不動産の税金

青色申告の10万円・55万円・65万円控除、どれが得か選び方

不動産投資を始めて確定申告の準備をしていると、「青色申告の控除額って10万円と65万円のどちらかを選ぶの?」と疑問に思う方は多いのではないでしょうか。実はこの制度、2段階ではなく3段階の仕組みになっており、正しく理解しないと本来受けられるはずの控除を見逃してしまうことがあります。この記事では、国税庁の公式情報をもとに、10万円・55万円・65万円それぞれの控除の違いと、不動産投資家が特に注意すべきポイントをわかりやすく解説します。どの控除が自分に当てはまるかを把握することで、節税効果を最大限に引き出せるようになります。

青色申告特別控除は「3段階」の制度である

青色申告特別控除は「3段階」の制度であるのイメージ

まず押さえておきたいのは、青色申告特別控除が「10万円か65万円か」の二択ではないという点です。国税庁の情報(No.2072 青色申告特別控除)によると、控除額は10万円・55万円・65万円の3段階に分かれており、それぞれ異なる要件が設定されています。

多くの方が「10万円か65万円か」という二択のイメージを持っているのは、かつての制度が実際にそのような構成だったためです。しかし現在は55万円という中間の控除額が設けられており、この3段階の仕組みを正しく理解することが節税の第一歩となります。

控除額が大きいほど課税対象となる所得が減り、支払う税金が少なくなります。たとえば65万円の控除を受けられれば、所得税率20%の方であれば最大13万円の節税効果が生まれる計算になります。一方で控除額が大きいほど満たすべき要件も厳しくなるため、自分の状況に合った控除を正確に把握することが大切です。

なお、控除額は所得金額より大きくはできません。国税庁の情報によると、控除前の黒字所得がたとえば30万円であれば、55万円控除の要件を満たしていても控除額は30万円が上限となります。この点も念頭に置いておきましょう。

10万円控除・55万円控除・65万円控除の要件の違い

10万円控除・55万円控除・65万円控除の要件の違いのイメージ

それぞれの控除を受けるために必要な要件を整理すると、段階的に条件が積み上がっていく構造になっています。

まず10万円控除は、55万円・65万円の要件に当てはまらない青色申告者が受けられる控除です(国税庁 No.2072)。簡易な簿記の方法で記帳している場合や、事業的規模に満たない不動産貸付けのみを行っている場合がこれに該当します。手間は最も少ないですが、節税効果も限定的です。

55万円控除を受けるには、不動産所得または事業所得を生ずべき「事業」を営んでいること、複式簿記で記帳していること、貸借対照表・損益計算書・明細書を申告書に添付すること、そして翌年3月15日の申告期限までに申告することが必要です(国税庁 No.2072)。複式簿記は単式簿記より手間がかかりますが、会計ソフトを活用すれば初心者でも対応できる水準です。

65万円控除は、55万円控除の要件をすべて満たした上で、さらに「優良な電子帳簿保存」または「e-Taxによる期限内電子申告」のいずれかを行うことで受けられます(国税庁 No.2072)。e-Taxルートでは、確定申告書だけでなく貸借対照表・損益計算書等もe-Taxで提出する必要があり、イメージデータの送信では要件を満たせない点に注意が必要です。電子帳簿保存ルートを選ぶ場合は、「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る65万円の青色申告特別控除・過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書」の提出も求められます(国税庁 A1-8)。

不動産投資家が特に注意すべき「事業的規模」の壁

不動産投資家にとって特に重要なのが、「事業的規模」かどうかという判断基準です。国税庁の情報(No.1373)によると、不動産貸付けが事業的規模かどうかは、社会通念上「事業」と称するに至る程度の規模で行われているかどうかによって実質的に判断されます。

一般的には、建物の貸付けについて一定の基準が設けられており、この基準を満たさない小規模な不動産貸付けのみを行っている場合は、複式簿記で記帳していても55万円・65万円の控除は受けられず、最高10万円の控除にとどまります(国税庁 No.1373)。これは不動産投資を始めたばかりの方が見落としやすいポイントです。

ただし、事業的規模でない小規模な不動産貸付けであっても、別途事業所得を生ずべき事業を兼業している場合には、55万円または65万円の特別控除が適用される可能性があります(国税庁 令和6年分確定申告の手引き添付資料)。たとえば個人事業主として別の事業を営みながら小規模な不動産貸付けも行っている場合は、事業所得の側で55万円・65万円の要件を満たせば控除を受けられるということです。自分の状況が該当するかどうかは、国税局電話相談センター等に問い合わせるか、税理士に確認することをおすすめします。

また、現金主義による所得計算の特例を選択している方は、55万円控除を受けることができない点も国税庁が明記しています(No.2072)。

期限後申告では大きな控除は受けられない

重要なのは、申告のタイミングです。55万円・65万円の青色申告特別控除は、還付申告であっても期限後に提出した場合は受けられません(国税庁 No.2072)。つまり、たとえ税金の還付を受ける立場であっても、翌年3月15日の申告期限を過ぎてしまうと、大きな控除の恩恵を受けられなくなってしまいます。

この点は多くの方が見落としがちです。「どうせ還付されるから少し遅れても大丈夫」という考えは、青色申告特別控除においては通用しません。期限内申告を徹底することが、控除を確実に受けるための絶対条件です。

また、そもそも青色申告を利用するためには、原則としてその年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を税務署に提出しておく必要があります(国税庁 A1-8)。1月16日以後に新たに不動産賃貸を始めた場合は、開始日から2か月以内が提出期限です。不動産投資を始めたばかりの方は、まずこの申請書の提出を忘れずに行いましょう。

令和9年分から変わる10万円控除の対象者

将来に向けて知っておきたいのが、令和9年分から予定されている10万円控除の要件変更です。国税庁の周知資料(簡易簿記による10万円の青色申告特別控除を適用している皆様へ)によると、令和9年分以降は、前々年分の不動産所得または事業所得に係る収入金額が1,000万円を超える事業的規模の方は、10万円控除の対象外となる改正が案内されています。

この改正は、収入規模が大きい事業者に対して、より適切な帳簿管理を促す趣旨と考えられます。同資料によると、不動産所得については事業的規模の方のみが対象外となり、業務的規模の方は改正後も最大10万円の控除を受けられるとされています。また、業務的規模の方は複式簿記に移行しても控除額は変わらない点も案内されています。

現在10万円控除を利用していて収入規模が大きい方は、この改正を見据えて複式簿記への移行やe-Tax申告の準備を早めに進めることが賢明です。制度の詳細や最新情報は、国税庁の公式サイトや国税局電話相談センターでご確認ください。

まとめ

青色申告特別控除は10万円・55万円・65万円の3段階制度であり、それぞれ要件が異なります。不動産投資家にとっては「事業的規模かどうか」が大きな分岐点となり、小規模な貸付けのみの場合は最高10万円にとどまる点に注意が必要です。55万円・65万円の控除を狙うには複式簿記での記帳と期限内申告が必須であり、65万円にはさらにe-Taxまたは電子帳簿保存の要件が加わります。また、令和9年分からは10万円控除の対象者にも変更が予定されています。自分の状況に合った控除を正確に把握し、早めに準備を進めることが節税の近道です。不明な点は国税庁の公式サイトや国税局電話相談センターを活用し、必要に応じて税理士にも相談してみてください。

参考文献・出典

  • 国税庁 No.2072 青色申告特別控除 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
  • 国税庁 No.2070 青色申告制度 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2070.htm
  • 国税庁 No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1373.htm
  • 国税庁 A1-8 所得税の青色申告承認申請手続 — https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm
  • 国税庁 令和6年分確定申告の手引き添付資料(青色申告特別控除Q&A) — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2024/pdf/046.pdf
  • 国税庁 簡易簿記による10万円の青色申告特別控除を適用している皆様へ — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/0026004-012.pdf

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