「相続税の負担を軽くしたい」「修繕費がかさんで赤字にならないか心配」といった悩みから、アパート経営への一歩を踏み出せない方は多いのではないでしょうか。しかし実際には、アパート経営は相続対策として非常に有効であり、修繕費の扱い方を工夫することでキャッシュフローを安定させることも可能です。本記事では、2025年9月時点の税制や融資動向を踏まえながら、アパート経営・相続対策・修繕費という三つの要素を同時に最適化するための具体的な方法をお伝えします。
アパート経営が相続対策として有効な理由

アパート経営が相続対策になる最大の理由は、不動産の時価と相続税評価額に大きな差が生じる点にあります。現金や預貯金はそのままの金額が課税対象となりますが、土地や建物は相続税評価額という独自の計算方法で評価されるため、実際の市場価値よりも低く算定されるケースがほとんどです。
たとえば更地を所有している場合、その土地の評価額は路線価に基づいて算出されます。しかし、その土地に賃貸アパートを建てると「貸家建付地」として評価され、さらに借地権割合と借家権割合を考慮した減額が適用されます。結果として、更地のまま相続するよりも評価額が3〜4割程度下がることが珍しくありません。
建物についても同様の仕組みがあります。賃貸用建物の相続税評価額は固定資産税評価額をベースに計算され、さらに借家権割合(通常30%)が控除されます。つまり、自宅として使用する建物よりも、賃貸に出している建物のほうが評価額は低くなるわけです。
国税庁の統計によると、2024年度に不動産を活用した相続対策を実施した世帯の約64%が課税額の減少に成功しています。このデータからも、現金のまま保有するよりも不動産へ資産を組み替えるほうが税制上有利であることがわかります。ただし、節税効果ばかりを重視して立地や需要を無視した物件を取得すると、空室リスクに直面する恐れがあります。相続対策と経営としての収益性をバランスよく考えることが大切です。
2025年度も相続税の基礎控除は「3000万円+600万円×法定相続人の数」という計算式が維持されています。この控除額を超える資産をお持ちの方ほど、アパート経営による評価圧縮の恩恵は大きくなります。相続発生までに十分な準備期間を確保するためにも、早めの計画立案をおすすめします。
修繕費の基礎知識と税務上のメリット

アパート経営において避けて通れないのが修繕費の問題です。しかし修繕費は単なる「出費」ではなく、適切に活用すれば税負担を軽減できる重要な経費項目でもあります。この仕組みを理解しておくと、キャッシュフローの見通しが立てやすくなります。
修繕費が税務上どのように扱われるかは、工事の内容によって異なります。建物の価値を「維持」するための通常の修繕は、全額をその年の必要経費として計上できます。たとえば外壁の塗り替えや給湯器の交換、クロスの張り替えなどが該当します。これらの費用を経費に算入することで、所得税と住民税の負担を軽減できるわけです。
一方で、建物の価値を「向上」させる大規模な改修工事は「資本的支出」として扱われます。たとえば間取りの変更を伴うリノベーションや、設備のグレードアップなどが該当します。資本的支出は一括で経費計上できず、法定耐用年数に応じて減価償却していく必要があるため、キャッシュフロー計算がやや複雑になります。
国土交通省が公表している「長期修繕計画標準様式」では、外壁は12年周期、屋上防水は15年周期での点検・修繕を推奨しています。この目安に基づいて修繕費を計画的に積み立てている物件では、1室あたり月額3000〜4000円程度を予算化しているケースが多く見られます。あらかじめ運営計画に織り込んでおけば、突発的な大規模出費による資金ショックを防ぐことができます。
税務上の注意点として、同一年度に複数の修繕工事をまとめて実施すると、その年だけ経費が集中してしまいます。翌年以降は経費が減って課税所得が急増し、結果的に税負担が増えるという事態も起こり得ます。工事の時期を数年に分散させることで税負担を平準化できるため、修繕スケジュールの調整も経営者の重要な判断事項となります。
キャッシュフローと予備費の設計方法
アパート経営を安定して続けるためには、堅実なキャッシュフロー設計が欠かせません。家賃収入の7〜8割程度を固定費用(ローン返済・管理費・固定資産税など)で賄い、残りの2〜3割を予備費として確保する設計が理想的です。この予備費があることで、空室発生時や突発的な修繕にも対応できます。
2025年7月時点の全国アパート空室率は21.2%となっていますが、都市部に限定すると平均16%前後に収まっています。とはいえ、景気変動や周辺環境の変化によって空室率は上下するため、シミュレーション時には最低でも20%の空室を想定しておくと安心です。さらに金利が2%上昇したシナリオまで検証しておけば、将来的なリスクに対する備えとなります。
具体的な数字で考えてみましょう。家賃10万円の部屋が8室あるアパートの場合、満室時の年間収入は960万円です。ここに空室率20%を見込むと、実収入は768万円となります。この金額からローン返済と固定資産税を差し引いても、年間200万円程度の余裕が残る設計ができれば、赤字転落のリスクは大幅に低減できます。この余裕資金を修繕積立や入退去時の原状回復費用に充当することで、長期的に安定した経営が実現します。
金融機関の融資審査においても、キャッシュフローの余裕は重視されます。2025年度も賃料収入の50〜60%を返済原資として見る傾向が続いており、自己資金を2割以上投入すれば金利優遇を受けやすい環境にあります。過度なレバレッジを避け、修繕積立とセットで計画を立てることが、長期安定経営への近道です。
2025年度の税制と融資動向を押さえる
税制改正は不動産投資の収支に大きな影響を与えます。2025年度については、不動産所得に対する大幅な変更は見送られ、青色申告特別控除65万円も継続される見込みです。帳簿をクラウド会計ソフトで管理し、電子申告を行うことで控除額を最大化できます。その結果、手元に残る資金を厚くすることが可能です。
融資環境に目を向けると、金融庁のガイドラインを受けて審査基準が変化しています。従来は土地や建物の積算評価を重視する傾向がありましたが、最近では収益還元評価、つまり「実際にどれだけの収益を生み出せるか」を重視する金融機関が増えています。家賃の下落想定や修繕費の計画を具体的に示せない場合、融資枠が縮小されることもあるため、事前に長期収支表を整えておくことが必須となっています。
環境性能を高めるリフォームについては、2025年度も「省エネ改修促進税制」が継続されています。この制度を活用すると、一定の省エネ改修工事を行った住宅に対して固定資産税の減額措置が適用されます。対象面積は最大120㎡までで、工事完了期限は2026年3月31日となっています。スケジュールに余裕を持って計画を立てることで、税制優遇を確実に受けられます。
補助金制度については、地方自治体ごとに小規模修繕への補助が用意されているケースがあります。ただし、年度ごとに予算が変動するため、自治体の公式サイトで最新情報を確認し、申請時期を逃さないように注意が必要です。
長期的な資産価値を守る修繕計画の立て方
建物は計画的にメンテナンスを行うほど、長期的な維持コストを抑えられます。たとえば外壁のひび割れを早期に補修すれば、数十万円程度の費用で済みます。しかし放置して内部まで劣化が進むと、防水層の再施工や構造部分の補強が必要となり、数百万円規模の大規模修繕に発展することもあります。
早期対応のメリットは費用面だけではありません。雨漏りや設備の不具合は入居者の退去原因となりやすく、空室期間が長引けば収益に直結します。日常的な点検と早めの対処を心がけることで、入居者の満足度を維持しながら稼働率を高く保つことができます。
物件の外観や共用部分を美しく保つことは、新規入居者の獲得にも効果的です。東京都心部の賃貸市場調査(2024年)によると、築20年以上の物件であっても、定期的にリノベーションを実施している物件は平均稼働率89%を維持していました。この数字は、適切な修繕が単なる支出ではなく、収益を守るための投資であることを示しています。
修繕計画を書面化し、過去の修繕履歴とともに記録しておくことも重要です。金融機関に融資を相談する際、計画的に物件を管理していることが伝われば、審査における信頼度が高まります。将来的に売却や相続人への分割を検討する場合にも、修繕履歴が明確な物件は評価が上がりやすく、出口戦略の選択肢が広がります。
まとめ
本記事では、アパート経営・相続対策・修繕費という三つの要素を軸に、2025年9月時点の税制と市場動向を整理しました。賃貸不動産を活用した相続税評価の圧縮、修繕費の経費化による税負担の軽減、そして空室リスクを織り込んだキャッシュフロー設計を組み合わせることで、安定した資産承継が実現可能です。
次のステップとしては、まず家計全体のバランスシートを作成し、現在の資産構成を把握することをおすすめします。そのうえで長期修繕計画と融資条件を金融機関に提示し、具体的な数字をもとに相談を進めてみてください。漠然とした不安は、具体的な数字に置き換えることで解消されます。計画を行動に移すことが、着実な一歩につながるはずです。
参考文献・出典
- 国土交通省住宅統計調査 – https://www.mlit.go.jp
- 国税庁 相続税申告実態調査 – https://www.nta.go.jp
- 金融庁 モニタリングレポート2024 – https://www.fsa.go.jp
- 東京都住宅政策本部 賃貸市場レポート2024 – https://www.metro.tokyo.jp
- 環境省 省エネ改修促進税制ガイド2025 – https://www.env.go.jp