不動産投資を始めたばかりの方から「SRC造は頑丈と聞くけれど、実際の収益はどうなるのか」と相談を受けることが増えました。確かに鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)は耐震性と耐久性に優れますが、表面利回りだけを見て購入すると思わぬ赤字に陥る恐れがあります。本記事では、SRC造物件の特性を踏まえつつ、収支を数値で検証するシミュレーション手法を解説します。読み終えたとき、物件選定から資金計画まで自分で試算できる力が身に付くはずです。
SRC造の強みとコスト構造を正しく理解する

重要なのは、SRC造が「強い建物」である一方、建築コストも維持コストも高いという事実を把握することです。まず建物の仕組みを理解し、耐震性や耐用年数が収支にどのような影響を与えるか確認しましょう。
SRC造は鉄骨の柱や梁をコンクリートで包み込む構造です。このハイブリッド構造により、鉄骨造の柔軟性とRC造の剛性を併せ持ちます。国土交通省の「建築物ストック統計(2024年版)」によると、SRC造の平均耐用年数は60年以上で、同規模のRC造より10年ほど長い結果が出ています。つまり長期保有を前提にすれば、減価償却期間が延びる分だけ節税効果が持続します。
一方で建築コストは同じ延床面積でもRC造より15〜20%ほど高い傾向があります。さらに、大規模修繕では外壁タイルの剝離対策や鉄骨部の防錆処理が追加されるため、長期修繕計画の積立金が高く設定されがちです。収益性を判断する際は、表面利回りに惑わされず、修繕積立金や管理費を含めた実質利回りで比較する姿勢が不可欠です。
耐震性能についても触れておきます。2025年現在の新耐震基準(1981年施行)を満たすSRC造は震度6強の地震でも倒壊しにくいとされています。地震保険料率は木造比で約30%低く、固定費削減につながります。ただし旧耐震基準の物件は補強工事など追加コストが必要ですから、購入前に構造計算書と適合証明書を必ず確認してください。
投資で押さえるべき収益モデル

ポイントは、月次キャッシュフローだけでなく、売却益まで含めた総合収益を把握することです。SRC造は資産価値の目減りが緩やかなため、長期のトータルリターンで評価すると優位性が際立ちます。
まず家賃収入です。大手ポータルサイトの2025年10月平均賃料データによると、都心部のSRC造ワンルームはRC造より月額3000円ほど高い設定が一般的です。空室率も低く、日本賃貸住宅管理協会の調査ではSRC造区分の平均空室率は5.2%と、木造アパートより2ポイント良好な結果が示されています。実は家賃単価の高さよりも安定稼働率の高さが、長期収益を押し上げる主因となります。
続いて減価償却です。税法上の耐用年数は47年ですが、中古物件を取得した場合は「残存耐用年数法」で算出し直すため、築25年のSRC造なら残り22年を均等償却できます。年間経費が増えることで手取り収入を圧縮し、所得税と住民税の節税につながります。高所得者ほどこの効果は大きく、シミュレーションの際は必ず税引き後キャッシュフローまで試算しましょう。
売却益についても触れます。都市再開発が進むエリアでは、SRC造マンションの価格下落が緩やかです。国土交通省「不動産価格指数(2025年7月公表)」によると、首都圏中古マンション価格は過去10年で平均年2.8%上昇し、その中でもSRC造は3.1%とやや高い伸びを示しています。つまり家賃と売却益のダブルリターンが期待できる点がSRC造投資の魅力です。
シミュレーションの作り方と着眼点
まず押さえておきたいのは、シミュレーションには「初期費用」「運営費用」「出口戦略」の三つの視点を一体で組み込むことです。計算式そのものはシンプルですが、想定値を現実に近づけることで判断の精度が上がります。
初期費用では、物件価格のほか登記費用・仲介手数料・ローン事務手数料を合計します。SRC造の場合、長期修繕計画に基づく修繕積立基金が要求されるケースが多く、取得時に30万〜50万円上乗せされる点を忘れないでください。ここで自己資金比率を2割以上に設定すると金利優遇が受けやすく、初心者でも返済負担を抑えられます。
運営費用の設定が収支を大きく左右します。管理費と修繕積立金は月額家賃の15%程度を見込むと保守的です。さらに火災・地震保険を年額9000円、賃貸管理会社への手数料を家賃の5%と設定するのが一般的です。家賃下落率は年1%〜1.5%、空室率は都心で5%、地方中核市で10%といった地域差を反映させます。これらを20年間のキャッシュフロー表に落とし込み、DSCR(元利返済余裕率)が1.2倍を下回らないかチェックします。
出口戦略では、最終年の売却価格を保守的に想定します。国税庁の路線価やREINS成約データを参考に、年1%の価格下落を入れると現実的です。加えて譲渡所得税やローン残高を差し引くと手元に残るキャッシュが算出できます。試算結果がIRR(内部収益率)で7%を超えるなら、SRC造としては魅力度が高い水準と判断できます。
リスクと対策を数値で検証する
実は、シミュレーションが役立つのはリターンの確認だけではありません。想定外の事態が起きたときの耐性を測るためにも活用できます。ここでは代表的なリスクを挙げ、数値的な対処方法を示します。
まず金利上昇リスクです。日本銀行の金融政策決定会合では2025年9月に政策金利が0.25%引き上げられました。変動金利で借入れている場合、0.5%金利が上がると年間返済額が概算で物件価格の0.3%増えます。シミュレーションでは金利+1%のストレスをかけ、キャッシュフローが赤字に転落しないか確認します。
次に修繕費の突発増額です。外壁タイル全面貼り替えになった場合、30戸規模の物件で総額1200万円程度かかるケースがあります。積立金で不足する200万円を一括拠出すると仮定し、運営キャッシュに反映させましょう。もし手元資金が尽きるようなら、購入段階で修繕積立金総額を精査し、負担割合が妥当かを再評価すべきです。
最後に賃料下落リスクです。人口減少局面で郊外エリアの家賃は年2%下がる恐れがあります。シミュレーションでは家賃下落率を1%から2%に変更し、IRRが5%を割り込むようなら投資基準を再考するのが安全策です。このように数値を変えて感度分析を行うことで、リスク許容度に合った投資判断が可能になります。
まとめ
本記事ではSRC造の構造的特徴から収益モデル、そして具体的なシミュレーション手法まで順を追って説明しました。強固な躯体と長い耐用年数は魅力ですが、建築コストの高さや修繕負担の大きさも織り込む必要があります。シミュレーションを実施するときは、初期費用・運営費用・出口戦略を一体で考え、金利や家賃下落の感度分析を忘れないでください。ここまで押さえれば、SRC造でも現実的な利回りを見極められるはずです。行動に移す際は、必ず最新のデータと専門家のアドバイスを参照し、自身のリスク許容度に合う物件を選んでください。
参考文献・出典
- 国土交通省 建築物ストック統計2024年版 – https://www.mlit.go.jp/
- 国土交通省 不動産価格指数2025年7月公表 – https://www.mlit.go.jp/
- 日本賃貸住宅管理協会 賃貸住宅市場景況感調査2025年版 – https://www.jpm.jp/
- 日本銀行 金融政策決定会合資料2025年9月 – https://www.boj.or.jp/
- 国税庁 路線価図 2025年版 – https://www.rosenka.nta.go.jp/