不動産投資を始めて10年ほど経つと、「そろそろ売るべきか、それとも賃貸を続けるべきか」という悩みが頭をもたげます。築10年の物件は、購入時のローン残高が減り始め、家賃も安定している一方で、設備の更新や将来の空室リスクが徐々に現実味を帯びてきます。本記事では、築10年のタイミングで考える出口戦略をテーマに、売却・保有・再投資の判断材料を整理します。最新の市場データと2025年度の税制優遇も踏まえながら、初心者でも取れる具体的なアクションを示しますので、迷いを解消するヒントとしてご活用ください。
築10年物件の魅力と課題

まず押さえておきたいのは、築10年物件が持つバランスの良さです。新築時より価格は落ち着き、表面利回りは向上しやすい一方で、まだ大規模修繕が本格化する前段階にあります。国土交通省の「住宅市場動向調査2025年版」によると、築0〜5年物件に比べ、築6〜15年物件の平均利回りは約1.2ポイント高い結果が出ています。
一方で、課題も見逃せません。給湯器やエアコンなどの主要設備は10年前後で交換時期を迎え、突発的な修繕費が発生しやすくなります。また、売却時の税制上の扱いも変化します。取得から10年を超えると長期譲渡所得となり、所得税および住民税が合計約20%に軽減されるメリットがあるものの、物件価値そのものが下落局面に差しかかるケースもあります。
さらに、借り手側の目線では築10年という区切りは心理的な節目です。新築同様の賃料を設定しにくくなる一方、築20年超ほどの大幅な値下げを求められるわけでもありません。つまり、家賃を微調整しながら顧客満足度を高める工夫が欠かせません。このように、魅力と課題が拮抗する時期だからこそ、出口戦略の再検討が重要になります。
価格推移データで読む売却タイミング

重要なのは、客観的な価格データをもとに売却タイミングを見極めることです。2025年の不動産価格指数(国土交通省)は、首都圏マンションで前年比3.4%の微増ですが、築11〜15年区分の成約単価は横ばいという結果でした。つまり、新築プレミアムが剝落した後は、立地要因が価格を左右します。
売却を考える際は、残債と売却予想価格の差額、いわゆるアッパーエクイティを確認します。実は、この差額が500万円以上確保できると、リスクを取らずに利益確定しやすいとされます。また、短期間で金利が再び上昇する可能性を見越し、金利1%上昇シナリオまで織り込んだキャッシュフロー表を作成すると、より現実的な判断ができます。
一方で、築10年を過ぎても周辺開発が進むエリアでは、価格が下支えされるケースがあります。再開発計画や新駅設置といった行政発表がある地域は、2025年時点でも将来の価値上昇が期待できます。売却を急がず、追加投資で価値を高める選択肢も視野に入ります。言い換えると、周辺環境の成長性が明確であれば、保持を選択する合理性が高まるのです。
住み替え需要を捉えるリフォーム戦略
ポイントは、築10年で実施する「選択的リフォーム」です。フルリノベーションに踏み切るのではなく、入居者が体感しやすい水まわりや照明を中心に改修することで、投資対効果を最大化できます。国土交通省の「住宅リフォーム調査報告2025」によると、キッチン・浴室の更新後に家賃が平均7%向上した事例が多く見られます。
また、2025年度の「住宅省エネ2025キャンペーン」では、高断熱窓や高効率給湯器への交換に対する補助金が継続しています。上限は1戸あたり30万円ですが、子育て世帯が入居する場合には上限が45万円に引き上げられるため、ターゲット層と補助金枠をセットで考えると費用負担を抑えられます。
リフォーム実施後は、室内写真と360度内覧をオンラインに載せることで、遠方の転勤族や二拠点生活層の需要を取り込めます。特に築10年は「まだ古くはないが、新築ではない」という印象を持たれやすいため、見た目の刷新が集客に直結します。つまり、比較的少額の資本投入で、賃料の底上げと出口価値の双方を狙えるタイミングなのです。
賃貸継続と売却、数字で比較する判断軸
実務的には、保有を続ける場合の10年後キャッシュフローと、今売却して再投資する場合の内部収益率(IRR)を比べます。以下のように数値を並べると、判断材料が明確になります。
・築10年賃貸継続:家賃12万円、空室率5%、管理費等15% ・売却後再投資:売却益700万円を頭金、表面利回り5.5%の築浅物件を新規取得
このモデルで試算すると、税引後キャッシュフローは現状維持が年間約80万円、一方で新規物件の初年度キャッシュフローは約65万円ですが、減価償却メリットと将来売却益の上振れ余地があります。したがって、短期的な手残りを優先するなら保有、長期的な資産拡大を狙うなら再投資が合理的です。
また、築10年物件は土地値割合が高まり、減価償却費が減るため節税効果が薄れていきます。実は、このタイミングで木造からRC(鉄筋コンクリート)への組み替えを検討すると、耐用年数の長さを活かしやすくなります。数字を並べると抽象的な議論が具体化しますので、必ず自分の資産表でシミュレーションを行いましょう。
2025年度の税制優遇を活用した出口設計
基本的に、2025年度も長期譲渡所得の軽減税率は継続しています。取得から10年を超えた物件を売却すると、譲渡所得税15%、住民税5%、復興特別所得税を合わせて約20%です。一方、取得から5年以下だと約39%ですから、築10年時点は売却税率面で有利です。
さらに、「固定資産税の住宅用地特例」は引き続き適用され、200平方メートル以下の小規模住宅用地は課税標準が6分の1です。保有を続ける場合は、土地評価額が高いほど節税効果が大きい点を押さえておきましょう。また、2025年度の「登録免許税特例」(省エネ住宅取得時の軽減)も延長予定です。売却益を元手に省エネ性能の高い築浅物件へ乗り換えれば、取得時コストを抑えながらポートフォリオを若返らせることができます。
なお、相続を視野に入れるなら、小規模宅地等の特例との兼ね合いも考慮します。築10年で評価減が進んだ物件を相続させるよりも、売却して現金化し、相続時精算課税を活用した資産移転に切り替えるケースも増えています。税制は毎年見直されますので、2026年以降の改正動向を随時チェックする姿勢が欠かせません。
まとめ
築10年という節目は、賃料の安定、設備更新、税制メリットが交差するタイミングです。価格データを基に残債と売却益を確認し、リフォームや補助金で価値を高めるか、再投資で資産を拡大するかを数字で比較することがポイントでした。最後に行動提案として、自分の物件について①10年後までのキャッシュフロー試算、②売却査定の取り寄せ、③補助金対象リフォームの見積もり取得、の三つを今週中に進めてみてください。早めに手を打つことで、将来の選択肢が大きく広がります。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅市場動向調査2025年版 – https://www.mlit.go.jp
- 国土交通省 不動産価格指数(住宅)2025年9月公表値 – https://www.mlit.go.jp
- 国土交通省 住宅リフォーム調査報告2025 – https://www.mlit.go.jp
- 経済産業省 住宅省エネ2025キャンペーン概要 – https://www.enecho.meti.go.jp
- 総務省 固定資産税及び住民税に関する資料2025 – https://www.soumu.go.jp