マンションや賃貸ビルを所有していると、「鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)は頑丈だから大規模修繕は先の話」と考えがちです。しかし築20年を超えたあたりから外壁のひび割れや配管の腐食が少しずつ表面化し、修繕積立金の不足に気づくオーナーが急増しています。実際に国土交通省の最新調査でも、築25年以上のSRC造の約4割が予定していた時期より早く補修を検討しています。本記事では、そんな不安を抱える初心者オーナーに向けて、SRC造 修繕計画の作り方を基礎から丁寧に解説します。読み終えるころには、計画の立て方、資金繰り、そして2025年度に利用できる支援策まで、具体的なアクションが見えてくるはずです。
SRC造の特徴と劣化メカニズム

重要なのは、SRC造が「鉄骨」と「鉄筋コンクリート」の長所を合わせ持つ一方で、異なる素材が組み合わさるゆえの弱点も抱えている点です。躯体は高い耐震性を誇りますが、鉄骨とコンクリートの膨張差が大きい季節には微細なひび割れが発生しやすくなります。
まず外壁の中性化を見てみましょう。コンクリートはアルカリ性ですが、大気中の二酸化炭素と反応すると徐々に中性化し、内部鉄筋を錆びさせます。特に都心部の交通量が多い道路沿いでは、調査開始から15年程度で中性化深さが設計かぶり厚を超える事例も報告されています。また鉄骨部分は湿気がたまりやすい接合部で錆が進行しやすく、見た目以上に内部劣化が進むことがあります。
さらに給排水管の寿命にも注意が必要です。SRC造では配管スペースが狭く、更新工事がRC造より難航する傾向があります。配管材が亜鉛メッキ鋼管の場合、築25年を過ぎると赤水や漏水が発生しやすく、売却時の査定価格に響くケースも少なくありません。
つまり「丈夫な構造だから安心」ではなく、「複合素材ゆえの複合劣化」を前提に長期修繕計画を立てることが、SRC造オーナーの必須課題なのです。
まず押さえておきたい修繕計画の基本サイクル

まず押さえておきたいのは、修繕周期を「要素ごと」に区切り、同時に実施する工事をまとめることでコストを抑えられるという点です。国土交通省の『マンション長期修繕計画ガイドライン』では、外壁や屋上防水の標準サイクルを12〜15年、給排水管を30年、エレベーター主要部品を25年と示しています。
実務では、築12年目に外壁塗装と屋上防水を同時に行い、仮設足場を共用することで約15%のコスト削減が可能です。また配管は床下更新と立て管更新を段階的に分けるより、一次側から二次側まで一括で更新した方が、長期的に漏水リスクを低減できます。施工時間が短縮され、入居者の退去リスクも抑えられるため、空室損失まで含めたトータルコストで差が出ます。
大規模修繕は建物の状況によって前倒しになることもあります。実は中間点検を行うことで、劣化の早期発見につながり、補修範囲を限定できるため結果的に安く済む事例も多いのです。たとえば国立研究開発法人建築研究所の報告では、中間点検を導入したマンションの15年サイクル修繕費が、未導入の物件に比べ平均12%低いというデータがあります。
このように、修繕計画は「何年ごと」と単純に固定するのではなく、劣化診断データを活用して柔軟に見直す設計思想がSRC造には適しています。
資金計画と積立金の現実
ポイントは、「毎月の積立額」と「修繕工事のピークコスト」を早期に見える化することです。住宅金融支援機構によると、延床面積5,000㎡のSRC造マンションが30年以内に必要とする修繕費総額は平均1億9,000万円です。一方、同規模物件の平均修繕積立金残高は1億2,000万円しかなく、およそ7,000万円のギャップが生じています。
この差を埋める現実的な方法は三つあります。第一に、毎月の積立額を段階的に増額すること。例えば1㎡当たり250円でスタートし、5年ごとに10%ずつ増額すると、30年後の不足額を3,000万円程度まで圧縮できます。第二に、長期融資を活用してタイミングを前倒しで修繕し、金利を家賃収入から賄う手法です。2025年時点で住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」は金利1.2%台で固定されており、キャッシュフロー計画を立てやすいのが利点です。
第三に、空室部分のリノベーションと大規模修繕を同時に行い、家賃単価を上げて返済原資を確保する戦略があります。たとえば外壁改修とセットでエントランスをホテルライクに改装した事例では、平均家賃が8%上昇し、修繕後5年で投資額を回収できたとの報告があります。
資金計画は数字だけを見ると難しく感じるかもしれませんが、修繕時期と資金調達時期をリンクさせることで、家賃収入を損なわずに長寿命化を図る道が開けます。
2025年度に利用できる支援策と融資
実は2025年度には、SRC造 修繕計画を後押しする国の支援策が複数用意されています。代表的なのが国土交通省の「長期優良住宅化リフォーム推進事業」です。一定の性能向上を伴う大規模修繕であれば、設計費と工事費の合計の3分の1、上限250万円の補助が受けられます。事業の公募は毎年4月と9月の二回で、先着順ではなく採点方式のため、計画内容の精度が採択率を左右します。
また東京都内の物件であれば、「マンション再生促進事業」により耐震補強や給排水管更新の設計費が2分の1補助されます。期限は2025年12月申請分までと公表されているため、来年度に工事を検討している場合は早めに動く必要があります。
融資面では、住宅金融支援機構が提供する「マンション共用部分リフォーム融資」が最長20年固定金利で利用できます。適用金利は毎年度見直されますが、2025年12月時点では1.28%(団信不加入)と低水準を維持しています。管理組合が借り入れ主体となるため、個々の区分所有者の与信に左右されにくい仕組みも魅力です。
さらに環境性能を高める工事の場合、地方自治体が独自に上乗せ補助を行うケースがあります。例えば横浜市の「環境配慮型マンション改修支援」では、高反射率塗料を用いた屋上防水に対し、工事費の15%が助成されます。こうした制度は年度ごとに内容が改定されるため、「工事内容が制度の要件を満たすか」を専門家に確認したうえで、申請スケジュールを修繕計画に織り込むことが重要です。
実例で学ぶ計画づくりのポイント
ポイントは、診断結果を根拠に「ストーリー性のある修繕計画」を作ることです。筆者が支援した築28年、地上10階建てSRC造マンションでは、外壁タイルの浮きが全体の7%に達していました。躯体の中性化深さも最大23mmと設計かぶり厚40mmの半分を超え、次回改修を待つ余裕はない状態でした。
そこでまず、赤外線調査とコア抜き試験を実施し、劣化箇所を定量化しました。そのうえで外壁全面補修と屋上防水、受水槽のFRP化を一括発注しています。工事費は1億1,500万円に膨らみましたが、長期優良住宅化リフォーム推進事業で250万円、東京都の補助で150万円を確保し、自己資金を実質1億1,100万円に抑えました。加えて同時にエントランスを改装し、家賃を平均4,000円アップさせた結果、年間家賃収入が900万円増え、返済額を上回るキャッシュフローを生み出しています。
この事例が示すのは、補助金や融資を「取れるかどうか」ではなく、「どの工事と組み合わせると最も効果的か」を逆算する視点の大切さです。SRC造では配管スペースや鉄骨接合部の劣化が複雑に絡むため、専門家の診断を受けたうえで計画の優先順位を整理することが成功への近道になります。
結論として、実例が示すように、データに基づき工事をパッケージ化し、家賃戦略まで含めた資金計画を立てれば、SRC造の長寿命化と収益向上は両立できます。
まとめ
この記事では、SRC造 修繕計画を立てるうえで欠かせない劣化メカニズムの理解、修繕周期の考え方、資金計画の組み立て方、そして2025年度に利用できる支援策までを解説しました。修繕計画は「いつ」「何を」「いくらで」行うかを可視化し、補助金と低金利融資を上手に組み合わせることで、キャッシュフローを維持したまま建物の価値を高められます。まずは専門家に劣化診断を依頼し、実際の数値をもとに長期計画を作成するところから始めてみてください。早めに動くことで、資金も工期も選択肢が広がり、安全性と収益性の両方を手に入れられるはずです。
参考文献・出典
- 国土交通省「マンション総合調査 2024年」 – https://www.mlit.go.jp/
- 国土交通省「長期優良住宅化リフォーム推進事業 2025年度概要」 – https://www.mlit.go.jp/
- 住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資のご案内 2025」 – https://www.jhf.go.jp/
- 日本建築学会「SRC造建物の耐久性設計指針 2023」 – https://www.aij.or.jp/
- 東京都都市整備局「マンションの長寿命化ガイドライン 2024改訂版」 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/