都市部でも郊外でも、テナントが決まらず収益が伸び悩むオーナーは少なくありません。働き方の多様化やビルの老朽化が重なると、空室は一気に増え、キャッシュフロー全体を圧迫します。そこで本記事では「ビル 空室対策」をキーワードに、背景分析から実践策、資金計画までを体系的に解説します。読めば、自分のビルに合った改善策を描けるようになりますので、最後まで参考にしてください。
空室が生まれる背景を知る

まず押さえておきたいのは、空室率を押し上げる複合要因です。国土交通省が2025年6月に公表した「不動産市場動向調査」によると、東京23区の平均オフィス空室率は6.3%とコロナ禍直後より改善しました。しかし、築30年以上のビルに限ると10%台が常態化しており、建物の競争力低下が際立ちます。
働き方の変化も見逃せません。総務省の就業構造基本調査では、在宅勤務を月8日以上活用する企業が2020年比で2倍に増えています。つまりオフィス需要全体が縮小する一方、環境性能や共用部の質が高いビルにテナントが集中しやすい状況です。
さらに、サステナビリティへの意識も高まっています。環境省が推進する「2025年度 既存建築物省エネ化推進事業」では、一定の省エネ改修に補助が出るため、大規模更新を決断する競合ビルが増加中です。対策を先送りすると、立地が良くても選ばれにくいという現実が迫っています。
テナントが選ぶビルの条件

重要なのは、借り手が何を重視しているかを正しく把握することです。テナントニーズを整理すると「立地・設備・柔軟性」の三つに集約できます。立地は駅距離だけでなく、生活利便施設やバス停の近さも評価対象です。
設備面では、空調の個別制御や高速ネット回線が必須になりました。日本不動産研究所の2025年調査では、テナントの67%が「通信速度が不満なら移転を検討する」と回答しています。加えて、共用ラウンジや会議室を整えると、オフィス面積を縮小したい企業に訴求できます。
柔軟性とは、レイアウト変更や賃料交渉の余地を指します。短期解約に応じるフレキシブル契約や、フロア分割の提案ができれば、スタートアップや地方企業の東京拠点など、従来取りこぼしていた層を取り込めます。つまりハードとソフトを同時に磨くことが、空室率改善の早道です。
コストを抑えたリノベーション戦略
ポイントは、「費用対効果が高い改修」を段階的に行うことです。まず内装リフレッシュとして、床材と照明を統一感あるデザインへ一新すると、坪単価3万円前後で印象を大きく変えられます。次に水回りの更新を施せば、女性社員の比率が高い企業からの評価が上がります。
省エネ性能の向上も不可欠です。2025年度の固定資産税軽減措置では、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)相当の改修を行った場合、税額が50%減免される自治体があります。断熱材の追加や高効率空調の導入は初期コストが大きいものの、補助金と減税を併用すれば実質負担を3割程度まで圧縮できます。
耐震補強を同時に行うと、BCP(事業継続計画)を重視する企業に訴求できる点も見逃せません。東京都都市整備局の資料では、耐震基準を満たしたビルの平均成約期間が、満たさないビルより1.8カ月短いと示されています。リノベーションを総合的に計画し、財務負担を平準化することが長期的な安定運営につながります。
デジタルを活用した募集力強化
実は、適切な情報発信だけで空室期間を半減させた事例も増えています。不動産ポータルサイトに掲載する際は、図面と合わせて360度VR内覧データを提示しましょう。国土交通省「不動産テック導入実態調査」によれば、VR公開物件の問い合わせ件数は非公開物件の1.6倍に上ります。
AIを活用した賃料査定ツールを使えば、周辺の成約事例を自動で分析し、適正賃料の上限と下限を把握できます。これにより、最初から高過ぎる募集賃料を設定するリスクを避けられます。さらに、SNS広告を併用してターゲット業種へ配信すると、募集開始から1週間で内覧予約が入る確率が高まります。
リーシング業務を外部の仲介会社に任せきりにせず、オーナー自身がアクセス解析データを確認することで、募集文面や写真の改善ポイントが見えてきます。デジタルツールは導入して終わりではなく、運用しながら仮説検証を続ける姿勢が成果を左右します。
中長期で考える賃料戦略と資金計画
基本的に、ビル経営は「収益の安定」と「資産価値の維持」を両立させるゲームです。短期空室を埋めるための値下げは有効ですが、将来を見据えて段階賃料(ステップ賃料)を設定し、原状回復費用の範囲まで織り込むことが重要です。三井住友トラスト基礎研究所の分析では、ステップ賃料を導入したビルは、契約更新時の離脱率が12%低下しています。
資金面では、リノベーション費用と運転資金を分けて借り入れると管理がしやすくなります。金利が上昇局面にある2025年は、固定金利型の長期ローンで改修資金を確保し、運転資金は短期の変動金利枠で機動的に借りる方法が推奨されます。
結論として、空室対策は単発の施策ではなく、設備投資と賃料設計を循環させる「経営戦略」として捉える必要があります。定期的にキャッシュフロー表を更新し、空室率10%・金利+1%といった厳しいシナリオでも耐えられるか確認することで、突発的な市場変動にも対応できます。
まとめ
本記事では、空室が生じる背景からテナントが求める要素、リノベーションの進め方、デジタル活用、そして賃料戦略までを網羅的に紹介しました。重要なのは、建物の競争力を高めるハード投資と、柔軟な賃料設定を組み合わせることです。
まずは現在のビルを点検し、改善効果が大きい箇所をリスト化してください。そのうえで補助金や減税を活用しながら改修計画を立て、デジタルで効果検証を続けると、空室率は着実に下がります。行動を先延ばしにせず、今日から具体的な一歩を踏み出しましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産市場動向調査(2025年6月版) – https://www.mlit.go.jp/
- 総務省 就業構造基本調査(2025年版) – https://www.stat.go.jp/
- 東京都都市整備局 既存建築物耐震化の進捗状況(2025年度) – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/
- 日本不動産研究所 テナントニーズ調査(2025年) – https://www.reinet.or.jp/
- 三井住友トラスト基礎研究所 収益不動産レポートNo.56(2025年11月) – https://www.smth.jp/