ぐ効果が期待できます。
最後に、定期的なアンケートを実施して潜在的な不満を吸い上げましょう。オンラインフォームを活用すれば集計コストはほぼゼロです。得られた意見を次のリフォーム計画に反映することで、継続的なアップデートサイクルが確立します。
2025年度の公的支援と税制を活用
重要なのは、補助金や税制優遇を点ではなく線で活用する視点です。2025年度は、国土交通省の「既存住宅省エネ改修推進事業」が継続予定で、戸当たり最大120万円の補助が受けられます。条件は断熱窓や高効率給湯器などを組み合わせ、省エネ性能を一定基準以上に向上させることです。申請は工事前が原則で、募集枠に限りがあるため早めの手配が欠かせません。
また、住宅ローン減税の投資用適用はありませんが、個人オーナーが青色申告を行うと、最大65万円の控除を活用できます。設備投資を行った年は減価償却費と併せて損益通算し、所得税を軽減することで実質キャッシュアウトを減らせます。
自治体レベルでも、東京都「既存住宅省エネ改修助成」(2025年度)は工事費の3分の1、上限50万円を補助します。埼玉県や福岡県などでも類似制度が用意されており、対象エリアを確認するだけで資金計画が大きく変わります。
さらに、固定資産税の減免措置は用途変更や長期空室を解消した場合に適用されることがあります。例えば大阪市では、管理不全空き家の解消に向けた改修で税額が最長3年間半額になります。こうした制度を組み合わせると、投資回収期間が1〜2年短縮することも珍しくありません。
まとめ
結論として、築10年 空室対策は「賃料の適正化」「部分リフォーム」「集客力強化」「公的支援活用」の四本柱をバランス良く実行することが鍵です。まずデータを基に家賃と競合状況を把握し、費用対効果の高い設備投資で物件価値を底上げしましょう。そのうえでSNS活用や電子契約による募集効率化を図り、補助金と税制を組み合わせて資金負担を抑えれば、家賃収入を長期にわたり安定させられます。今日からできる小さな改善を積み重ね、築15年、20年でも選ばれる物件を目指していきましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅市場動向調査2024年度版 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省 住宅・土地統計調査2023 – https://www.stat.go.jp
- 国土交通省 リフォーム実態調査2024 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省 通信利用動向調査2024 – https://www.soumu.go.jp
- 東京都 環境局 既存住宅省エネ改修助成2025 – https://www.kankyo.metro.tokyo.jp