コロナ禍を経て、都市と地方を行き来する「二地域居住」という新しいライフスタイルが急速に広がっています。テレワークの普及により、平日は都心で働き、週末は自然豊かな地方で過ごすという暮らし方が現実的になりました。この変化は不動産市場にも大きな影響を与えており、賃貸需要の構造が大きく変わりつつあります。本記事では、二地域居住による賃貸需要の実態を詳しく分析し、不動産投資家が押さえるべきポイントと成功戦略を解説します。市場データに基づいた客観的な視点から、今後の投資判断に役立つ情報をお届けします。
二地域居住とは何か?その背景と現状

二地域居住とは、都市部の住まいを維持しながら、地方にもう一つの拠点を持ち、定期的に行き来する暮らし方を指します。従来の「別荘」とは異なり、仕事や生活の実質的な拠点として地方の住まいを活用する点が特徴です。
この動きが加速した背景には、働き方改革とデジタル技術の進化があります。総務省の調査によると、2023年時点でテレワークを導入している企業は全体の51.7%に達し、特に従業員300人以上の企業では70%を超えています。場所に縛られない働き方が可能になったことで、多くの人が都市と地方の「いいとこ取り」を実現できるようになりました。
実際に二地域居住を実践している人の数も増加傾向にあります。国土交通省の「国土の長期展望」によれば、二地域居住に関心を持つ都市住民は約1,000万人と推計されており、そのうち実際に実践している人は約56万人に上ります。さらに注目すべきは、30〜40代の働き盛り世代が全体の約40%を占めている点です。
二地域居住者が求める地方拠点の条件も明確になってきました。交通アクセスの良さ、自然環境の豊かさ、そして生活インフラの充実度が三大要素となっています。都心から2〜3時間程度でアクセスでき、日常生活に必要な買い物や医療施設が整っているエリアが特に人気を集めています。
二地域居住がもたらす賃貸需要の変化

二地域居住の広がりは、賃貸市場に従来とは異なる新しい需要を生み出しています。最も大きな変化は、地方都市における賃貸需要の増加です。これまで人口減少により需要が低迷していた地域でも、二地域居住者向けの物件に対する引き合いが強まっています。
重要なのは、この需要が単なる一時的なブームではなく、構造的な変化である点です。リクルート住まいカンパニーの調査では、二地域居住を始めた人の約75%が「今後も継続したい」と回答しており、定着率の高さが確認されています。また、一度始めた人の平均継続期間は3.8年と、比較的長期的な需要であることも分かっています。
賃貸物件に求められる条件も変化しています。従来の賃貸需要では駅近や都心へのアクセスが最優先でしたが、二地域居住者は異なる価値観を持っています。広めの間取り、テレワーク用の個室、駐車場の有無、そして周辺の自然環境が重視されます。実際、二地域居住者が借りる物件の平均面積は60〜80㎡と、都市部の単身者向け物件の2倍以上になっています。
家賃相場にも興味深い傾向が見られます。地方都市の賃貸物件で、二地域居住者向けに設備を充実させた物件は、従来の相場より10〜20%高い家賃でも成約するケースが増えています。これは、都市部の家賃水準に慣れた層が借り手となるため、地方の相場観とのギャップが生じているためです。
エリア別の賃貸需要分析と投資適地
二地域居住による賃貸需要は、全国一律ではなく地域によって大きな差があります。需要が高いエリアの特徴を理解することが、投資成功の鍵となります。
首都圏近郊では、長野県軽井沢町、山梨県富士河口湖町、静岡県熱海市などが代表的な人気エリアです。これらの地域は東京から2時間程度でアクセスでき、自然環境と生活利便性のバランスが取れています。軽井沢町では2020年以降、賃貸物件の成約件数が前年比で平均30%増加しており、特に2LDK以上の物件に対する需要が顕著です。
関西圏では、兵庫県淡路島、和歌山県白浜町、滋賀県大津市などが注目されています。大阪や京都から1〜2時間圏内にあり、海や山といった自然資源に恵まれた地域です。淡路島では、移住・二地域居住支援制度の充実もあり、2022年の転入者数が過去10年で最多を記録しました。
地方都市圏でも、県庁所在地やその近郊で需要が高まっています。福岡市、仙台市、札幌市などの地方中核都市は、東京との二地域居住の拠点として選ばれるケースが増えています。これらの都市は地方でありながら都市機能が充実しており、「地方の良さ」と「都市の便利さ」を両立できる点が評価されています。
一方で、需要が見込めないエリアの特徴も明確です。都市部からのアクセスに3時間以上かかる地域、日常的な買い物施設が乏しい地域、医療機関が不足している地域では、二地域居住者の定着率が低い傾向にあります。投資判断においては、こうした「避けるべきエリア」を見極めることも重要です。
二地域居住者が求める物件の特徴
二地域居住者向けの賃貸物件には、一般的な賃貸物件とは異なる特徴が求められます。これらの要素を理解し、物件選びや設備投資に反映させることが、高い入居率と収益性の確保につながります。
まず間取りについては、2LDK以上が基本となります。テレワーク用の個室が必要なため、1LDKでは不十分なケースが多いのです。国土交通省の調査では、二地域居住者の約65%が「仕事専用のスペース」を重視すると回答しています。理想的なのは、リビング、寝室、ワークスペースを分けられる3LDKの間取りです。
インターネット環境の充実は必須条件です。光回線の導入は当然として、Wi-Fiルーターの設置、場合によっては複数回線の用意も検討すべきです。テレワークでオンライン会議を頻繁に行う入居者にとって、通信環境の安定性は家賃以上に重要な判断基準となります。実際、通信環境を理由に退去するケースも報告されています。
駐車場の有無も重要なポイントです。二地域居住者の約80%が自家用車を利用しており、駐車場がない物件は選択肢から外されることが多くなります。できれば屋根付きの駐車場が望ましく、複数台停められるスペースがあればさらに競争力が高まります。
設備面では、エアコン、洗濯機、冷蔵庫などの基本的な家電が備え付けられていることが好まれます。二地域居住者は定期的に拠点を移動するため、家具家電付き物件のニーズが高いのです。初期投資は必要ですが、家賃を月額1〜2万円上乗せできるため、3〜5年で回収可能です。
周辺環境については、自然へのアクセスと生活利便性のバランスが求められます。徒歩圏内にスーパーやコンビニがあり、車で10〜15分圏内に総合病院があることが理想的です。また、近隣に公園や山、海などの自然環境があることも重要な要素となります。
投資戦略と収益性の分析
二地域居住需要を狙った不動産投資では、従来の都市部投資とは異なる戦略が必要です。市場の特性を理解し、適切な投資判断を行うことが成功への道となります。
投資対象としては、中古戸建てのリノベーション物件が有力な選択肢です。地方都市では築20〜30年の戸建て物件を500〜1,000万円程度で取得でき、200〜300万円のリノベーション投資で二地域居住者向けの魅力的な物件に生まれ変わります。総投資額800〜1,300万円に対し、月額家賃8〜12万円が見込めれば、表面利回り7〜11%という高い収益性を実現できます。
新築アパート投資も選択肢の一つですが、慎重な判断が必要です。地方都市では建築費が都市部より2〜3割安いものの、土地取得費を含めると総投資額は大きくなります。重要なのは、二地域居住者だけでなく、地元の賃貸需要も取り込める立地を選ぶことです。駅近や大学近くなど、複数の需要層を狙える場所であれば、空室リスクを分散できます。
収益性を高めるポイントは、付加価値の提供にあります。単なる賃貸住宅ではなく、地域の魅力を体験できる「暮らし」を提供する視点が重要です。例えば、地元の農家と提携して野菜の定期配送サービスを付けたり、地域のアクティビティ情報を定期的に提供したりすることで、他の物件との差別化が図れます。
運営面では、管理の効率化が課題となります。二地域居住者は月の半分程度しか滞在しないケースも多く、空室期間の有効活用が収益向上のカギです。短期賃貸との組み合わせや、サブスクリプション型の柔軟な契約形態を導入することで、稼働率を高められます。ただし、旅館業法や民泊新法との関係を確認し、適法な運営を心がける必要があります。
リスク管理も忘れてはいけません。二地域居住ブームが一時的なものに終わる可能性も考慮し、地元の一般的な賃貸需要でも成立する物件を選ぶことが重要です。また、自然災害リスクの高いエリアは避け、ハザードマップを必ず確認しましょう。地方物件は都市部に比べて流動性が低いため、出口戦略も事前に検討しておくべきです。
成功事例から学ぶ実践的なノウハウ
実際に二地域居住需要を捉えて成功している投資家の事例から、実践的なノウハウを学びましょう。これらの事例は、理論だけでなく現場の知恵が詰まっています。
長野県軽井沢町で中古戸建てをリノベーションしたAさんの事例です。築25年の戸建てを700万円で購入し、250万円をかけてリノベーションしました。特に力を入れたのが、テレワーク環境の整備です。2階の一室を完全防音のワークスペースに改装し、独立した光回線を2本引きました。さらに、薪ストーブを設置して軽井沢らしい雰囲気を演出しました。月額家賃12万円で募集したところ、1週間で東京在住のIT企業経営者が決まり、現在3年目の入居が続いています。
山梨県富士河口湖町で新築アパートを建てたBさんの事例も参考になります。2LDK×4戸の小規模アパートを建築し、各戸に専用駐車場とウッドデッキを設けました。総投資額は土地代込みで5,500万円、月額家賃は1戸あたり9万円です。入居者は全員が東京からの二地域居住者で、平均入居期間は4年を超えています。成功の秘訣は、入居者コミュニティの形成にありました。月1回の入居者交流会を開催し、地域情報の共有や困りごとの相談ができる場を提供しています。
静岡県熱海市で複数の物件を運営するCさんは、柔軟な契約形態で差別化を図っています。通常の2年契約に加えて、3ヶ月単位の短期契約、週末のみ利用できるサブスクリプション型契約など、入居者のニーズに合わせた選択肢を用意しました。この柔軟性が評価され、稼働率は年間平均85%を維持しています。特にサブスクリプション型は、二地域居住を試してみたい層に人気で、その後正式な賃貸契約に移行するケースも多いそうです。
これらの成功事例に共通するのは、単なる「貸す」だけでなく、入居者の暮らしをサポートする姿勢です。地域の魅力を伝え、困りごとに迅速に対応し、コミュニティを育てることで、長期的な入居と口コミによる新規入居者の獲得につながっています。
今後の市場展望と投資判断のポイント
二地域居住による賃貸需要は、今後さらに拡大すると予測されています。ただし、その成長は地域や物件タイプによって大きく異なるため、慎重な投資判断が求められます。
市場拡大の背景には、社会構造の変化があります。総務省の推計では、2030年までにテレワーク実施率が60%を超えると予測されており、場所に縛られない働き方がさらに一般化します。また、団塊ジュニア世代が50代に入り、セカンドライフを見据えた二地域居住を検討する層が増えることも市場拡大の要因です。
一方で、注意すべきリスクも存在します。経済状況の悪化により企業のテレワーク推進が後退する可能性、地方自治体の支援制度の縮小、交通インフラの維持困難などが考えられます。特に人口減少が著しい地域では、長期的な需要維持が難しくなる可能性があります。
投資判断のポイントは、複数の需要層を取り込める物件を選ぶことです。二地域居住者だけでなく、地元の移住者、リモートワーカー、観光客など、多様なニーズに対応できる物件であれば、市場変化にも柔軟に対応できます。また、都市部からのアクセスが2時間以内、生活インフラが整っている、自然環境が豊かという3つの条件を満たすエリアを優先すべきです。
資金計画においては、保守的なシミュレーションが重要です。稼働率は70%程度で計算し、家賃は地元相場の1.2倍程度に抑えた想定で収支を検証しましょう。また、リノベーション費用や設備投資は、5〜7年での回収を目標とし、短期的な利益を追わない姿勢が長期的な成功につながります。
まとめ
二地域居住の広がりは、不動産投資市場に新たなチャンスをもたらしています。テレワークの定着により、都市と地方を行き来する暮らし方が一般化し、地方都市における賃貸需要が構造的に変化しています。
成功のカギは、二地域居住者が求める物件の特徴を正確に理解することです。広めの間取り、充実したテレワーク環境、駐車場の確保、そして自然環境と生活利便性のバランスが重要な要素となります。また、単なる賃貸住宅ではなく、地域の魅力を体験できる「暮らし」を提供する視点が差別化につながります。
投資エリアの選定では、都市部から2時間以内のアクセス、生活インフラの充実、自然環境の豊かさという3つの条件を重視しましょう。軽井沢、富士河口湖、熱海などの実績あるエリアだけでなく、地方中核都市近郊にも注目すべき市場が存在します。
収益性の確保には、中古戸建てのリノベーションが有力な選択肢です。適切な物件選びと戦略的な設備投資により、表面利回り7〜11%という高い収益性を実現できます。ただし、二地域居住需要だけに依存せず、地元の一般的な賃貸需要も取り込める物件を選ぶことで、リスクを分散できます。
今後、二地域居住市場はさらに拡大すると予測されますが、地域や物件タイプによって成長度合いは異なります。保守的な収支シミュレーションと、複数の需要層を取り込める物件選びが、長期的な投資成功の鍵となります。
二地域居住という新しいライフスタイルの広がりは、地方創生と不動産投資の両立を可能にする大きなチャンスです。市場の特性を理解し、入居者の暮らしをサポートする姿勢を持つことで、社会的意義と経済的リターンを同時に実現できる投資が可能になります。
参考文献・出典
- 総務省 – テレワークの実施状況に関する調査 – https://www.soumu.go.jp/
- 国土交通省 – 国土の長期展望と二地域居住に関する調査 – https://www.mlit.go.jp/
- 国土交通省 – 住宅市場動向調査 – https://www.mlit.go.jp/
- 総務省統計局 – 人口推計 – https://www.stat.go.jp/
- リクルート住まいカンパニー – 二地域居住に関する実態調査 – https://www.recruit-sumai.co.jp/
- 内閣府 – 地方創生に関する調査 – https://www.cao.go.jp/
- 不動産流通推進センター – 不動産市場動向データ – https://www.retpc.jp/