相続が目前に迫ると「現金で残すか、不動産で残すか」で迷う方が多いものです。特に築10年前後の中古物件は、購入価格が落ち着き始める一方で建物の価値がまだ残り、相続税評価を抑えやすいという特徴があります。本記事では、築10年物件を使った相続対策の基本から2025年度の最新制度までを分かりやすく解説します。読めば、現金を減らさずに税負担を軽くし、家族に安定収益を残す具体的なヒントが得られるでしょう。
築10年物件が相続で注目される理由

重要なのは、築10年というタイミングが評価額と収益性の“バランス点”になりやすいことです。新築に比べ価格は2〜3割下がり、固定資産税も緩やかになる一方、賃貸市場ではまだ「築浅」扱いで家賃が大きく下落しにくい傾向があります。
国土交通省の不動産価格指数では、築10年前後の区分マンションは新築比およそ78%の価格水準で推移しています。つまり取得コストを抑えながら、空室リスクを抑えた運用が可能です。また、建物の相続税評価額は「固定資産税評価額×0.7」が目安となり、築年数が進むほど評価が縮むため、現金より評価額を圧縮できます。
一方で、築20年を超えると修繕費負担が急増するというデータも総務省統計に示されています。相続人の世代が長期保有しやすい築10年物件は、将来の維持コストと税額の両面でバランスが取りやすいのです。
相続税評価と築年数の関係

まず押さえておきたいのは、相続税で計算される「路線価評価」と「固定資産税評価」の使い分けです。土地は国税庁路線価で評価され、建物は前段の式で求められます。築10年物件では、建物評価が新築比約60%に低減しているケースが多く、現金をそのまま持つより課税ベースを抑制できます。
たとえば土地評価2,000万円、建物評価1,200万円の新築物件が、築10年後に建物評価720万円まで下がったとします。このとき相続税評価額は2,720万円から2,000万円+720万円=2,720万円へ変化しないと思われがちですが、実際には建物だけが下がるため総額は220万円減り、税率が20%の場合でも44万円の節税効果が見込めます。
また、建物評価が下がる一方で賃料は築5年物件比90%程度で推移することが多く、キャッシュフローが安定しやすいのも魅力です。言い換えると、築10年は“課税評価の節約”と“収益の確保”を両立しやすい期間といえます。
築10年物件を使ったキャッシュフロー改善策
ポイントは、購入後の収支を長期目線で設計することです。築10年物件は大規模修繕まであと10年程度ある場合が多く、運営初期のキャッシュフローを圧迫しにくいメリットがあります。
まず、金融機関の融資年数は建物の法定耐用年数内が原則です。木造アパートなら残り22年、RC造マンションなら残り37年が上限ですが、築10年であればまだ十分に長期融資が期待できます。金利を年0.3%下げられれば、3,000万円の借入で30年間にわたり約150万円の利息削減効果が生まれます。
さらに2025年の市場データでは、主要都市のファミリー向け中古マンション平均利回りが4.3%、築浅ワンルームで3.8%です。築10年ファミリータイプを選べば、表面利回りと入居期間の長さがかみ合い、空室損を抑制しやすくなります。資金を寝かせない運用と相続税評価圧縮を両立できる点が、中古ならではの強みといえるでしょう。
2025年度の節税制度と活用ポイント
実は、2025年度も相続対策に活かせる制度がいくつか存続しています。たとえば「住宅取得等資金の贈与税非課税枠」は、父母・祖父母からの資金援助を最大1,000万円まで非課税で受け取れる制度です(2025年12月31日契約分まで)。築10年物件の取得資金に充てれば、贈与税と相続税の両方で節税メリットが得られます。
また、「小規模宅地等の特例」は2025年度も存続しており、被相続人の賃貸物件に該当すれば土地評価の50%が減額されます。都心部で土地価格が高い物件ほど効果が大きく、築10年マンション一室でも適用可能なケースがあります。ただし貸付事業の期間要件など細かい条件があるため、購入前に税理士へ確認すると安心です。
一方、固定資産税の新築軽減措置は築10年物件には適用外ですが、取得後の「耐震・省エネ改修減税」は2025年度も継続予定です。相続前に工事を行い家賃を底上げしつつ、所得税控除を受ける手法も検討余地があります。
購入から相続までの実践ステップ
まず、物件選定では「立地」「管理状態」「修繕履歴」の三つを重視してください。築10年でも直近で大規模修繕が済んでいれば、当面のコストを抑えられます。管理状態は管理組合の総会議事録や長期修繕計画から確認し、将来の負担を可視化することが欠かせません。
次に、融資を申し込む際は相続時の残債リスクを想定し、団体信用生命保険の内容を細かくチェックしましょう。被相続人が亡くなった時点でローン残高がゼロになるタイプを選べば、家族には無借金の不動産だけが残り、相続税評価も債務控除でさらに減らせます。
最後に、遺言書や家族信託を準備しておくと、遺産分割トラブルを避けやすくなります。不動産は分けにくい資産ですが、信託契約を使えば賃料収入の分配方法を細かく指定できます。つまり、築10年物件を購入した時点から相続後の管理まで一気通貫で設計することが、家族全員の安心につながるのです。
まとめ
現金をそのまま残すより、不動産に組み替えた方が相続税評価を圧縮できる場面は多々あります。特に築10年物件は、価格下落が一段落しており、収益性と節税効果のバランスが取れています。本記事で紹介した評価額の仕組みや2025年度制度を踏まえ、購入前の調査と専門家への相談を徹底すれば、家族に安定収入と安心を同時に残せるでしょう。まずは気になるエリアの築10年物件をリストアップし、キャッシュフローと税効果を試算してみてください。
参考文献・出典
- 国税庁 路線価図・評価倍率表 https://www.rosenka.nta.go.jp/
- 国土交通省 不動産価格指数 https://www.mlit.go.jp/
- 総務省 住宅・土地統計調査 https://www.stat.go.jp/
- 財務省 租税特別措置法等資料 https://www.mof.go.jp/
- 東日本不動産流通機構 月例市場動向レポート https://www.reins.or.jp/