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空室を防ぎ利益を伸ばす店舗 家賃設定の基本

資金を投じて店舗物件を取得しても、賃料の決め方を誤れば収益は伸びません。周辺相場より高すぎればテナントが集まらず、安すぎれば利回りが下がります。多くの初心者が「相場+α」で簡単に決めてしまいがちですが、本来の家賃設定はデータ分析と戦略の組み合わせが欠かせません。本記事では、立地調査から利回り計算、インフレ対応までを体系的に解説します。読み終えたときには、自信をもって「店舗 家賃設定」を行える具体的な手順が身につくはずです。

家賃設定が収益を左右する理由

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重要なのは、店舗賃料がキャッシュフローと物件価値の両方に直結する点です。賃料が一円変わるだけで、年間収益はもちろん、将来売却価格までも変動します。

まず家賃収入は、返済原資と修繕積立を賄う最も安定した現金です。資金繰りに余裕があれば、突発的な空調交換などにも対応でき、物件の質を保てます。また、賃料を適正に維持すると、テナントの入替え頻度が下がり、広告費や原状回復費が抑えられます。言い換えると、適正賃料は長期運営コストを圧縮する防波堤として働きます。

さらに、不動産鑑定評価の収益還元法では、純収益を還元利回りで割ることで価格を算出します。したがって、賃料が上がれば同じ利回りでも物件価値は跳ね上がります。逆に、安易な値下げは帳簿価値を自ら削る行為です。日本不動産研究所の2025年7月レポートでも、「都心商業地の投資家利回りは4〜5%レンジで横ばい」と示されています。賃料維持は、出口戦略を左右する最大のレバーなのです。

適正賃料を読み解く市場調査の手順

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まず押さえておきたいのは、周辺相場の「中央値」を把握することです。最高値や最低値だけを見ると誤った判断につながります。

現地調査では、半径500メートル圏の募集賃料を20件ほど抽出し、坪単価を洗い出します。次に、不動産テック各社が提供するクラウドデータで成約事例を確認し、募集と成約の乖離率を算出します。国土交通省の不動産取引価格情報(REINS)では、募集より5〜8%低い成約が平均的です。つまり、募集時にこの差を織り込むと空室期間を短縮できます。

しかし、相場は単なる平均では語れません。角地か中通りか、路面か上層階かなど、視認性による売上期待が賃料に大きく反映されます。たとえば同じ銀座でも、中央通り沿いの坪賃料は裏通りの1.5倍というケースが一般的です。視認性を数値化するため、通行量調査やPOSデータを使うと説得力のある説明資料が作成できます。

最後に、近隣競合テナントの業種構成を分析します。飲食主体のエリアにアパレルを誘致しても客層が合わず、長期入居が見込めません。東京都産業労働局の統計によると、2025年時点の店舗平均入居期間は飲食12.4年、サービス11.1年です。業種適正を考慮した家賃設定が、長期の安定収益を実現します。

原価と利回りから逆算する家賃設定

ポイントは、目標利回りから逆算して上限賃料を算出し、相場と摺り合わせる二段構えです。

物件価格と諸費用を合わせ、総投資額を把握します。例として、価格1億円、諸費用8%で総額1億800万円とします。年間純収益であるNOI(営業純利益)に対し、投資家が求める利回りを5%と設定すると、必要なNOIは540万円です。共益費・空室率・運営費を差し引き、必要な年間家賃総額を700万円と計算できます。

一方で、空室率や修繕費は保守的に見積もる必要があります。日本政策投資銀行の2025年4月調査では、築20年超の商業ビルの平均空室率は11.2%でした。これを10%と想定し、PMフィーと修繕積立で賃料の15%を差し引くと、収支シミュレーションが現実に近づきます。

こうして算出した上限賃料を、前章で得た相場中央値と比較します。上限が相場より高ければ目標利回りを下げるか、価格交渉で取得額を引き下げるかの判断が必要です。逆に、上限が相場より低い場合は、設備投資や用途変更で付加価値を高め賃料アップを狙います。

インフレ時代の賃料改定と長期契約戦略

実は、2022年以降の物価上昇により、長期契約中の賃料が相場に追いついていない物件が増えています。家賃の実質価値を守るため、賃貸借契約に自動増額条項を盛り込む手法が注目されています。

日本銀行の消費者物価指数は、2025年9月時点で前年比2.6%の上昇を示しました。これを反映しないと、5年後には実質賃料が約13%目減りします。賃借人との関係を保つには、年1回もしくは物価指数が一定幅動いた場合に協議の上改定する「エスカレーター条項」を活用するとスムーズです。

また、定期借家契約を選択すると、契約期間満了時に改めて条件交渉が可能になります。国土交通省のガイドラインでは、契約期間10年以上20年以下が一般的です。期間を長く設定すればテナントは安定し、オーナーは将来の改定時期を確保できます。時間分散を意識し、フロアごとに契約満了をずらすと、一度に収入が途絶えるリスクを避けられます。

さらに、増額幅だけでなく付加価値を示すことが大切です。共用部のリニューアルや省エネ設備導入を実施し、光熱費削減メリットとセットで提示すると、テナントは値上げを受け入れやすくなります。東京都環境局のデータによると、LED化で電気代は平均17%削減でき、家賃増額分を相殺できます。

2025年度に利用できる支援制度と留意点

まず、2025年度も継続する「中小企業省エネ投資促進補助金」は、省エネ設備導入費の最大50%を補助します。期限は2026年1月末の交付申請までです。賃貸人が工事を行い、賃料改定の交渉材料にするケースが増えています。

一方で、補助金申請にはテナントの同意書や工事計画書が必要となります。採択後に家賃に上乗せする場合、テナントへの説明責任があるため、事前に費用対効果を共有し、合意形成を図りましょう。

次に、地方自治体が実施する「商店街空き店舗活用助成」があります。たとえば大阪市は2025年度、改装費の3分の2(上限300万円)を助成しています。オーナーが負担する内装費を抑えられるため、出店ハードルを下げ、早期成約につながります。

ただし、助成要件にはテナントの業種や営業年数の制限が設けられることが多いです。募集段階で条件を満たさないと、後で補助金が取り消されるおそれがあります。制度利用の際は、自治体の最新公募要領を必ず確認し、スケジュールに余裕を持つことが肝要です。

まとめ

店舗家賃は、相場調査で下限を把握し、利回り計算で上限を定め、インフレや制度活用で長期的に価値を守る三段構えが基本です。安易な値付けを避け、データに基づいた「根拠ある賃料」を提示すれば、空室リスクを抑えつつ物件価値を高められます。読者の皆さんも、紹介した手順を自物件に当てはめ、収益と資産価値を同時に伸ばす家賃戦略を実践してください。

参考文献・出典

  • 国土交通省 不動産取引価格情報 – https://www.land.mlit.go.jp
  • 日本不動産研究所 市場動向レポート – https://www.reinet.or.jp
  • 日本政策投資銀行 商業用不動産調査 – https://www.dbj.jp
  • 日本銀行 消費者物価指数統計 – https://www.boj.or.jp
  • 東京都産業労働局 産業統計 – https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp
  • 東京都環境局 省エネ効果事例集 – https://www.kankyo.metro.tokyo.jp
  • 中小企業庁 省エネ投資促進補助金 2025年度公募要領 – https://www.chusho.meti.go.jp
  • 大阪市 経済戦略局 空き店舗活用助成 – https://www.city.osaka.lg.jp

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