アパート経営に興味はあるものの、「修繕費が読めず不安」「将来の相続でもめたくない」と感じる方は少なくありません。実は、この二つの課題は別々に考えるより、早い段階で一緒に計画すると大きなメリットが得られます。本記事では、修繕費をコントロールしながら相続対策まで視野に入れる方法を、最新データと2025年度の税制を踏まえてやさしく解説します。読了後には、長期安定経営と円滑な資産承継の両方を同時に進める具体的な手順が見えてくるはずです。
アパート経営と修繕費の基本構造

重要なのは、修繕費を単なるコストではなく、物件価値を守る投資と捉える視点です。国土交通省の指針では、鉄骨造アパートの大規模修繕周期は12~15年が目安とされています。つまり、毎年家賃収入の10~15%を修繕積立に回しておけば、突発的な出費を避けやすくなります。
2025年7月の全国アパート空室率は21.2%ですが、築後15年以上で修繕が遅れると空室率は平均値より5ポイント高まるとの調査もあります。空室が増えれば利回りは急降下し、相続評価額も下落します。逆に、適切な修繕で入居継続率を高めれば、家賃下落を抑えられ、路線価評価も維持しやすくなるのです。
また、修繕費の会計処理には「資本的支出」と「修繕費」の区分があり、前者は減価償却、後者は全額損金算入が可能です。税務上の取扱いを理解し、決算期に合わせて工事を分割すれば、キャッシュフローを滑らかにできます。つまり、経費計上のタイミングを意識するだけで、実質的な手取りが変わる点を押さえておきましょう。
キャッシュフローに効く長期修繕計画

まず押さえておきたいのは、修繕費のピークを平準化することで経営の安定度が大幅に高まるという事実です。国交省の「長期修繕計画標準様式」を活用し、30年間の工事項目と概算費用を一覧化すると、必要資金の全体像が見えます。
計画を立てたら、実際の支払い方法を工夫します。例えば、屋根と外壁を同時に改修すると一度に高額資金が出ていきますが、施工会社に分割スケジュールを提示し、年度を跨いで工事を分ければ税効果を最大化できます。さらに、2025年度の「省エネ改修促進税制」を活用し、断熱塗料を採用すると10%の税額控除を受けられる点も見逃せません。
金融面では、修繕リフォームローンの固定金利が1.4%前後と低水準が続いています。手元資金を温存し、低金利資金で修繕を先行させれば、空室低減効果で利息を十分補える例が多いです。加えて、修繕履歴をクラウドで管理すると、売却時の資料作成が簡単になり、バリューアップにも直結します。
相続対策としての法人化と保険活用
実は、修繕費と相続税を合わせて考えると、法人化のメリットがより明確になります。個人所有の場合、死亡時点での残存価値が相続税評価に直結しますが、法人名義なら株価評価による算定となり、修繕積立金が「負債」として控除される効果があるからです。
さらに、法人で長期火災保険や地震保険を加入し、突発修繕リスクをカバーする方法も有効です。保険料は損金に計上でき、実際の支払いを外部資金でまかなえるため、自己資金を温存できます。また、保険金の受取り時期を調整すれば、翌期以降の繰延利益による税負担の平準化も図れます。
一方で、法人化には設立費用や社会保険加入義務といったデメリットも存在します。そのため、家賃収入が年間1,000万円を超え、修繕費や減価償却費の比率が高い物件ほどメリットが大きいと言えます。相続対策の観点では、遺留分侵害を防ぐため、家族間の株式配分を事前に合意しておくことが欠かせません。
2025年度の税制と補助金をどう活かす
ポイントは、現行制度の「使えるもの」に絞り、手続き期限を守ることです。2025年度税制改正では、中小企業経営強化税制が延長され、認定事業者が耐震・省エネ化を目的とする工事を行う場合、即時償却が選択できます。アパート経営者が個人事業として登録していても、要件を満たせば利用可能です。
補助金面では、国交省の「賃貸住宅省エネ改修支援事業」が2025年度も継続しています。高断熱窓や高効率給湯器への交換で、工事費の3分の1(上限150万円)が補助されます。申請は工事契約前に行う必要があるため、長期修繕計画とセットでスケジュールを組むことが重要です。
また、相続対策として2025年度から適用される「暦年贈与の見直し」を踏まえ、年間110万円の非課税枠と相続加算期間の7年延長を上手に活用すると、修繕積立金の一部を生前贈与で子世代に移し、将来の贈与税負担を抑えられます。制度変更に合わせて贈与計画を再設計しておくと安心です。
トラブルを防ぐ家族信託と専門家連携
まず意識したいのは、修繕に必要な意思決定権を誰が持つかという点です。オーナーが高齢になった後、子世代との意見が割れると工事が遅れ、空室を招く恐れがあります。家族信託を活用すると、受託者に管理と修繕の権限を集中させ、スムーズな意思決定を確保できます。
家族信託契約では、信託口座に修繕積立金を隔離することで、管理状況が透明になります。相続発生時には信託財産が遺産分割の対象外となり、遺族同士のトラブルを避けやすい点も魅力です。ただし、信託設計が複雑なため、司法書士・税理士・一級建築士が連携する体制を整えることが不可欠です。
専門家チームの報酬は物件規模にもよりますが、初期コストとして50万~100万円が目安です。修繕費の適正化と相続トラブル回避による経済効果を考えると、十分にペイするケースが多いでしょう。最終的には「相談しやすい専門家を持ち、長期で伴走してもらうこと」が成功の鍵となります。
まとめ
アパート経営で修繕費を制御し、同時に相続対策を進めるコツは、長期的な視点で資金と権限を整理することに尽きます。修繕計画を作り、税制や補助金を活用しながらキャッシュフローを平準化すれば、物件価値と家賃収入を維持できます。さらに、法人化や家族信託を組み合わせることで、将来の相続税負担や家族間の争いを減らす道筋が見えてきます。今すぐできる第一歩として、現状の修繕履歴と相続計画を棚卸しし、専門家に相談してみましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省住宅局「住宅市場動向調査」2025年7月 https://www.mlit.go.jp/
- 国税庁「法人税基本通達」https://www.nta.go.jp/
- 経済産業省「中小企業経営強化税制の概要」https://www.meti.go.jp/
- 国土交通省「賃貸住宅省エネ改修支援事業」https://www.mlit.go.jp/
- 日本政策金融公庫「事業資金融資利率情報」https://www.jfc.go.jp/
- 総務省「令和7年度税制改正大綱」https://www.soumu.go.jp/