アパート経営を始めたばかりのオーナーが最初につまずきやすいのが家賃設定です。高すぎれば空室が長引き、低すぎれば収益が伸びません。そのため「どの水準が正解なのか」という悩みは尽きません。本記事では最新の市場データを基に、家賃を適切に決めるための考え方と具体的な手順を解説します。読み終えるころには、数字と根拠を持って家賃を設定できるようになるはずです。
市場調査が家賃設定の出発点

重要なのは、まず自分の物件が属する市場を正確に把握することです。市場調査を怠ると、家賃が平均から大きく外れ、空室率が高まります。
国土交通省の住宅統計によると、2025年7月時点の全国アパート空室率は21.2%で、前年より0.3ポイント改善しました。つまり、全体としては僅かに需給が引き締まっていますが、地域差は依然として大きいです。東京都心三区では空室率が11%前後にとどまる一方、地方中核市では30%近いエリアもあります。これを踏まえ、物件所在地の「市区町村レベル」の空室率を確認し、自分の競争環境を数値で把握しましょう。
次に、賃貸ポータルサイトとレインズマーケット情報を用い、同タイプ物件の募集賃料を20件以上取得します。築年数、間取り、駅距離を合わせて平均値を出すことで、統計的にブレの少ない相場が得られます。この作業により、家賃設定の基準線が明確になります。
競合物件をどう分析するか

ポイントは、競合を単に一覧するのではなく「スペックの差額」に着目することです。同じエリアでも築浅や設備充実物件は高値で成約し、築古や設備不足物件は値下げを迫られます。
まず、築年が5年違うと成約家賃が平均4〜6%動く傾向があると、2024年度の不動産研究所レポートは示しています。言い換えると、築15年の物件が平均6万円なら、築20年の物件は5万7千円前後が妥当です。また、エレベーターやオートロックなどの設備は、あるだけで月2千〜3千円の上乗せが可能という調査結果もあります。
分析結果をエクセルで整理し、各要素のプラスマイナスを数値化すると便利です。こうして算出した「構造化された相場観」は、感覚に頼らず家賃を決定するうえで強力な武器になります。
家賃と空室リスクのバランス
まず押さえておきたいのは、満室時の利回りより「長期稼働率」を重視する姿勢です。家賃を5%下げても入居期間が半年延びれば、実収益はプラスになるケースが珍しくありません。
たとえば月6万円の家賃を5%下げると、月3千円の減収です。しかし空室期間が一か月短縮できれば、年間では3万円の空室損失を回避できます。結果として、値下げの方が手残りを増やす計算になります。つまり、目先の家賃単価よりも年間のキャッシュフロー全体を試算することが不可欠です。
さらに、入居者が長期化すると退去時の原状回復費も抑えられます。管理会社から提示された「想定空室期間」と「退去時費用」を収益シミュレーションに組み込み、家賃水準を複数パターンでテストするのが合理的です。
付加価値で家賃を上げる方法
実は、立地や築年数が見劣りしても、付加価値を付ければ家賃アップは可能です。特にスマートロックや高速インターネットは、若年層からの需要が高い設備として定着しました。
総務省の通信利用動向調査によると、2025年の20代世帯は固定回線より高速Wi-Fi付き賃貸を選ぶ比率が56%に達しています。このニーズに応えて光回線を共用部まで引き込み、各戸にWi-Fiを提供すると、月額家賃を2千円上げても競争力を維持できます。設備投資は一戸当たり6万円程度が目安なので、回収期間は約2年です。
同じように、宅配ロッカーや防犯カメラも投資額と家賃上昇のバランスが良好です。初期費用を減価償却しながら、入居者満足と退去抑制を両立できる点がメリットとなります。
2025年度の税制と補助制度を踏まえた戦略
基本的に、家賃設定は税制や補助金と直接連動しませんが、経営を支えるキャッシュフローには大きく影響します。2025年度は「住宅省エネ2025キャンペーン」が継続しており、断熱改修や高効率給湯器の導入に対して最大45万円の補助が受けられます。
この補助を利用して省エネリフォームを行うと、光熱費の削減効果を訴求でき、家賃を1千円程度上乗せしても入居者に納得してもらいやすくなります。さらに、リフォーム費用の一部を即時償却できる特例も2025年度末まで延長されました。減価償却費が増えることで所得税負担が下がり、手取りキャッシュフローが改善します。
したがって、家賃アップを狙う前に補助金対象の省エネ改修を検討し、設備強化と節税を同時に実現する戦略が有効です。管理会社とも連携し、募集広告で補助活用の具体効果をアピールすると反響率が高まります。
まとめ
ここまで、家賃設定のコツを市場調査、競合分析、空室リスク管理、付加価値の創出、そして2025年度制度の活用という五つの視点から解説しました。最適な家賃は「相場×物件スペック×経営方針」の掛け算で決まります。まずは地域の正確な相場を押さえ、長期のキャッシュフローを試算し、必要なら設備投資や補助金を活用して競争力を高めましょう。最後に、設定した家賃を定期的に見直すことで、変化する市場でも安定収益を維持できます。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計調査 2025年7月速報 – https://www.mlit.go.jp/
- 総務省 通信利用動向調査 2025年版 – https://www.soumu.go.jp/
- 不動産研究所 賃貸住宅マーケットレポート2024年度 – https://www.realestateinst.jp/
- 経済産業省 住宅省エネ2025キャンペーン概要 – https://www.meti.go.jp/
- 国税庁 改修工事に係る特別償却制度 2025年度版 – https://www.nta.go.jp/