不動産投資で安定した家賃収入を得て、会社員生活から早期に卒業したいと考える人は増えています。しかし、収益物件を買えば自動的にセミリタイアできるわけではありません。毎月のキャッシュフローを正確に把握し、長期の収支計算を続けて初めて経済的自立が見えてきます。本記事では、収益物件の収支計算を軸にセミリタイアへ至るまでのプロセスを、最新データを交えながら丁寧に解説します。読後には、自身の投資計画を数字で裏付けられる力が身につくでしょう。
収支計算の基本を押さえる

まず押さえておきたいのは、収支計算が単なる収入引く支出ではないという点です。家賃収入の表面利回りだけを見て判断すると、突発的な修繕や金利上昇で計画が崩れる恐れがあります。実際には、購入時の諸費用や保有中の税金まで含めた実質利回りを計算し、手元に残るキャッシュフローを月単位で確認することが大切です。
次に、収支計算の期間設定が重要になります。一般的にはローン完済までの20〜30年を想定しますが、セミリタイアを視野に入れる場合は10年ごとの区切りで複数のシナリオを作るとリスクが見えやすくなります。例えば、空室率10%と20%の二つを比較するだけでも、完済後の手残り額が数百万円変わるケースは珍しくありません。数字のシミュレーションを怠らない姿勢こそ、失敗を避ける第一歩です。
キャッシュフローを左右する4つの費用

重要なのは、支出を細分化して把握することです。収益物件で発生する費用は多岐にわたりますが、家賃収入と頻度・金額の大きさという二つの軸で整理すると管理しやすくなります。
具体的な内訳として、以下の四つを常に意識しましょう。
- ローン返済:元利均等の場合、元金と利息の割合が年々変わる
- 管理費・修繕積立金:区分マンションでは毎年1〜3%の値上げも多い
- 固定資産税・都市計画税:総務省統計では評価額の見直しが3年ごとに発生
- 大規模修繕・入退去費:国土交通省のガイドラインでは建物寿命60年を想定
例えば、築15年の区分マンションを都内で保有した場合、2025年度の平均固定資産税は年間12万円前後です。さらに、入居者の原状回復費が一回あたり20万円発生すると、1年間でキャッシュフローが一気に赤字へ転落する場合もあります。このように、費用の性質とタイミングを押さえることで、予備費をいくら積むべきか具体的に見えてきます。
セミリタイア設計に必要な利回りとは
ポイントは「将来の生活費をいつ、どこまで物件収益で賄うか」を逆算する発想です。金融庁の家計調査によると、二人世帯の平均生活費は月26万円前後です。セミリタイア後に月20万円を家賃収入で得たい場合、手取り利回り6%の物件を5000万円分保有すると目標をほぼ達成できます。
ただし利回り6%は表面ではなく、空室や諸経費を引いた「ネット利回り」である点に注意が必要です。日本銀行の2025年4月公表データでは、投資用アパートローン金利は固定で年2.1%程度が平均です。この金利を踏まえると、ローン残債期はキャッシュフローを大きく圧迫します。そこで、返済比率を家賃収入の50%以内に抑え、残りを生活費と次の投資資金に振り分ける設計が現実的です。つまり、セミリタイアの鍵は利回りだけでなく、返済期間と自己資金比率のバランスにあります。
収益物件の選定で見落としがちな視点
実は、収支計算が堅実でも物件選定を誤ると計画全体が崩れます。国土交通省の不動産価格指数(2025年7月速報)では、東京23区の中古マンション価格は前年同月比で3.8%上昇しました。一方、地方中核都市では横ばい傾向が続いています。価格推移だけを見ると東京が優位ですが、初期費用と利回りのバランスを考えると地方の築浅一棟物件の方がネット利回りは高いケースが多いです。
しかし、人口動態の将来予測を確認せずに地方物件へ飛びつくのは危険です。国立社会保障・人口問題研究所のデータでは、地方圏の人口減少率が年1%を超える市町村が多く存在します。空室リスクが上昇すると、修繕費や広告費がかさみ、ネット利回りが急落します。したがって、単に利回りが高いという理由で選ばず、賃貸需要の安定性を示す指標(平均入居期間、転入超過数など)を同時に確認する視野が求められます。
リスク管理と長期シミュレーション
まず押さえておきたいのは、どんなに精緻な収支計算でも想定外は起こるという事実です。天候災害や金利急騰など、外部要因でキャッシュフローは簡単に変動します。そのため、長期シミュレーションでは二つの保守的シナリオを常に用意します。一本目は金利が2%上昇した場合、二本目は空室率が25%に達した場合です。
日本政策金融公庫のデータによれば、過去20年で投資用ローン金利が年1%以上変動した期間は数回あります。さらに、総務省の住宅・土地統計調査では、築30年以上の木造アパートで空室率30%を超える事例も報告されています。これらの数字を基に厳しいシナリオを作成し、10年間でキャッシュが枯渇しないかを確認します。こうした準備を怠らなければ、セミリタイア後も資金繰りに追われる心配を大幅に減らせます。
まとめ
記事全体を通じてお伝えしたかったのは、収益物件でセミリタイアを目指すなら「収支計算こそ生命線」ということです。家賃収入、ローン返済、税金、修繕費を月単位で可視化し、複数のシナリオを定期的に更新する習慣が成功率を高めます。さらに、人口動態や金利動向など外部データを活用し、物件選定とリスク管理を組み合わせることで、計画はより堅牢になります。最後に、数字に基づく判断を継続する姿勢が、安定したキャッシュフローと理想のセミリタイア生活を現実のものにします。
参考文献・出典
- 総務省 住宅・土地統計調査 2023年 – https://www.stat.go.jp
- 日本銀行 貸出約定平均金利 2025年4月 – https://www.boj.or.jp
- 国土交通省 不動産価格指数 2025年7月速報 – https://www.mlit.go.jp
- 金融庁 家計調査報告 2024年度 – https://www.fsa.go.jp
- 日本政策金融公庫 中小企業の金融動向 2025年3月 – https://www.jfc.go.jp
- 国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口 2024年版 – https://www.ipss.go.jp