不動産投資と聞くとマンションやアパートを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし近年、物価上昇とオンライン販売の拡大で商業エリアの再編が進み、「店舗」に注目する投資家が増えています。とはいえ店舗物件は住居系と違い、賃料水準の変動や運営コストが読みにくい点が悩みの種です。本記事では、店舗投資のメリット・デメリットを具体例とデータを交えて整理し、初心者でも失敗しにくい判断軸を示します。読了後には、ご自身の投資目的に合った店舗活用戦略を描けるようになるはずです。
店舗投資の収益構造を理解する

まず押さえておきたいのは、店舗物件のキャッシュフローが住居系と異なる点です。店舗賃料は売上歩合や短期契約が組み込まれることが多く、空室が出た場合の賃料ダウン幅も大きくなる傾向があります。国土交通省の「令和6年不動産価格指数」によると、商業用不動産は住宅用より価格変動が1.3倍大きいとされ、リスクとリターンが比例しやすいと理解できます。
次に、テナントから受け取る共益費や看板使用料など、住宅にはない副次的な収入源がある点も特徴です。例えばロードサイド型店舗では、駐車場シェアリングで月5万〜10万円の追加収益が見込めるケースがあります。一方で、共用部照明や駐車場舗装の維持費が増えるため、実質利回りを計算する際は管理費を手厚く見積もることが重要です。
また、物販系とサービス系では収益モデルが異なります。物販は売上歩合賃料が主流ですが、サービス系は固定賃料が多く、長期的に安定しやすい反面、初期賃料が低めです。つまり、物件の立地だけでなく「どの業種が入る余地があるか」を把握しておくことで、将来のキャッシュフロー変動を小さくできます。
店舗投資で享受できる主なメリット

ポイントは、店舗賃料が住宅より高い水準で設定できる可能性が高いことです。東京23区の平均賃料をみると、住宅が1坪あたり月1.5万円前後なのに対し、主要商業エリアの飲食店賃料は月3万円を超えています。したがって、同じ延床面積でも表面利回りを高く確保しやすいのが店舗投資の大きな魅力です。
さらに、原状回復義務をテナント負担とする契約が一般的で、退去時の修繕コストを抑えられます。住居系でよくあるクロス張り替えや設備交換費用が最小化できるため、長期的にはキャッシュフローが安定しやすいと言えます。また、自主管理がしやすい点も見逃せません。営業時間帯が決まっている店舗の場合、クレーム対応が夜間に集中しにくく、遠隔管理システムを導入すればオーナーの手間を大幅に削減できます。
2025年度は、省エネ改修に対する「中小企業省エネ投資促進支援事業費補助金」が継続しています。店舗のLED化や空調更新に要する費用の2分の1(上限500万円)が補助対象となるため、設備更新と同時に賃料アップを狙う戦略が取りやすくなりました。資本的支出を抑えつつ競争力を高められるのは、個人投資家にとって大きな追い風です。
店舗保有のデメリットとリスク管理
一方で、最大のデメリットは空室リスクが住宅より高い点にあります。総務省「サービス産業動向調査」によると、飲食業の休廃業率は年間5%を超えており、5年で約25%のテナントが入れ替わる計算です。空室期間が長びくと、収益がゼロになるだけでなく、固定資産税や保険料が重くのしかかります。
また、テナントが決まっても内装工事期間は賃料が発生しないことが多く、現金流出が続く点に注意が必要です。物件購入前に「平均工事日数×予定賃料」を算出し、半年分程度の運転資金を別枠で確保しておくと安心です。
さらに、用途変更が難しい物件もリスク要因となります。例えば厨房ダクトの容量が小さい物件は飲食店に転用しづらく、テナントの裾野が狭まります。購入前に建築確認図面や消防法令の適合状況をチェックし、複数業種に対応できるかどうかを見極めましょう。
最後に忘れてはならないのが、賃料滞納リスクです。住居系のような家賃保証会社が少ないため、与信管理はオーナー自身が行う場面が増えます。最近はPOSデータを活用した与信サービスも登場しているので、業種の売上動向を客観的に把握したうえで契約することが、リスクを減らす近道になります。
立地・物件選びで抑えるべき判断軸
実は、店舗投資で成功するかどうかは立地の見極めに集約されます。最優先は「商圏人口×昼間人口」のバランスです。例えばオフィス街は昼間人口が多く平日強い一方、週末は閑散とします。飲食店を想定するなら昼夜とも一定数の人流がある集積地が有利になります。
次にチェックしたいのが歩行者交通量と視認性です。国土交通省が公開する「主要都市の人流オープンデータ」を使えば、曜日別・時間帯別の通行量が把握できます。通行量が1日1万人を超える地点は、物販やカフェなど回転率重視の業種に適しています。
さらに、自治体の都市計画も重要です。2025年度の都市再生特別措置法改正で、特定再開発促進区域に指定されたエリアでは建築基準が緩和され、中小規模ビルの建て替えが進む見込みです。将来の再開発に合わせて長期保有を考えるなら、区域指定の有無を役所で確認しておくと良いでしょう。
最後に、物件価格と賃料相場の乖離を検証します。近隣5物件の坪単価平均を出し、購入物件の価格が20%以上高い場合は利回りが低下する恐れがあります。また、修繕履歴や残存耐用年数を考慮し、購入後10年間の大規模修繕コストを試算しておくことで、不意の資金ショートを回避できます。
2025年度の税制・補助金を活用するコツ
基本的に、税制優遇と補助金を組み合わせると表面利回りを1〜2%上乗せできます。2025年度税制改正では、中小企業が取得した商業用建物に対し、建物価額の10%を特別償却できる措置が延長されました。これにより、初年度の減価償却費が増え、課税所得を圧縮できます。
加えて、地方税法の改正により、中心市街地活性化基本計画区域内の店舗を新築または取得した場合、固定資産税が3年間半額となる特例が2027年3月まで継続します。実効利回りを計算するときは、この軽減効果を加味すると、実質利回りが0.3〜0.5ポイント改善するケースもあります。
補助金では先述の省エネ投資促進支援に加え、「中小企業事業再構築補助金」が2025年度も継続予定です。飲食店から物販店へのコンバージョンやダークストアへの転用など、業態転換を伴う工事費の3分の2、上限2,000万円が補助されます。テナントがこれを活用することで、オーナー側の内装負担を抑えられるため、賃貸条件の交渉幅が広がります。
ただし、いずれの制度も予算枠と公募期間があります。投資を計画する際は、必ず公式サイトで最新スケジュールを確認し、専門家に事前相談することで、申請漏れを防ぎましょう。
まとめ
店舗投資は高い賃料と多様な収益源が魅力ですが、空室・賃料変動というリスクも抱えています。重要なのは、立地分析と与信管理を徹底し、キャッシュフローの変動幅を事前にシミュレーションすることです。さらに、2025年度の特別償却や固定資産税の軽減、そして省エネ補助金を活用すれば、初期投資と運営コストを抑えながら利回りを高められます。最後に、リスク対策として半年分の運転資金を確保しつつ、業種転換に対応できる汎用性の高い物件を選びましょう。行動に移すことで、住宅系とは一味違うリターンがあなたを待っています。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省 サービス産業動向調査 – https://www.soumu.go.jp
- 中小企業庁 省エネ投資促進支援事業費補助金 – https://www.chusho.meti.go.jp
- 財務省 2025年度税制改正大綱 – https://www.mof.go.jp
- 地方公共団体情報システム機構 都市計画GIS – https://www.lasdec.or.jp