都内でアパート経営を始めると、「空室が埋まらないのでは」と不安になるものです。家賃の支払いが進まずキャッシュフローが悪化すれば、ローン返済や修繕費の捻出に影響します。しかし、東京都内の市場特性と入居者ニーズを正しく押さえれば、空室期間を短縮し安定収益を実現できます。本記事では、2025年9月時点のデータを基に、空室対策の具体策から支援制度までを体系的に解説します。読み終えるころには、自分の物件に合った対策を自信を持って選べるようになるはずです。
東京の賃貸市場を読み解く

まず押さえておきたいのは、都内の賃貸市場が全国平均と異なる動きを見せる点です。国土交通省の住宅統計によると、2025年7月の全国アパート空室率は21.2%ですが、23区平均は17%前後にとどまります。人口の流入が続く一方で、新築供給も活発なため、エリアごとの需給バランスを読む力が欠かせません。
次に、23区内でも区ごとの特性差が顕著です。たとえば都心5区は転勤層と外国人プロフェッショナルの需要が多く、築年数より駅近・広さを重視する傾向が強いです。一方、城東エリアでは家賃を抑えたファミリー向け需要が堅調で、保育所や公園の充実度が選定ポイントになります。
このように、同じ東京でも供給過剰のエリアと不足気味のエリアが混在します。物件選定段階から周辺の新築着工数や人口動態を調べ、競合物件の家賃設定を把握することが空室対策の第一歩になります。
空室を防ぐ家賃設定のコツ

重要なのは、募集家賃を「周辺相場マイナス3%」程度から始める柔軟さです。需要が旺盛な都心部でも、スタート家賃を上げ過ぎると検索結果から弾かれ、初動の問い合わせが減ります。逆に、3か月以上空室が続くと値下げ幅を10%程度に拡大せざるを得ず、長期的な損失に直結します。
さらに、賃料と初期費用のバランスも検討しましょう。礼金ゼロやフリーレント1か月は、学生・若手社会人に好評です。2025年の東京都賃貸契約データでは、礼金ゼロ物件の成約日数が平均28日短いという結果が出ています。初期費用を軽減することで、家賃を維持しつつ早期成約を狙えます。
家賃の自動更新ルールを導入するのも効果的です。入居2年目以降の賃料を毎年1%ずつ上げる契約を設定すれば、インフレリスクをヘッジしながら初年度の家賃を相場以下に抑えられます。入居者にとっては将来の増額幅が明確になり、オーナーは長期的な収益安定を得られる仕組みです。
ターゲットを絞ったリノベーション戦略
ポイントは、全室を一律に改装するのではなく、ターゲット層ごとに仕様を変えることです。たとえば単身者向けには高速Wi-FiとIoT鍵を導入し、IT系人材の需要を獲得します。ファミリー向けには防音性の高い床材と宅配ボックスを設置し、子育て世帯の利便性を高めます。
都内のリノベーション費用は1室あたり平均120万円ですが、賃料を月8,000円上げられれば15年で回収可能です。特に築30年以上の物件では、最新の断熱材や省エネ設備を組み込むことで、2025年度の「住宅省エネ2025キャンペーン」の補助金(最大50万円/戸)を活用できます。これにより自己負担を圧縮し、投資回収期間を短縮できます。
リノベーション後は、施工事例の写真だけでなく、改装前後の光熱費比較や室温データを提示しましょう。データがあることで、入居希望者に「快適さ」と「経済性」を同時に訴求でき、空室期間の短縮につながります。
オンライン集客と管理会社の活用
実は、入居者の約8割がスマホ経由で物件検索を行う時代です。ポータルサイト掲載時は写真10枚以上、360度カメラ画像を2枚以上載せるとクリック率が平均1.8倍に伸びるといわれます。また、物件名に「Wi-Fi無料」「猫可」などの特徴ワードを入れるだけで、検索結果の上位表示が期待できます。
一方で、募集から管理までを丸投げすると管理会社任せの家賃交渉で収益が下がることもあります。東京都の事例調査によると、管理会社をセミオーダー型(募集のみ委託)に切り替えたオーナーは年間管理コストを平均12%削減しています。自主管理かフル委託かの二択ではなく、業務ごとに役割を分担する発想が必要です。
さらに、LINEやオンライン内見ツールを導入すれば、入居前コミュニケーションを効率化できます。内見予約から契約説明までを遠隔で完結できるため、時間の制約がある若手社会人のニーズを取り込めます。こうしたデジタル施策は、一度仕組み化すれば複数物件で横展開できるため、スケールメリットも期待できます。
2025年度の支援制度と税制メリット
基本的に、空室対策と並行して公的支援を押さえるとキャッシュフローが大きく改善します。2025年度は、先述の「住宅省エネ2025キャンペーン」のほか、自治体による耐震改修補助が継続中です。東京都の場合、旧耐震基準の木造アパートを耐震補強すると、工事費の最大2/3(上限200万円)の補助が受けられます。
また、固定資産税の減額措置も見逃せません。新築から3年間、120㎡以下のアパート部分については固定資産税が1/2になる制度が続いています。築古物件でも、大規模改修を行い「認定長期優良住宅化」すれば、同様の減税対象となるケースがあります。制度の適用要件は区市町村ごとに細かく異なるため、工事契約前に必ず窓口で確認しましょう。
さらに、所得税の損益通算による節税効果も健在です。減価償却費を活用すれば、実際のキャッシュアウトを伴わずに課税所得を圧縮できるため、初期の収支赤字を乗り切るうえで大きな助けになります。ただし、税務上の判定基準は毎年見直されるため、最新の国税庁通達をチェックし、税理士と連携することが欠かせません。
まとめ
東京でのアパート経営は、エリア特性を読み解き、家賃設定を細かく調整し、入居者像に合わせたリノベーションを行うことで空室リスクを大幅に下げられます。さらに、オンライン集客と管理手法を最適化し、公的補助や税制を組み合わせれば、キャッシュフローは着実に安定します。まずは自物件の強みと弱みを洗い出し、紹介した対策を一つずつ実行してください。行動を始めたオーナーから、空室不安のない安定運営に近づいていきます。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計調査 2025年7月速報値 – https://www.mlit.go.jp
- 東京都住宅政策本部 賃貸住宅市場レポート2025 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp
- 経済産業省・国土交通省 住宅省エネ2025キャンペーン概要 – https://jutaku-shoene2025.jp
- 国税庁 不動産所得の必要経費等に関する通達(2025年版) – https://www.nta.go.jp
- 公益財団法人 不動産流通推進センター 不動産取引の現況2025 – https://www.retpc.jp