不動産の税金

老後資金を守る収益物件の収支計算術

高齢になってから生活費が足りなくなるのでは、と不安に感じる人は少なくありません。公的年金だけに頼らず、自分の資産で安定収入を生み出す方法として、収益物件への投資は注目を集めています。しかし、家賃が入るから安心と考えるのは危険で、実際には空室リスクや修繕費など多くの要素が複雑に絡みます。本記事では「老後資金 収益物件 収支計算」をキーワードに、初心者でも迷わず計算できる手順と2025年10月時点の最新制度を踏まえたポイントを解説します。読み終えるころには、自分に合った投資判断を下すための具体的な道筋が見えてくるはずです。

老後に備える収益物件選びの基本視点

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まず押さえておきたいのは、老後資金を守るには「毎月の手残り」に注目するという視点です。物件価格が割安でも、空室が続けば家賃収入はゼロになり、ローン返済だけが重くのしかかります。逆に家賃が安定していても、修繕費が過大なら手残りは減少します。つまり購入判断では、表面利回りではなく、家賃から諸経費と返済額を引いた実質利回りを基準にすることが重要です。

次に立地ですが、老後も見据えるなら「長期需要」が欠かせません。国土交通省の都市計画現況調査によれば、2024年時点でも主要駅から徒歩10分圏の人口は微増を維持しています。反対に郊外のバス便エリアは高齢化と空室率上昇が顕著です。また、高齢入居者の割合は年々高まっており、段差の少ない物件や近隣に医療施設があるエリアは長期入居につながりやすいといえます。

金融機関選びも老後資金を守るカギです。2025年10月現在、地方銀行のアパートローン平均金利は2.1%前後で、ネット系銀行は1.6%まで下がっています。金利差0.5%は、3000万円を25年で返済すると総額で約200万円の差になるため、複数行を比較検討する価値があります。また、退職後に新規融資を受けるのは難しいため、現役のうちに借り入れ条件を固めておくことが得策です。

収支計算のフレームワークを理解する

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ポイントは「年間キャッシュフロー」をシンプルに分解することです。家賃収入から空室損失を差し引き、固定費と変動費を抜き、最後に税金と返済を払った残りが自由に使えるキャッシュになります。初心者が混乱しやすいのは、修繕積立と減価償却を混同してしまう点です。減価償却は会計上の費用にすぎず現金流出は伴わない一方、修繕費は実際に資金が出て行きます。

日本不動産研究所のデータでは、木造アパートの平均修繕費は家賃収入の15〜20%です。この数字を参考に、空室率を10%、管理費を5%、固定資産税を4%で見積もると、経費合計は家賃収入の約40%になります。ここまで差し引いたところで、初めてローン返済額を当てはめ、毎月の手残りを確認します。少なくとも「手残りが家賃収入の10%を下回る案件」は、老後資金向けとしては避けたほうが無難です。

さらに、金利上昇ストレステストが欠かせません。日銀の金融システムレポート(2025年4月)では、政策金利が1%上がるシナリオで住宅ローン平均金利は0.7%程度上昇する試算が示されています。これを自分のローンに当てはめ、返済額が増えても手残りがマイナスにならないか確認しておきましょう。

家賃収入と経費の最新トレンドを押さえる

実は、家賃収入を保つための鍵は「継続的なリノベーション」です。国交省の賃貸住宅市場レポートによると、築25年を超える物件でも水回りと共用部を更新したケースは、更新しない場合に比べて平均家賃が12%高く維持されています。一方でリノベ費用は一度に多額となるため、毎月のキャッシュフローから計画的に積み立てる仕組みが欠かせません。

変動費の中で意外に見落とされるのが「広告費」です。首都圏では1か月分の家賃を広告費として払うケースが主流でしたが、2025年現在、空室が長期化するエリアでは1.5〜2か月分に増える傾向があります。経費が増えればキャッシュフローは当然縮小するため、募集委託契約の内容を事前に精査し、想定外の出費を防ぎましょう。

一方、税務面では2025年度も「小規模宅地等の評価減」など相続対策になる制度は存続しています。ただし、適用要件は細かく、事業的規模を見なされないとメリットが得られません。老後資金目的であっても、将来の相続を見据え、税理士と早めに相談しておくと安心です。

税金と融資で押さえる2025年度の制度

基本的に、賃料収入は不動産所得として総合課税になるため、所得税と住民税が課されます。重要なのは、給与所得がなくなる老後は税率が下がりやすく、同じ家賃でも手取りが増える可能性がある点です。例えば現役時に課税所得900万円だった人が、退職後に家賃収入200万円のみになると、税率は23%から10%へ下がり、手残りが大きく伸びます。

2025年度の改正点で押さえておきたいのは「住宅取得等資金贈与の非課税特例」の延長です。直系尊属から資金援助を受ける際、一定の省エネ基準を満たす賃貸併用住宅であれば、1000万円まで贈与税が非課税となります。期限は2027年12月までなので、親子で協力して老後のキャッシュフロー基盤をつくる場合は検討の余地があります。

融資面では、住宅金融支援機構の「フラット35アパートローン」が2025年度も継続中です。固定金利が最長35年で組めるため、老後の金利変動リスクを抑えやすいのが利点です。ただし、居住用部分が1戸以上必要など条件があるため、事前に金融機関と計画を詰めることが欠かせません。

シミュレーション事例で学ぶリスク管理

最後に、具体的な数字で手残りを計算してみましょう。仮に都内郊外の築20年木造アパート(総戸数6戸、購入価格4000万円、家賃6万円×6戸)を例にします。年間家賃収入は432万円ですが、空室率10%で43万円が失われ、残りは389万円です。ここから管理費22万円、修繕積立65万円、固定資産税16万円、広告費22万円を差し引くと、営業純利益(NOI)は264万円になります。

元利均等2.0%・期間25年・借入額3200万円でローン返済を試算すると、年間返済額は162万円です。結果として手残りは約102万円、月換算で8.5万円となり、年金と合わせれば老後の生活を補うには十分な水準といえます。

しかし金利が1%上がると返済額は年間181万円に増え、手残りは83万円まで落ち込みます。さらに広告費が2か月分に増えれば手残りは70万円を切ります。このように複数のリスクが同時に起これば、キャッシュフローは大幅に減少するため、購入前に悲観的シナリオを必ず作成し、許容範囲を確認しておくことが欠かせません。

まとめ

本記事では、老後資金を守りつつ収益物件で安定収入を得るための収支計算手順と、2025年10月時点で有効な制度を紹介しました。重要なのは、家賃収入から経費と返済を引いた「手残り」を基準に物件を選定し、金利上昇や空室悪化を織り込んだシミュレーションを行うことです。また、税率の変化や贈与特例など制度面を活用すれば、手取りをさらに高められます。行動に移す際は、数字を正確に把握し、専門家の意見を取り入れながら、自分のリスク許容度に合った計画を立ててください。長期目線で準備を進めれば、年金にプラスする確かなキャッシュフローが老後の安心につながります。

参考文献・出典

  • 国土交通省 都市計画現況調査2024 – https://www.mlit.go.jp
  • 日本不動産研究所 賃料査定アーカイブ2025 – https://www.reinet.or.jp
  • 日本銀行 金融システムレポート2025年4月 – https://www.boj.or.jp
  • 国税庁 タックスアンサー 不動産所得 – https://www.nta.go.jp
  • 住宅金融支援機構 フラット35商品概要2025 – https://www.flat35.com

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