一棟アパート投資を検討する際、多くの方が「本当に返済していけるのか」という不安を抱えています。物件価格が数千万円から億単位になることも珍しくないため、慎重な返済計画が必要です。実は、成功する投資家の多くは購入前に綿密なシミュレーションを行い、複数のシナリオを想定しています。この記事では、一棟アパートの返済シミュレーションの具体的な方法から、見落としがちな費用、リスク対策まで、実践的な情報をお伝えします。初心者の方でも理解できるよう、実例を交えながら解説していきますので、ぜひ最後までお読みください。
一棟アパート投資の返済シミュレーションとは

返済シミュレーションとは、物件購入後の収支を数値化し、長期的な資金繰りを予測する作業です。単純に「家賃収入があるから大丈夫」と考えるのは危険で、実際には空室リスクや修繕費用、金利変動など様々な要因が収支に影響を与えます。
シミュレーションの基本は、収入と支出を正確に把握することから始まります。収入面では満室時の家賃収入だけでなく、現実的な稼働率を考慮した実質収入を算出します。国土交通省の住宅統計によると、2025年12月時点で全国のアパート空室率は21.2%となっており、この数値を参考に収入を見積もることが重要です。
支出面では、ローン返済額に加えて固定資産税、管理費、修繕積立金、火災保険料などの運営コストを漏れなく計上します。多くの初心者が見落とすのが、大規模修繕費用や突発的な設備故障への対応費用です。これらを含めた総合的なシミュレーションを行うことで、投資の実現可能性を正確に判断できます。
さらに重要なのは、複数のシナリオを想定することです。楽観的なケース、標準的なケース、悲観的なケースの3パターンを作成し、最悪の状況でも耐えられる計画を立てることが、長期的な投資成功の鍵となります。
返済シミュレーションに必要な基本情報の収集

正確なシミュレーションを行うには、まず物件と融資に関する詳細な情報を集める必要があります。物件価格はもちろんのこと、築年数、構造、戸数、各部屋の間取りと家賃設定、現在の入居状況などを確認します。
融資条件については、借入金額、金利、返済期間、返済方法(元利均等か元金均等か)を明確にします。一般的に一棟アパートの融資では、金利1.5〜3.0%程度、返済期間20〜30年という条件が多く見られます。ただし、物件の築年数や投資家の属性によって条件は大きく変わるため、複数の金融機関に相談することをお勧めします。
家賃収入の見積もりでは、周辺相場を徹底的に調査します。同じエリアの類似物件がどの程度の家賃で募集されているか、実際の成約事例はどうかを確認しましょう。不動産ポータルサイトや地元の不動産会社からの情報収集が有効です。また、将来的な家賃下落も考慮に入れ、年1〜2%程度の下落を想定したシミュレーションも作成しておくと安心です。
運営費用については、管理会社への委託費用(家賃収入の5〜10%程度)、固定資産税・都市計画税(物件価格の1〜1.5%程度)、火災保険料、共用部分の光熱費、清掃費用などを具体的に算出します。これらの情報を整理することで、現実的なシミュレーションの土台が完成します。
具体的な返済シミュレーションの計算方法
実際のシミュレーション計算では、まず月々のローン返済額を算出します。例えば、物件価格8000万円、自己資金2000万円、借入金額6000万円、金利2.0%、返済期間25年、元利均等返済の場合を考えてみましょう。
この条件での月々の返済額は約25万4000円となります。年間では約304万8000円の返済が必要です。次に、家賃収入を計算します。1K×10戸のアパートで、1戸あたりの家賃が6万円の場合、満室時の年間家賃収入は720万円です。
しかし、ここで重要なのが稼働率の考慮です。空室率20%を想定すると、実質的な年間家賃収入は576万円となります。さらに、管理費(家賃収入の7%として約40万円)、固定資産税(約80万円)、火災保険料(約10万円)、修繕積立金(約50万円)などの運営費用を差し引きます。
収支を整理すると、年間家賃収入576万円から運営費用180万円を引いた396万円が手元に残ります。ここからローン返済304万8000円を支払うと、年間のキャッシュフローは約91万2000円のプラスとなります。月額にすると約7万6000円の収益です。
ただし、これは標準的なシナリオであり、空室率が30%に上昇した場合や、大規模修繕が必要になった場合のシミュレーションも必ず作成しましょう。悲観的なシナリオでもプラスのキャッシュフローを維持できるか、最低でもマイナスが許容範囲内に収まるかを確認することが重要です。
見落としがちな費用項目と対策
多くの投資家が見落とす費用として、まず購入時の諸費用があります。物件価格の7〜10%程度が目安で、8000万円の物件なら560〜800万円が必要です。内訳は、仲介手数料、登記費用、不動産取得税、印紙税、融資手数料などです。
運営開始後の費用では、原状回復費用が想定外の出費となることがあります。入居者の退去時には、クリーニング、壁紙の張替え、設備の修理などで1戸あたり10〜30万円かかることも珍しくありません。10戸のアパートで年間3戸の入れ替わりがあれば、年間60〜90万円の費用が発生します。
大規模修繕費用も重要な項目です。外壁塗装や屋根の防水工事は10〜15年ごとに必要で、一度に数百万円の出費となります。築20年の物件を購入する場合、購入後5〜10年以内に大規模修繕が必要になる可能性が高いため、事前に修繕履歴を確認し、今後の修繕計画を立てておくことが大切です。
これらの費用に対応するため、毎月の収益の一部を修繕積立金として別口座に貯めておく習慣をつけましょう。家賃収入の10〜15%程度を積み立てることで、突発的な出費にも慌てずに対応できます。また、火災保険には施設賠償責任保険も付帯させ、入居者や第三者への損害賠償リスクにも備えることをお勧めします。
金利変動リスクへの対応策
変動金利で融資を受ける場合、金利上昇リスクへの備えが不可欠です。現在の低金利環境が今後も続く保証はなく、金利が1%上昇するだけで返済額は大きく増加します。先ほどの例で、金利が2.0%から3.0%に上昇した場合、月々の返済額は約25万4000円から約28万6000円へと約3万2000円増加します。
このリスクに対応する方法として、まず固定金利と変動金利のメリット・デメリットを理解することが重要です。固定金利は金利上昇リスクを回避できる一方、当初の金利が変動金利より高めに設定されています。変動金利は当初の返済額を抑えられますが、将来的な金利上昇リスクを負うことになります。
実践的な対策としては、変動金利を選択する場合でも、金利が2〜3%上昇したケースでシミュレーションを行い、その状況でも返済可能かを確認します。また、繰り上げ返済を積極的に行うことで、借入残高を減らし、金利上昇の影響を軽減できます。キャッシュフローに余裕がある時期には、年間50〜100万円程度の繰り上げ返済を計画的に実施しましょう。
さらに、金利上昇局面では借り換えも選択肢となります。他の金融機関でより有利な条件が提示される場合、借り換えによって返済負担を軽減できる可能性があります。ただし、借り換えには手数料がかかるため、総合的なコスト比較が必要です。定期的に金融機関の融資条件をチェックし、有利な条件があれば積極的に検討する姿勢が大切です。
空室リスクを考慮したシミュレーション
空室リスクは一棟アパート投資における最大のリスクの一つです。2025年12月時点で全国のアパート空室率は21.2%となっており、地域によってはさらに高い空室率となっている場合もあります。シミュレーションでは、この現実を直視した計画が必要です。
空室率を考慮する際は、物件の立地条件を詳細に分析します。駅からの距離、周辺の商業施設、学校や病院などの生活利便施設、人口動態などを総合的に評価しましょう。駅徒歩10分以内の物件と15分以上の物件では、空室率に大きな差が出ることが一般的です。また、単身者向けとファミリー向けでも、需要の安定性が異なります。
具体的なシミュレーションでは、標準シナリオで空室率20%、悲観シナリオで30〜40%を想定します。空室率40%の場合、先ほどの例では年間家賃収入が432万円まで減少し、運営費用を差し引くと252万円しか残りません。ローン返済304万8000円を考えると、年間約52万円の赤字となります。
この赤字に耐えられる資金的余裕があるか、また空室を早期に埋めるための対策を講じられるかが重要です。空室対策としては、適切な家賃設定、リフォームによる物件価値の向上、入居者募集の強化などがあります。管理会社との連携を密にし、空室が発生したら即座に募集活動を開始する体制を整えておくことが大切です。
税金と確定申告を含めた総合シミュレーション
不動産投資では、税金の影響を正確に把握することが重要です。家賃収入から必要経費を差し引いた不動産所得に対して、所得税と住民税が課税されます。給与所得がある場合は、不動産所得と合算して税額が計算されるため、総合的な税負担を考慮する必要があります。
必要経費として計上できる項目には、ローンの利息部分、固定資産税、管理費、修繕費、減価償却費などがあります。特に減価償却費は実際の支出を伴わない経費として計上できるため、節税効果が高い項目です。木造アパートの場合、建物部分の耐用年数は22年で、毎年建物価格の約4.5%を経費として計上できます。
例えば、建物価格が5000万円の場合、年間約227万円の減価償却費を計上できます。これにより、帳簿上の所得を圧縮し、税負担を軽減できます。ただし、減価償却期間が終了すると経費が減少し、税負担が増加する点に注意が必要です。長期的な税金シミュレーションでは、この変化も織り込んでおきましょう。
確定申告では、青色申告を選択することで最大65万円の特別控除を受けられます。また、青色申告では赤字を3年間繰り越せるため、初年度に大きな修繕費用が発生した場合でも、翌年以降の黒字と相殺できます。税理士に相談し、適切な申告方法を選択することで、合法的に税負担を最適化できます。
長期的な出口戦略を含めた投資計画
一棟アパート投資では、購入時から出口戦略を考えておくことが重要です。永久に保有し続けるのか、一定期間後に売却するのか、方針によってシミュレーションの内容も変わってきます。
売却を前提とする場合、物件の資産価値がどのように推移するかを予測します。一般的に、築年数が経過するほど物件価格は下落しますが、立地条件が良く、適切にメンテナンスされた物件は、価値の下落が緩やかです。購入価格の70〜80%で売却できれば、投資期間中のキャッシュフローと合わせて十分なリターンが得られることが多いです。
売却時期の目安としては、大規模修繕が必要になる前、つまり購入後10〜15年程度が一つの節目となります。大規模修繕前に売却することで、多額の修繕費用を負担せずに済みます。また、ローン残高と物件価値のバランスも考慮し、売却代金でローンを完済できる時期を見極めることが大切です。
一方、長期保有を前提とする場合は、ローン完済後のキャッシュフローに注目します。ローン返済が終われば、月々の返済負担がなくなり、大幅にキャッシュフローが改善します。先ほどの例では、ローン完済後は年間約400万円のキャッシュフローが見込めます。これを老後の年金代わりとして活用する戦略も有効です。
どちらの戦略を選ぶにしても、定期的にシミュレーションを見直し、市場環境の変化に応じて柔軟に対応することが成功の鍵となります。
まとめ
一棟アパートの返済シミュレーションは、投資成功の基盤となる重要な作業です。物件価格や融資条件だけでなく、空室率、運営費用、税金、将来的な修繕費用まで含めた総合的なシミュレーションを行うことで、投資の実現可能性を正確に判断できます。
特に重要なのは、楽観的なシナリオだけでなく、空室率上昇や金利上昇といった悪条件下でも耐えられる計画を立てることです。複数のシナリオを想定し、最悪の状況でも対応できる資金的余裕を持つことが、長期的な投資成功につながります。
また、購入後も定期的にシミュレーションを見直し、実際の収支と比較することで、早期に問題を発見し対策を講じることができます。不動産投資は長期戦です。焦らず、慎重に、そして計画的に進めることで、安定した収益を得られる資産形成が可能になります。
この記事で紹介した方法を参考に、ぜひあなた自身の投資計画を作成してみてください。不安な点があれば、税理士や不動産投資の専門家に相談することをお勧めします。綿密な準備と現実的なシミュレーションが、あなたの不動産投資を成功に導く第一歩となるでしょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計 – https://www.mlit.go.jp/statistics/details/t-jutaku-2.html
- 国土交通省 不動産市場動向 – https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000085.html
- 金融庁 金融サービス利用者相談室 – https://www.fsa.go.jp/receipt/soudansitu/index.html
- 日本銀行 金融経済統計 – https://www.boj.or.jp/statistics/index.htm
- 総務省統計局 住宅・土地統計調査 – https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/index.html
- 国税庁 不動産所得の課税について – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1370.htm
- 一般財団法人 日本不動産研究所 – https://www.reinet.or.jp/