アパートを所有していると、いずれ必ず直面するのが修繕費の問題です。屋根や外壁の塗り替え、給排水管の入れ替えなど予定外の支出が重なると、せっかく人気を集めた物件でもキャッシュフローが一気に悪化します。この記事では、修繕費がアパート経営の人気を左右する仕組みを解説し、2025年9月時点で使える制度や具体的な費用計画の立て方を分かりやすく紹介します。読み終えたとき、あなたは突発的な出費に慌てず、長期安定経営へ踏み出す手順をイメージできるはずです。
修繕費がアパート経営の人気を左右する理由

重要なのは、修繕費の先送りが入居者の満足度を確実に下げ、空室率の上昇という形で収益に跳ね返る点です。つまり、人気物件を維持するには早めの修繕計画が欠かせません。
都心部でも外壁が汚れてひび割れが目立つアパートは、内見の段階で候補から外されやすいです。築15年を超える物件では、外壁の退色が視覚的に古さを印象づけます。こうしたマイナスイメージは賃料を1割下げても埋まらないことが多く、結果として収益がじわじわ削られます。
国土交通省住宅統計(2025年7月)によると、全国のアパート空室率は21.2%ですが、築20年以上で直近5年間に外壁改修歴のない物件に限ると27%まで跳ね上がります。一方で同じ築年でも改修済みの物件は19%にとどまり、6ポイントの差が修繕投資の効果を物語ります。この差は年間賃料で数十万円以上、長期では数百万円の開きにつながります。
また、今は入居者がSNSで住まいの感想を共有する時代です。雨漏りや害虫などのトラブル情報は瞬時に拡散し、ブランドイメージを損ないます。早めに修繕し良いレビューを得ることが、広告費を抑えながら人気を維持する最短ルートと言えます。
まず押さえておきたい修繕費の基礎知識

修繕費とは建物の機能を元に戻すための支出で、税務上は全額をその年度の経費にできる可能性があります。ポイントは資本的支出との区分を正しく理解し、節税効果を最大化することです。
所得税法施行令97条では、原状回復や小規模な改良を修繕費、価値を高める大規模改良を資本的支出としています。例えば外壁の再塗装は修繕費、耐震補強を伴う外壁改修は資本的支出となるケースが一般的です。区分を誤ると経費計上のタイミングを逸し、手元資金が減るリスクがあります。
次に、部位ごとの修繕サイクルを把握しておくと予算を組みやすくなります。屋上防水は12〜15年、給水管は20年、エアコンや給湯器は10年前後が目安です。延床面積600㎡、16戸規模の鉄骨造アパートの場合、外壁塗装と屋上防水だけで300〜400万円かかることも珍しくありません。
この支出を一度に賄うのは困難なため、毎月の家賃収入から修繕積立金を取り分ける仕組みが欠かせます。一般に年間家賃収入の10%を積立すると突発的な工事にも対応しやすいとされますが、築年や設備更新状況で割合を調整することが重要です。
実は修繕費を抑える鍵は築浅より運用術
築年数が浅い物件を選ぶだけでは、修繕費のリスクを完全に回避できません。むしろ運用中の点検と業者選定がコストを左右します。
まず、半年ごとの簡易点検と5年ごとの詳細診断をルーチン化するだけで、大規模修繕のタイミングを前倒しできます。例えば給水ポンプの異音を早期に発見すれば、5万円の部品交換で済み、放置すれば30万円のポンプ総替えが必要になることもあります。小さな修繕で済ませる発想が長い目では費用を抑えます。
次に、複数棟を持つオーナーは工事をまとめて発注することで単価を1〜2割引き下げられます。施工会社は規模の経済が働くため値引きに応じやすく、足場費用を共有できる点も大きいです。まだ1棟だけのオーナーでも、近隣オーナーと情報交換し共同発注を検討するとメリットがあります。
さらに、修繕計画を金融機関に提示して長期返済の運転資金枠を確保する方法も有効です。日本政策金融公庫の設備資金は2025年9月時点で固定1.15%前後と民間より低く、借入額300万円でも月々の返済は2万円強に収まります。キャッシュフローが安定していれば、突発工事でも人気物件の維持をあきらめずに済みます。
2025年度の税制・補助を味方にする方法
2025年度は修繕費を軽減できる税制と補助制度が継続しており、賢く使えば自己負担を圧縮できます。ただし申請手続きや適用条件を理解しておくことが前提です。
まず、1回の修繕費が20万円未満であれば、原則として全額をその年の経費にできます。また取得価額が30万円未満の設備は少額減価償却資産の特例により即時償却が可能です。この特例は2025年度も延長されており、エアコンやLED照明の交換で有効に活用できます。
次に、「住宅省エネ2025補助金」では、共同住宅の断熱改修や高効率給湯器の導入に対し工事費の最大40%が補助されます。賃貸オーナーも賃借人の同意を得たうえで申請でき、補助金上限は1住戸当たり30万円です。室内の快適性が向上すれば入居期間が延び、長期的な修繕費の削減にも寄与します。
さらに、地方自治体が独自に行う「空き家対策賃貸リフォーム助成」は、築古アパートの改修費に対して最大100万円を交付している例があります。東京都杉並区や大阪府豊中市などが2025年度も継続予定です。自治体ごとに予算枠が限られるため、年度初めに情報収集し早めに申請することが得策です。
安心のキャッシュフローを作る具体的シミュレーション
最後に、修繕費を見込んだキャッシュフロー表を作る方法を確認しましょう。数字で把握すると精神的負担も大きく減ります。
たとえば家賃収入月80万円、ローン返済月45万円、その他経費月5万円の16戸アパートを想定します。年間家賃収入は960万円です。ここから10%の96万円を修繕積立に回すと、手取りは月約2万2千円減りますが、10年で960万円の蓄えができます。外壁塗装400万円、給排水管更新200万円、室内設備更新200万円をカバーしても資金に余裕が残ります。
一方で空室率を平均15%に悪化させ、金利を1%上昇させた厳しいシナリオも試算してみましょう。家賃収入は月68万円に減り、ローン返済は月48万円となりますが、修繕積立を8%に下げても年間積立は65万円を確保できます。数値化するとリスク下でも赤字に転落しないことが確認でき、積極的に修繕に踏み切れるようになります。
ここで重要なのは、積立額を毎年見直し、実際の修繕実績とズレがあれば速やかに補正することです。クラウド会計ソフトや不動産管理アプリを使えば、入出金データが自動で分類され、月次で修繕積立率を比較できます。数字に基づく意思決定が、結果として人気物件の地位を守る最短ルートになります。
まとめ
アパート経営で人気を維持するには、修繕費をコストではなく未来への投資と捉える姿勢が欠かせません。計画的な積立と早期点検、そして2025年度も利用できる税制・補助の活用によって、突発的な支出は着実にコントロールできます。今回紹介したシミュレーションを参考に、まずは来年度の修繕計画を数字に落とし込み、金融機関や施工会社とも早めに交渉を始めてください。備えがあれば、物件の魅力とキャッシュフローはどちらも長く保たれ、安定経営への道が開けます。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計調査 2025年7月速報 – https://www.mlit.go.jp
- 国税庁 修繕費と資本的支出の区分Q&A – https://www.nta.go.jp
- 日本政策金融公庫 金利情報(設備資金)2025年9月 – https://www.jfc.go.jp
- 環境省 住宅省エネ2025事業概要 – https://www.env.go.jp
- 東京都 都市整備局 賃貸住宅市場動向調査2025 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp