「タワマン節税はもう使えない」という話を耳にしたことはありませんか。確かに令和6年1月1日から財産評価基本通達が改正され、以前のような大幅な節税効果は見込めなくなりました。しかし、正しい知識と計算方法を理解すれば、2025年以降もタワーマンションを活用した相続対策は有効です。この記事では、改正内容の詳細から具体的な計算方法、物件選びのポイントまで、実務に役立つ情報をお届けします。
タワマン節税の仕組みと問題点

タワーマンション節税とは、相続税評価額と実際の市場価格(時価)との差を利用した節税手法のことです。タワーマンションは高層階になるほど市場価格が高くなる一方、相続税評価額は階数に関係なく専有面積で按分されるため、大きな評価差が生じていました。
たとえば、市場価格が2億円のタワーマンション高層階でも、相続税評価額が6,000万円程度にとどまるケースがありました。この差額1億4,000万円が課税対象から外れることで、相続税を大幅に圧縮できたのです。富裕層の間でこの手法が広まり、相続直前にタワーマンションを購入し、相続後すぐに売却するような租税回避的な行為も見られるようになりました。
こうした状況を受けて、令和4年4月19日の最高裁判決では、相続直前のタワーマンション購入による節税が否認されました。この判例では、被相続人が94歳で約13億円のタワーマンション2棟を購入し、相続税評価額約3億3,000万円で申告したケースが問題となりました。国税庁は財産評価基本通達の総則6項を適用し、鑑定評価額約12億7,000万円で課税することを認められたのです。
令和6年改正で何が変わったのか

最高裁判決を受けて、国税庁は令和6年1月1日から財産評価基本通達を改正しました。この改正のポイントは、「区分所有補正率」という新たな概念が導入されたことです。従来の評価方法に補正を加えることで、相続税評価額と市場価格の乖離を是正する狙いがあります。
具体的には、マンションの相続税評価額が市場価格の6割を下回る場合、強制的に6割まで引き上げる仕組みが設けられました。この改正により、以前のように評価額と時価が大きく乖離するケースは減少しています。ただし、すべてのタワーマンションが対象になるわけではなく、地階のみの物件や総階数が2階以下の物件などは適用除外となります。
重要なのは、改正後も評価額と市場価格に一定の差が残る点です。適切な物件選びと制度の理解があれば、引き続き相続対策として活用できる余地があります。
評価乖離率の計算方法
新制度では、まず「評価乖離率」を算出する必要があります。この数値が、補正率を決定する基準となります。評価乖離率は、次の4つの要素を足し合わせた計算式で求められます。
計算式は「A+B+C+D+3.220=評価乖離率」となります。Aは築年数に応じた数値で、「築年数×▲0.033」で計算します。築年数が長いほどマイナス値が大きくなり、評価乖離率は低くなります。Bは総階数で、「総階数×0.239」です。高層マンションほど評価乖離率が高くなります。
Cは所在階に関する数値で、「所在階×0.018」で算出します。高層階になるほど数値が上がります。そしてDは敷地持分狭小度で、「敷地利用権の面積÷専有部分の面積×▲1.195」という計算式を使います。タワーマンションのように敷地持分が小さい物件ほど、評価乖離率が高くなる仕組みです。
区分所有補正率の決まり方
評価乖離率が算出できたら、次に「評価水準」を求めます。評価水準は「1÷評価乖離率」で計算できます。この評価水準が0.6(つまり60%)を下回るかどうかが、補正率適用の分かれ目となります。
評価水準が0.6以上の場合、区分所有補正率は1.0となり、従来の評価額がそのまま適用されます。一方、評価水準が0.6未満の場合は、「評価乖離率×0.6」が区分所有補正率となります。つまり、相続税評価額が市場価格の6割未満にならないよう、強制的に引き上げられる仕組みです。
具体例で考えてみましょう。評価乖離率が2.5の物件の場合、評価水準は「1÷2.5=0.4」となります。0.4は0.6を下回るため、区分所有補正率は「2.5×0.6=1.5」が適用されます。従来の相続税評価額が4,000万円だった場合、新評価額は「4,000万円×1.5=6,000万円」に引き上げられます。
具体的なシミュレーション事例
都心の築3年、総階数40階建てタワーマンションの30階住戸を例に計算してみましょう。専有面積は70㎡、敷地利用権の面積は5㎡、市場価格は1億2,000万円、従来の相続税評価額は4,000万円とします。
まずAは「3年×▲0.033=▲0.099」、Bは「40階×0.239=9.56」、Cは「30階×0.018=0.54」、Dは「5㎡÷70㎡×▲1.195=▲0.085」となります。これらを合計すると、評価乖離率は「▲0.099+9.56+0.54+(▲0.085)+3.220=13.136」です。
評価水準は「1÷13.136=0.076」となり、0.6を大きく下回ります。したがって区分所有補正率は「13.136×0.6=7.88」が適用されます。新しい相続税評価額は「4,000万円×7.88=3億1,520万円」となりますが、これは市場価格1億2,000万円を超えてしまいます。
このような場合、実務上は評価額が市場価格を上回らないよう調整されるのが一般的です。つまり、このケースでは評価額は市場価格の1億2,000万円程度に収まると考えられます。改正前は4,000万円で評価されていた物件が、改正後は市場価格に近い水準で評価されることになり、節税効果は大幅に縮小しました。
2025年も有効な物件選びのポイント
改正後も一定の節税効果を得るためには、物件選定の戦略が重要になります。評価乖離率の計算式から逆算すると、いくつかのポイントが見えてきます。
築年数については、新築よりも中古物件のほうが有利です。計算式上、築年数が長いほど評価乖離率が下がり、補正率の影響を受けにくくなります。ただし、あまりに古い物件は建物の評価額自体が低くなるため、バランスを見極める必要があります。築10年から15年程度の物件が、実務上は狙い目とされています。
総階数については、中低層マンションのほうが補正の影響を受けにくい傾向があります。総階数が多いほど評価乖離率が上がるため、超高層タワーマンションよりも、10階から15階建て程度の中規模マンションのほうが有利になるケースがあります。
所在階は、低層階を選ぶことで評価乖離率を抑えられます。ただし、低層階は市場価格自体が安いため、節税効果の絶対額としてはそこまで大きくならない点に注意が必要です。
小規模宅地等の特例との併用
タワーマンション節税の効果が薄れた今、より重要性を増しているのが小規模宅地等の特例です。この特例は、被相続人が居住していた宅地を相続人が引き継ぐ場合、330㎡まで評価額を80%減額できる制度です。
タワーマンションの場合、敷地利用権の面積が330㎡を超えることはまずありません。したがって、自宅として居住していたタワーマンションを相続する場合、土地部分の評価額は80%減額の対象となります。区分所有補正率で引き上げられた評価額に対しても、この特例は適用可能です。
ただし、適用を受けるためには厳格な要件があります。相続人が相続開始時から申告期限まで引き続き居住すること、申告期限から3年間は売却しないことなどが求められます。相続税対策としてタワーマンションを購入する場合は、この特例の要件を満たせるかどうかを事前に確認しておくことが重要です。
2025年の不動産市場動向
国土交通省が発表した2025年公示地価によると、全国の全用途平均は前年比プラス2.7%と4年連続で上昇しています。住宅地はプラス2.1%、商業地はプラス3.9%となり、特に三大都市圏での上昇が顕著です。
都心部のタワーマンション価格も引き続き高止まりしており、相続税評価額との乖離は依然として存在します。ただし、令和6年改正によって乖離幅は是正されつつあり、以前のような極端な節税効果は期待できなくなりました。
一方で、日銀の金融政策変更により金利上昇が進んでいます。住宅ローン金利の上昇は不動産価格の下落要因となりうるため、今後の市場動向には注意が必要です。相続対策としてタワーマンションを購入する場合は、短期的な節税効果だけでなく、中長期的な資産価値の変動リスクも考慮すべきでしょう。
専門家との連携が不可欠
タワーマンション節税は、改正後も完全になくなったわけではありません。しかし、効果を最大化するためには、より精緻な計算と戦略的な物件選びが求められるようになりました。評価乖離率の計算、区分所有補正率の適用判断、小規模宅地等の特例との組み合わせなど、専門的な知識が必要な場面が増えています。
相続対策を検討する際は、不動産と税務の両方に精通した専門家への相談をおすすめします。税理士を選ぶ際には、マンションの財産評価実務に詳しいかどうかを確認してください。面談時に評価乖離率や区分所有補正率について具体的な説明ができるかどうかが、一つの判断基準となります。
また、相続対策は早めに始めるほど選択肢が広がります。被相続人が元気なうちに、家族で将来の方針を話し合い、専門家を交えてシミュレーションを行うことが大切です。3年後、5年後を見据えた実行計画を立てておくことで、いざというときに慌てずに対応できます。
まとめ
2025年現在、タワーマンション節税は令和6年改正によって大幅に効果が縮小しました。区分所有補正率の導入により、相続税評価額が市場価格の6割を下回らないよう是正される仕組みが設けられたためです。しかし、適切な物件選びと他の制度との組み合わせによって、依然として一定の節税効果を得ることは可能です。
重要なのは、評価乖離率や補正率の計算方法を正しく理解し、物件ごとに具体的なシミュレーションを行うことです。築年数、総階数、所在階、敷地持分狭小度の4要素が節税効果を左右するため、これらを踏まえた戦略的な物件選定が求められます。また、小規模宅地等の特例との併用も積極的に検討してください。
相続対策は情報収集で終わらせるのではなく、専門家と連携して具体的な行動計画に落とし込むことが成功の鍵です。早めの準備が、将来の税負担軽減と家族の安心につながります。
参考文献・出典
- 国税庁 財産評価基本通達(令和6年1月1日改正)
- 国税庁 路線価図・評価倍率表 – https://www.rosenka.nta.go.jp
- 国土交通省 令和7年地価公示 – https://www.mlit.go.jp
- 最高裁判所 令和4年4月19日判決(令和2年(行ヒ)第283号)
- 財務省 令和6年度税制改正大綱 – https://www.mof.go.jp
- 国税庁 マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議資料