都市部にビルを持つと、家賃収入というメリットの一方で将来の相続税負担が気になります。特に評価額が高くなりがちな商業ビルは、対策をしないまま相続が発生すると多額の納税や売却を迫られる恐れがあります。本記事では、ビル 相続対策の基本から2025年度に利用できる制度までを丁寧に解説します。読了後には、ご自身の状況に合わせたプランを描けるようになるはずです。
不動産評価の基本を押さえる

まず押さえておきたいのは、相続税評価額と実勢価格の違いです。路線価方式で評価される土地とは異なり、ビルそのものは「固定資産税評価額」を基準に算定されます。建物の評価額は築年数が進むほど下がる一方、立地が良いと賃料収入が高くなるため、相続税評価と収益力のギャップが生まれることがあります。
このギャップを理解すると、賃料水準や空室率を維持しつつ、評価額を適切に抑える手段が見えてきます。たとえば、あえて耐用年数を過ぎても使用できる設備を残すことで、帳簿上の価値は下落し、固定資産税評価も下がります。ただし安全性を損なう改修の見送りは本末転倒なので、耐震補強や設備更新とのバランスが重要になります。
国税庁の統計では、建物の評価額は法定耐用年数経過後に急低下する傾向があります。しかし、築古ビルでもインバウンド需要が強いエリアだと賃料水準が下がりにくく、結果として相続後のキャッシュフローが安定します。つまり、立地別の賃料データを参照しながら、評価額と収益力を同時にチェックする姿勢が欠かせません。
法人化で広がる選択肢

実は、ビル 相続対策として最も検討されるのが「資産管理会社」の設立です。法人にビルを移すと、個人で所有する場合よりも株式評価の仕組みに変わり、相続税が大幅に圧縮できるケースがあります。株価は純資産価額方式で算出されるため、含み損を抱えるビルを移管すると株価を抑えやすくなるのが特徴です。
さらに、法人化すると所得の分散効果が得られます。役員報酬として家族に給与を支給すれば、個人の所得税率を均等化できるからです。日本政策金融公庫のデータによると、所得分散で平均税負担が約15%軽減された事例も報告されています。ただし法人設立費用や毎年の会計コストが発生するため、賃料収入が年間1,000万円を超えるかどうかが損益分岐点となることが多いです。
一方で、法人名義のビルは金融機関の融資審査が個人より厳しくなります。自己資本比率や債務償還年数といった指標が重視されるため、繰上返済でバランスシートを整えてから移行するのが安全策です。移転登記や不動産取得税も発生するため、シミュレーションと専門家の確認は必須と言えます。
建て替え・リノベーションと節税効果
重要なのは、評価を下げつつ収益を高めるリノベーション戦略です。建て替えの場合、工事期間中の更地評価が跳ね上がるため、相続発生時期と重なると税負担が増えるリスクがあります。そこで2025年度も続く「長期優良住宅化リフォーム推進事業」の補助金を活用し、空室フロアを段階的に改修する方法が注目されています。
リノベーションにより入居率を高めつつ、固定資産税評価額の増加を抑えるポイントは、構造体を残しながら設備や内装を更新する工事を選ぶことです。国土交通省の資料では、構造体を残す大規模改修は建て替えに比べて評価額の上昇率が約30%低いと示されています。つまり、評価アップを最小限に抑えながら家賃を引き上げる絶好の手段と言えます。
またリノベ済みの部分を区分登記し、将来の贈与や売却を柔軟にする方法もあります。区分所有化すると管理コストが増えるものの、相続人間で共有トラブルが起きにくく、出口戦略が多様化します。ビル 相続対策としては、単に節税を狙うのではなく、将来の分割まで視野に入れた設計が求められます。
キャッシュフロー管理と納税資金の確保
ポイントは、相続税は原則現金納付であるという事実です。金融庁の調査によると、相続発生から納税期限までに不動産を売却した世帯の約40%が希望価格を下回る金額で手放しています。ビルの継続運営を望むなら、納税資金を事前に確保する仕組みが欠かせません。
具体策としては、賃料収入の一部を定期預金や投資信託で積み立て、一定額をいつでも取り崩せる状態にしておく方法があります。また、2025年度も適用される「相続時精算課税」を利用して、早めに現金を子世代へ移し、将来の納税原資を保管させる戦略も機能します。年間110万円の非課税枠を使った暦年贈与と組み合わせれば、現金移転を段階的に進められるでしょう。
さらに、保険を活用して納税資金を準備する選択肢もあります。解約返戻金の高い一時払い終身保険を被相続人が契約し、受取人を相続人に指定しておくと、死亡保険金非課税枠(法定相続人×500万円)が適用されます。保険料を賃料から支払えば法人経費にも計上でき、キャッシュフローを圧迫しにくい点が魅力です。
2025年度の制度活用ポイント
まず押さえておきたいのは、相続登記の義務化が2024年4月に施行され、2027年3月までの経過措置が設けられている点です。ビルを相続したら、取得を知ってから3年以内に登記しなければ過料の対象になります。対策として、遺言書や家族信託契約で承継者を明確にしておくと、手続きが円滑になります。
次に、小規模宅地等の特例は2025年度も継続しており、ビル併用住宅の自宅部分に対して最大330㎡まで80%評価減が適用可能です。自宅兼オフィスや店舗がある場合、フロア面積の配分を見直すことで特例の効果を最大化できます。ただし要件が細かいため、税理士と図面を突き合わせて確認する姿勢が重要です。
加えて、2025年度税制改正で決定した「事業承継税制の延長措置」も見逃せません。賃貸ビルを会社の主要事業としている場合、一定の条件を満たせば株式の相続税が100%猶予されます。猶予を活用するには、相続後5年間の雇用確保や事業継続などの要件を守る必要がありますが、長期的にビルを保有する家系には強力な味方となります。
まとめ
ビル 相続対策は評価額を下げる工夫、法人化による税圧縮、リノベーションでの収益向上、そして納税資金の先行確保という四つの柱で成り立ちます。これらを組み合わせることで、資産を守りつつ次世代へスムーズに引き継げます。結論として、早めに情報を集め専門家とプランを練るほど選択肢は広がるので、今日から一歩を踏み出してみてください。
参考文献・出典
- 国税庁 – https://www.nta.go.jp
- 国土交通省 不動産市場動向 – https://www.mlit.go.jp
- 日本政策金融公庫 中小企業の税務調査レポート – https://www.jfc.go.jp
- 総務省統計局 家計調査 – https://www.stat.go.jp
- 金融庁 事業承継ガイドライン – https://www.fsa.go.jp