不動産投資を始めようとすると、「本当に黒字で回るのか」という不安がつきまといます。自己資金の大半を投入しても、家賃が想定より下がればすぐに赤字です。そこで役立つのが、購入前に行う精密な収支計算です。本記事では、初心者でも迷わない算定手順と公的データの活用法を解説します。読めば「必要 収益物件 収支計算」の基本が身に付き、損失リスクを大きく減らせるでしょう。
収益物件で収支計算が欠かせない理由

重要なのは、表面利回りだけで判断しないことです。物件広告に並ぶ高利回りの数字は、あくまで満室を前提とした理論値にすぎません。実際には修繕費や空室損が発生し、キャッシュフローは大きく変動します。つまり事前に詳細な支出を洗い出し、手残り額を想定する作業が欠かせません。
次に、金融機関の融資審査そのものが収支計算を前提としている点も見逃せません。日本政策金融公庫の融資ガイドでは、返済比率が家賃収入の50%を超える場合は審査が厳しくなると示されています。自分で計算して安全圏を把握しておけば、金利交渉も有利に進みます。
さらに、2025年9月時点の空室率は総務省「住宅・土地統計調査」速報値で14%台と高止まりしています。都心でも築30年超のアパートは競争が激しいため、家賃下落シナリオを含む複数の収支表を用意することが長期安定経営のカギとなります。
家賃収入を正しく見積もる方法

まず押さえておきたいのは、家賃査定をポータルサイトの掲載額だけで決めないことです。国土交通省の「不動産取引価格情報検索」やレインズの成約データを併用すると、実際に成約した賃料帯が分かります。これらを並べて中央値を取れば、広告料やフリーレントを考慮した現実的な家賃が導けます。
一方で、築年数による賃料下落も加味しましょう。東京都心のワンルームの場合、三井住友トラスト基礎研究所の調べでは築後20年で新築時比16%の下落が平均的です。そこで、購入後10年・20年時点の家賃を別途算定し、長期収支計算に組み込みます。
最後に、共益費や駐車場料など副収入を過大評価しない姿勢が重要です。副収入は退去と同時に消えるリスクが高いため、収支表では70%程度の保守的な割合で計上しておくと、計画と実績の乖離が小さくなります。
運営費と空室率をどう設定するか
ポイントは、運営費を「固定費」と「変動費」に分けて考えることです。固定費には管理委託料、火災保険料、固定資産税が含まれ、年ごとのブレは小さいですが確実に発生します。一方、変動費に属する修繕費や広告料は時期により大きく変動するため、平均値と最大値を別に設定しておくと安心です。
国交省「賃貸住宅実態調査」では、木造アパートの平均修繕費は年間家賃収入の8〜10%と報告されています。しかし築25年を超えると突発的な屋根工事などで20%近く跳ね上がるケースも珍しくありません。そのため、築古物件を購入する場合は修繕費の上限を15%で見積もるのが安全圏です。
空室率はエリアによって大きく異なりますが、都道府県の住宅需要予測や人口動態を参考にします。総務省「住民基本台帳人口移動報告」で直近5年の人口増減率が−1%以下の市区町村では、空室率を15%以上で設定する姿勢が現実的です。空室が長期化した際の広告費も2カ月分程度を見込むと、手残り額に余裕が生まれます。
キャッシュフローと投資指標の読み方
実は、収支計算で最も重視したいのは年間キャッシュフローです。家賃収入から運営費・ローン返済・税金を差し引いた後に残る現金こそ、投資家の安全余力を示します。手取りが年間60万円あれば、エアコンや給湯器の交換にも慌てず対応できます。
次に見るべき指標が、自己資金に対する年間リターンを示す「CCR(キャッシュオンキャッシュリターン)」です。たとえば自己資金500万円投入で年間手残り50万円ならCCRは10%になります。年利3%のローンを借りても、手残りが自己資金の2倍を超えれば買い増し戦略が現実的になります。
加えて、債務償還年数にも注目しましょう。これはローン元本残高を年間キャッシュフローで割った値で、15年以内なら金融機関の評価が高い傾向があります。2025年の地方銀行融資方針では、債務償還年数が20年超の案件は金利上乗せ対象となるケースが増えているため、早期返済モデルを示すことが交渉の武器になります。
2025年度の税制と資金調達の最新ポイント
まず、2025年度の所得税法では不動産所得の損益通算ルールに大きな変更はなく、減価償却費の活用が引き続き有効です。木造アパートなら法定耐用年数22年を超えた場合、定額法で残存価額まで一括償却できるため、初年度の税負担を軽減できます。
一方で、住宅ローン減税は自己居住用が対象であり、収益物件には適用されません。混同を避けるため、投資家は「不動産所得の青色申告特別控除」を確実に受け取る準備が必要です。帳簿付けと電子申告要件を満たせば、最大65万円の控除が得られ、実効税率が数%下がります。
資金調達面では、2025年4月に始まった「カーボンニュートラル支援融資」が投資用物件にも一部開放されました。断熱性能を高めたリノベーション計画を示せば、固定金利が通常より0.3%低くなる例があります。ただし受付枠は年内1,000件と限定されているため、利用を考える場合は早めに銀行へ相談することが肝心です。
まとめ
ここまで、必要な家賃査定の手順、運営費・空室リスクの設定、キャッシュフロー指標、さらに2025年度の税制と資金調達の要点を解説しました。収益物件で安定収益を得るには、数字とエビデンスに基づく収支計算が不可欠です。まずは公的データを使って複数シナリオを作り、自己資金の安全域を確認してください。そのひと手間が将来の赤字転落を防ぎ、次の物件購入への道を開きます。今日から試算シートを作り、具体的な行動へ踏み出しましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産取引価格情報検索システム – https://www.land.mlit.go.jp/webland/
- 国土交通省 賃貸住宅実態調査2024 – https://www.mlit.go.jp/
- 総務省 住宅・土地統計調査速報2024 – https://www.stat.go.jp/
- 日本銀行 金融システムリポート2025年4月 – https://www.boj.or.jp/
- 三井住友トラスト基礎研究所 賃料指数2025 – https://www.smtri.jp/
- 日本政策金融公庫 創業融資ガイド2025 – https://www.jfc.go.jp/