アパート経営で空室が増えると、ローン返済や修繕費の負担が重くのしかかります。特に地方や郊外では「住居」としての需要が頭打ちになりがちで、空室に悩むオーナーは少なくありません。そんなとき有効なのが、一部の住戸を事務所向けに転用する戦略です。個人事業主やリモートワーカーが増えた2025年現在、静かな環境で仕事をしたいというニーズは確実に存在しています。本記事では、アパート経営で事務所利用を取り入れる際の法的ポイント、収益計算、需要の見極め方、そして2025年度の支援制度までを丁寧に解説します。
住居から事務所へ転用するメリットと注意点

まず押さえておきたいのは、空室を事務所として貸すことで得られる三つの利点です。それは賃料単価の上乗せ、契約期間の安定化、そして共益費の適正化にほかなりません。
最初の段落ではメリットを整理します。事務所利用は住宅より高い賃料を設定しやすく、同時に法人契約が増えるため中途解約リスクも下がります。さらに水道光熱費やインターネット回線を共益費として明確に転嫁できる点も見逃せません。つまり、同じ専有面積でも手取りキャッシュフローを押し上げやすいのです。
一方で注意点もあります。住居用に設計された部屋は遮音性や耐荷重がオフィス仕様に比べて低い場合があり、床補強やコンセント増設が必要になるかもしれません。また、事務所利用で人の出入りが増えると他の入居者とのトラブルが起きやすくなります。これらは事前にハウスルールを定め、契約書に盛り込むことでリスクを抑えられます。
最後に火災保険や家財保険の見直しも不可欠です。業務用機器が持ち込まれると資産価値が高くなるため、保険会社から追加条件を提示されるケースがあります。保険料アップが賃料増額を上回らないか試算してから転用を決断すると安心です。
賃貸借契約と用途変更の法律知識

重要なのは、住居を事務所に変える際、建築基準法と賃貸借契約の二つの法的ハードルをクリアすることです。法律を無視すると立入検査で是正命令を受け、最悪の場合は営業停止になるので要注意です。
まず建築基準法では、用途変更に当たり延べ床面積が200平方メートルを超えると確認申請が必要になります。アパート全体でこの面積を超える物件は多くありませんが、共有部を含めた総面積で計算される点を覚えておきましょう。さらに消防法令適合通知書の提出が求められることもあり、地元の消防署に事前相談すると手続きがスムーズです。
次に賃貸借契約ですが、住居用契約書を流用するとトラブルの元です。事務所契約では「使用目的:事務所」「営業時間」「従業員数」など細かい条項が欠かせません。加えて定期借家契約を採用すれば、更新時に改めて条件を見直せるため、家主側の交渉力が高まります。
最後に近隣説明の義務です。事務所利用が業種によっては「用途地域」の規制に抵触する例もあります。例えば第一種低層住居専用地域では事務所面積が50平方メートル以下に制限されるため、パンフレットや図面を用意して自治体に確認することが大切です。
収益シミュレーションで見るキャッシュフロー改善効果
ポイントは、賃料が上がるだけではなく、空室率が下がることで総収入が安定する点です。国土交通省住宅統計によると、2025年7月の全国アパート空室率は21.2%ですが、事務所転用を行った物件の平均空室率は15%前後にとどまるという調査もあります。
まずモデルケースを示します。家賃6万円の空室を月7万5千円の事務所として貸すと仮定しましょう。追加工事に40万円、保険料の増額が年間2万円かかっても、満室稼働で年間18万円の賃料増となります。およそ三年弱で投資回収できる計算になり、以降は利益の上積みが見込めます。
さらにキャッシュフローを押し上げるのは、共益費の明確化です。住居契約では回収しづらいインターネット利用料やコピー機の電気代を、月額5千円の共益費として設定すれば、管理の透明性と収益の双方が向上します。
加えて融資返済比率の改善も期待できます。年間家賃収入の増加額がローン返済額の8%程度を超えると、金融機関は追加融資に前向きになる傾向があり、資金調達の選択肢が広がります。つまり事務所転用は、次の投資ステップを後押しする効果もあるのです。
事務所需要を見極める立地とターゲット設定
実は、事務所需要は都心だけの話ではありません。テレワークの普及で、自宅近くにセカンドオフィスを求める層が増えているからです。まず押さえておきたいのは、最寄り駅から徒歩10分以内、コンビニまで徒歩3分以内という基礎条件です。これは宅配や来客対応の利便性に直結します。
次にターゲットを具体的に想定します。個人デザイナーやオンライン講師は静かな環境を重視するため、壁紙を落ち着いた色合いに変えるだけで成約率が上がります。一方で士業事務所やITスタートアップは高い通信速度を求めるので、光回線の法人プランを導入しておくと差別化になります。
地方都市では、役所や裁判所に徒歩圏の物件が強みを発揮します。行政書士や社会保険労務士の顧客は庁舎に用事が多く、公共交通の便より近接性を重視する傾向があるからです。また駐車場を確保できる郊外型アパートは、配送業や訪問介護事業所のニーズを取り込めます。
最後にマーケティング手段として、SNS広告よりも地域専門誌や商工会議所の掲示板が有効なことがあります。事務所利用者はエリア限定で探すため、オフラインの情報網を活用すると早期成約に結びつきやすいのです。
2025年度の支援制度と融資動向
ポイントは、国の中小企業支援策を間接的に利用できる点です。2025年度の小規模事業者持続化補助金では、事務所開設費用のうち設備投資分が対象経費となり、借主が申請を行うケースが増えています。オーナーが制度を案内することで、内装グレードを上げながら高い賃料設定を実現できる可能性があります。
融資面では、日本政策金融公庫の「新事業活動促進資金」が2025年度も継続しており、アパートの用途変更に伴う改装費用が対象になります。実行金利は2.0%前後ですが、省エネ性能を高める改装を同時に行うと0.2%の金利優遇を受けられる点が魅力です。
また地域金融機関では、SDGsを意識した「空室再生ローン」を取り扱う銀行が増えました。空室率改善と地域雇用創出を同時に達成する案件として、審査が柔軟になる傾向があります。事務所転用はこうした融資商品のコンセプトに合致するため、交渉材料として有効です。
ただし助成金や融資には申請期限があります。持続化補助金の第3回公募は2025年11月末締切、日本政策金融公庫の優遇金利は2026年3月実行分までとなっています。スケジュールを逆算し、設計士や工務店と早めに打合せをすることが成功のカギになります。
まとめ
アパート経営で空室対策に悩むオーナーにとって、事務所転用は賃料アップとリスク分散を同時に達成できる有力な選択肢です。用途変更の法的確認、ターゲットを意識した内装と設備、そして2025年度の支援制度の活用が三位一体となって収益を押し上げます。まずは自物件の立地特性を分析し、需要がある業種を絞り込むことから始めてみてください。行動を起こしたオーナーから順に、安定したキャッシュフローと次の投資チャンスが見えてきます。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計調査 2025年7月速報 – https://www.mlit.go.jp
- 日本政策金融公庫 新事業活動促進資金 公式ページ – https://www.jfc.go.jp
- 中小企業庁 小規模事業者持続化補助金 公募要領 2025年度版 – https://www.chusho.meti.go.jp
- 総務省 テレワーク人口実態調査 2025年版 – https://www.soumu.go.jp
- 消防庁 建物用途変更に関するガイドライン 2024改訂版 – https://www.fdma.go.jp