ビル経営を始めたばかりの方の多くが、確定申告の複雑さに頭を抱えます。帳簿の付け方から経費の線引き、減価償却の方法まで、調べても断片的な情報しか見つからず不安になるでしょう。本記事では、2025年12月時点で押さえるべき「ビル 確定申告」の基本と節税のコツを体系的に解説します。読み終えたときには、必要書類の準備から電子申告まで自分で判断できる道筋が見えるはずです。
ビルオーナーが押さえたい確定申告の基本

まず押さえておきたいのは、ビルオーナーが提出する確定申告書は不動産所得用の「申告書B」と収支内訳書だという点です。これは給与所得者の白色申告とは異なり、賃料収入と経費を細かく記載する必要があります。
国税庁の統計によると、2024年分の不動産所得申告者の約六割が青色申告を選択しています。青色申告は65万円控除が得られるだけでなく、赤字を最大3年間繰り越せるのが大きな利点です。しかし複式簿記での記帳と貸借対照表の提出が求められるため、日々の仕訳を怠ると提出期限直前に慌てる原因になります。日常的に会計ソフトを使い、通帳や領収書を月ごとに整理する習慣が欠かせません。
提出期限は例年3月15日ですが、2025年は同日が土曜日のため3月17日月曜日まで延長されています。また電子申告のe-Taxを利用すれば、24時間いつでも申告が可能で、控除証明書の添付もオンラインで完結します。さらに青色申告特別控除は電子申告であれば65万円、紙提出だと55万円に差がつく点も見逃せません。このメリットは2021年改正から継続しており、2025年度も有効です。
経費計上で差がつくポイント

ポイントは、経費として認められる範囲を正しく理解し、漏れなく記帳することです。無駄な支出を抑えるより、合法的に経費計上を拡げるほうが節税効果は大きくなります。
代表的な経費には管理会社への委託料、共用部分の電気代、火災保険料があります。これらは領収書や請求書が残りやすいため、証明で困ることは少ないでしょう。一方で出張時の交通費や銀行融資の事務手数料など、プライベートと混同しやすい費用は根拠資料の保存が重要です。国税通則法では7年間の保存義務があるため、電子保存を含め確実に保管してください。
また、ビルの資産価値を維持するための清掃費や定期点検費も経費に含まれます。とくに2025年度から義務化された建物設備の省エネ診断費用は、環境性能向上計画認定を受けた場合に全額経費にできます。東京都のデータでは、この診断を受けた物件の空室率が平均2%低下しており、経費計上と収益改善の両方に寄与する好例です。
なお、支払利息は不動産所得の計算上、損益通算できる一方で、ビル以外の事業用借入と混在させると按分を求められます。金利が高めのローンを借り換えることで支払利息が減ると、その分経費は減りますがキャッシュフローは改善します。数字だけでなく手元に残る現金を基準に意思決定を行いましょう。
減価償却と修繕費の判断基準
重要なのは、長期的な減価償却と即時償却できる修繕費を区別し、最適なタイミングで支出を配分することです。ここを誤ると、法人税等級が上がり手取りが減る結果になります。
減価償却とは、建物や設備の取得価額を法定耐用年数にわたり費用配分する会計処理です。鉄筋コンクリート造のビルは耐用年数47年、エレベーターや空調などの付属設備は15年と設定されています。たとえば1億円で取得した建物本体を定額法で償却する場合、年間約213万円が経費になります。2025年度の税制では、中小企業で一定の電子帳簿保存要件を満たせば、30万円未満の資産を一括償却できる特例が継続されています。
一方、修繕費は支出額が20万円を超えても、機能が原状回復程度なら全額をその年の経費にできます。国税庁の『資本的支出か修繕費かの判断指針』では、耐用年数を延長するレベルの改良は資本的支出とされ、減価償却の対象です。実はこの線引きが最も税務調査で争点となりやすく、領収書だけでなく工事前後の写真や見積書を添付しておくと説明がスムーズになります。
さらに2025年度から、省エネ改修を行った場合に利用できる『建物省エネ改修促進税制』が2年間延長されています。要件を満たす断熱改修やLED化工事は、投資額の10%税額控除か即時償却の選択が可能です。どちらが有利かは黒字幅によって異なるため、改修前に必ずシミュレーションしましょう。
収支計算の落とし穴とキャッシュフロー改善
実は、税金計算上の利益と実際のキャッシュフローは一致しません。この差を理解しないと手元資金が枯渇し、計画的な修繕が難しくなります。
例えば減価償却費は現金支出を伴わないため、帳簿上は赤字でも手元には資金が残るケースがあります。国土交通省の『不動産投資家実態調査2024』によると、物件規模が3000㎡以上のビルオーナーの約三割が、この会計上の赤字を活用して所得税を圧縮していました。しかしローン元本の返済は経費にならないため、キャッシュアウトは続きます。返済と修繕積立の両方を賄えるか、長期の資金繰り表で確認しましょう。
一方で、空室が想定より長期化するとキャッシュフローは急激に悪化します。2025年時点での東京都心部オフィス空室率は6%台まで回復していますが、地方中核市では依然9%前後です。リーシング活動を早期に行い、フリーレントや内装カスタマイズを導入するなど柔軟な入居条件を提示すれば、実質利回りを下げずに入居率を維持できます。こうした費用も広告宣伝費や修繕費として経費に計上可能です。
最後に、キャッシュフロー改善策として金利タイプの見直しがあります。2025年4月の平均長期固定金利は2.1%ですが、変動金利は1.1%台を維持しています。変動へ借り換えると支払利息が減り、課税所得は増えるものの実際の手取りは増える場合が多いです。金利上昇リスクに備え、固定金利の上限を設定できるキャップ付き商品を選ぶとバランスが取れます。
2025年度の税制改正と電子申告のすすめ
まず押さえておきたいのは、2025年度税制改正でビルオーナーに直接影響するのは電子帳簿保存制度の要件緩和とインボイス制度の経過措置です。これらを理解すれば、申告作業を効率化しミスを減らせます。
電子帳簿保存制度は、スマホで撮影した領収書をクラウド保存すれば原本保管が不要になる仕組みです。2025年度からは保存要件のタイムスタンプ期限が2か月以内に緩和され、小規模事業者の実務負担が軽くなりました。これにより、従来の紙保存コストが年間数万円削減できると総務省は試算しています。
インボイス制度は、課税売上1億円以下の事業者に対し、2029年9月まで80%の仕入税額控除が認められる経過措置が継続中です。ビル賃貸の消費税は居住用部分が非課税、事務所部分が課税となるため、区分経理が不可欠です。電子申告では課税売上割合計算表をそのまま添付できるため、紙より転記ミスが減るメリットがあります。
e-Taxの利用率は国税庁データで2024年に73%と過去最高を更新しました。電子署名の取得やマイナンバーカードとの紐づけが必要ですが、一度設定すれば翌年以降は数クリックで申告が終わります。さらに、地方税ポータル『eLTAX』と連携すれば都道府県税も同時に申告でき、二重入力を防げます。こうしたIT活用は、税務調査の際にもデータ提出が容易になる点でリスク管理にも有効です。
まとめ
ビル 確定申告では、青色申告の活用、経費と減価償却の適正な区分、そして電子申告の導入が三本柱となります。制度を正しく理解して記帳を継続すれば、税負担を抑えながらキャッシュフローを改善できます。早めの準備と専門家への相談で、来期以降も安定したビル経営を目指しましょう。
参考文献・出典
- 国税庁 – https://www.nta.go.jp
- 総務省 統計局 – https://www.stat.go.jp
- 国土交通省 不動産・建設経済局 – https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/
- 東京都 住宅政策本部 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp
- 財務省 税制調査会 – https://www.mof.go.jp/tax_policy/
- 中小企業庁 – https://www.chusho.meti.go.jp