アパート経営に興味はあるものの、「一体何年で元が取れるのだろう」と不安に感じる方は多いはずです。自己資金やローン返済、空室リスクなど考えることが多く、収支の見通しが立たないと踏み出しにくいでしょう。この記事では、初心者でも理解しやすい指標と計算手順を示し、回収期間を短縮するための具体策まで解説します。読み終えた頃には、自分の投資計画を数字で語れるようになり、迷いなく次の行動に移せるようになります。
回収期間を測る基本指標は「純キャッシュフロー」

まず押さえておきたいのは、元を取る年数を測るなら純キャッシュフローが欠かせない点です。純キャッシュフローとは、家賃収入から運営費、返済額、税金を差し引いた実質の手残りです。ここがプラスになり続ければ、やがて初期投資額をまかなえるわけですが、その年数が回収期間となります。
実は表面利回りだけを見て「10%だから10年で回収」と単純計算するケースが多いものの、固定資産税や修繕費を忘れると実情と大きくずれます。たとえば家賃年収600万円、諸経費率25%、ローン返済200万円の場合、手残りは600万×0.75−200万=250万円に過ぎません。3000万円の自己資金を投じたなら、単純計算で12年かかります。つまり純キャッシュフローを算出しないと、元が取れる年数の判断はできないのです。
キャッシュフローの計算手順とよくある落とし穴

ポイントは、家賃収入だけでなく空室率と賃料下落率を盛り込むことです。国土交通省住宅統計によると、2025年10月の全国アパート空室率は21.2%で、前年より0.3ポイント改善しました。しかし地域差が大きく、地方都市では30%を超える例も珍しくありません。この数値を無視すると、回収期間は必ず伸びます。
次に運営費です。管理委託料、共用部電気代、広告料を合計すると、家賃収入の15〜20%が目安とされています。さらに大規模修繕費を年平均で家賃収入の5%程度積み立てておくと、突発的な支出にも耐えられます。これらを含めた実質利回りを「ネット利回り」と呼び、ネット利回り=純キャッシュフロー÷総投資額で表せます。
最後にローン返済の影響です。金利2%、期間25年、借入額5000万円の場合、年間返済額は約255万円になります。もしネット利回りが6%なら、手残りは総投資額に対して1.5%程度に過ぎず、元を取るまでには20年近くを要します。シミュレーションソフトを使う際は、金利上昇シナリオも2%幅で追加し、最悪ケースでも黒字を保てるか確認しましょう。
回収期間を左右する三つの主要要素
重要なのは、空室率、金利、税効果の三点が回収期間を大きく動かすことです。空室率が10%改善すると、手残りは平均で家賃収入の8〜10%増えるため、回収期間が2〜3年縮まるケースがあります。また金利が1%下がれば年間返済額が約50万円減り、同様に回収期間が短縮します。
一方で税効果は見落とされがちです。減価償却費を活用すると、帳簿上の利益を圧縮でき、所得税と住民税の負担を抑えられます。木造アパートなら最短22年で償却が終わるため、最初の10年ほどは現金収入が課税所得を下回る状態が続きます。言い換えると、税引後キャッシュフローが増えるので回収期間が縮まるわけです。
しかし減価償却が切れた後は逆に税負担が増えるため、長期シミュレーションで見通す必要があります。ここで物件売却によるキャピタルゲイン(売却益)を加味すると、さらに2〜3年早く元を取れる場合もあるため、出口戦略まで含めた計画が欠かせません。
返済と税金を味方にする実践的な戦略
まず、固定金利と変動金利を組み合わせるミックスローンを検討すると、金利上昇リスクを抑えつつ返済額を柔軟に調整できます。2025年度時点で地方銀行の変動金利は1%前後、固定20年は1.6%前後が主流です。半分ずつ借りれば、上昇局面でも返済負担を平均化でき、キャッシュフローの予測精度が高まります。
次に、青色申告特別控除を最大65万円まで利用し、家族を専従者として給与を支払う方法があります。これにより課税所得を圧縮できるため、実質的に手残りが10〜15%増えるケースもあります。ただし税務署への事前届出と実態の伴う業務分担が必要です。
さらに修繕計画を前倒しで立て、早期に設備を更新することで高稼働率を維持できます。たとえば築15年の段階で外壁塗装と設備入替を40万円かけて行い、家賃を3000円アップできれば年間36万円の増収です。これは8年弱で投資回収でき、その後の家賃上乗せが純利益として積み上がります。
2025年度市場動向と安全マージンの取り方
実は、2025年に入り地方中核都市の地価が平均1.2%上昇し、投資マネーが戻りつつあります。空室率改善も相まって、購入価格がじわじわ上がる傾向にあります。そこで安全マージンを確保するには、利回りだけでなく価格乖離率(査定価格との差)に注目しましょう。金融機関の担保評価より1割以上安く買えれば、売却時の元本割れリスクを大幅に減らせます。
また、サブリース契約による家賃保証は安定に見えますが、保証水準が市場家賃の80%程度に設定されることが多く、回収期間が長くなる点に注意が必要です。自主管理か委託管理かを比較し、実質利回りが2%以上変わるようなら自主管理を検討する価値があります。
最後に、最低でも購入総費用の6カ月分を運営予備費として別口座に積み立ててください。これにより突発的な空室や災害対応にも慌てずに済み、回収期間の計算が大きく狂わなくなります。
まとめ
ここまで見てきたように、アパート経営で「何年で元が取れるか」は純キャッシュフローの精度で決まります。空室率、金利、税効果を現実的に盛り込んだネット利回りを算出し、ローン返済と減価償却をコントロールすることで回収期間を短縮できます。まずは自分の投資候補物件で実質利回りシミュレーションを行い、最悪シナリオでも15年以内に投資額を回収できるか確認しましょう。数字が見えれば不安は減り、次の一歩が自然と踏み出せるはずです。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅・土地統計調査 – https://www.mlit.go.jp
- 国税庁 タックスアンサー – https://www.nta.go.jp
- 日本銀行 金融経済統計月報 – https://www.boj.or.jp
- 全国賃貸住宅新聞 空室率データ – https://www.zenchin.com
- 不動産流通推進センター 2025年地価動向報告 – https://www.retpc.jp