不動産投資に興味はあるものの、「自己資金を厚く準備すべきか、それとも低めに抑えて早く始めるか」で迷う人は少なくありません。とくにアパート経営では物件価格以外の諸費用が意外と大きく、判断を複雑にします。この記事では「アパート経営 初期費用 どっち」と悩む初心者のために、自己資金重視と借入活用の違いを数字で検証し、リスクとリターンのバランスを整理します。読み終えるころには、ご自身の資金計画に合ったスタートラインが見えてくるはずです。
初期費用の内訳を整理する

まず押さえておきたいのは、アパート購入時の初期費用が物件価格だけでは終わらない点です。仲介手数料、登記費用、火災保険料、金融機関の融資手数料などが重なり、一般に物件価格の6〜10%が目安となります。例えば5,000万円の木造アパートなら諸費用は300〜500万円にのぼり、自己資金ゼロでは足りません。
さらに、購入後すぐに発生するリフォーム費も初期費用に含めて考えるべきです。築20年超の物件であれば、外壁塗装や給湯器交換に最低でも200万円前後を見込むケースが多いからです。ここを軽視すると運営開始早々に追加融資を頼る羽目になり、返済計画が崩れます。
重要なのは、こうした費用が「投資額を押し上げる一方で減価償却費に計上できる」点です。つまり税務上は経費として収益を圧縮できるため、のちの節税効果も踏まえて資金を配分する視点が求められます。
自己資金と借入、どっちが有利か

ポイントは、自己資金比率を高めれば返済負担が減り、キャッシュフローに余裕が生まれることです。たとえば同じ5,000万円の物件に対し、自己資金1,500万円を投入し金利1.7%・25年で借入すると、月々の返済は約14万円。自己資金500万円で同条件なら返済は約18万円になり、年間でおよそ50万円もの差がつきます。
一方で自己資金を温存して複数物件へ早期に分散投資する戦略もあります。2025年7月時点の全国アパート空室率は21.2%(国土交通省)で、地域差が大きいのが現実です。利回りの高い地方物件に複数投資し、空室リスクを分散させることで総収益を底上げできる場合もあるため、自己資金を厚く入れすぎると機会損失が生じる可能性があります。
つまり、「返済負担の軽減」と「資産の拡大スピード」という二つの軸で優先順位を決める必要があります。目安として、家計の他のローンを含めた年間返済額が可処分所得の25%以内なら、自己資金をやや抑えても許容範囲と言えるでしょう。
修繕積立と運転資金の考え方
実は、初期費用を自己資金でまかなうかどうかより、「運転資金をいくら手元に残せるか」のほうが、長期運営の成否を左右します。空室期間が想定より長引いたとき、家賃収入以外の資金でローン返済と固定費をまかなえるかがポイントになるからです。
具体的には、家賃収入の3〜6か月分を運転資金として確保し、さらに10年後に予定される大規模修繕費を年ベースで積み立てるのが理想です。築15年の軽量鉄骨アパートなら、屋根と外壁の改修で300万円規模が必要になります。これを毎年30万円ずつ積み立てておけば、突発的な支出に慌てることはありません。
自己資金を初期費用に多く投入しすぎると、この積立原資が不足します。逆に借入を増やしてもキャッシュフローが赤字なら積立は不可能です。したがって、購入直後に余裕資金がいくら残るかを試算し、最低ラインを割る場合は物件価格の交渉や自己資金額の再検討が必要です。
税制優遇は購入と運営どっちに効くか
重要なのは、2025年度も継続している「住宅ローン控除」や「固定資産税の新築軽減」が賃貸専用物件には原則適用されない点です。アパート経営者にとって確実に使えるのは、減価償却による所得圧縮と、青色申告の65万円控除の二つです。
減価償却は自己資金か借入かにかかわらず物件価格が基準になるため、税制面では差が出ません。ただし、借入金利は経費計上できるので、レバレッジを高めると支払利息によって課税所得を一定程度下げられます。言い換えると、金利負担と節税メリットを天秤にかけ、実効税率で何%の差が生じるかを確認することが欠かせません。
青色申告特別控除を最大限に生かすには、帳簿を複式簿記で整備し電子申告を行う必要があります。ここは専門家に任せても年間数万円の費用で済むため、節税効果と比べれば十分に価値があります。
キャッシュフローで比較する視点
まず押さえておきたいのは、最終的に判断を下す指標が「年間手残り」だという事実です。初期費用を自己資金300万円多く入れた場合と入れない場合で、10年後の手残り総額を比較すると違いが明確になります。
たとえば自己資金多めのケースでは、毎月の手取りが3万円増え、10年間で総計360万円のキャッシュフロー改善が見込めます。一方、自己資金を温存したケースで同額の自己資金を頭金に充てず、別の区分マンションへ投資し年間利回り8%を得たとすると、10年で約240万円の利益に過ぎません。利回りが二桁後半になる物件を当てれば逆転もありますが、市場平均から見れば難易度は高めです。
結論として、空室率が高めのエリアでは自己資金を厚く入れ、返済比率を下げてリスクを抑える方が現実的です。反対に、空室率が低く賃料上昇が見込めるエリアでは、自己資金を抑えて物件数を増やす戦略が功を奏します。
まとめ
ここまで、アパート経営の初期費用を「自己資金か借入か、どっちで賄うべきか」を検討しました。要点は、諸費用と修繕費を含めた総投資額を把握し、手元資金を家賃収入の3〜6か月分以上残すこと、そして返済負担率と空室率を合わせて考えることでした。最後に行動提案です。まずは購入候補物件の収支シートを作り、自己資金を変数にして10年後の手残りをシミュレーションしてみてください。その過程でリスク許容度が具体的に見え、あなたに合った資金配分の答えが導き出せるはずです。
参考文献・出典
- 国土交通省住宅局「住宅統計調査 2025年版」 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省統計局「家計調査 2024年」 – https://www.stat.go.jp
- 中小企業庁「中小企業の会計に関する指針 2025年3月改訂」 – https://www.chusho.meti.go.jp
- 日本銀行「主要銀行貸出動向調査 2025年6月」 – https://www.boj.or.jp
- 国税庁「青色申告制度の手引 2025年度版」 – https://www.nta.go.jp