収益物件の融資を受けようと相談に行ったら、想像以上に厳しい条件を提示されて戸惑った──そんな声を2025年の今も頻繁に耳にします。金利は低水準でも審査基準は年々細かくなり、自己資金や物件評価のハードルが上がっているのが現実です。本記事では、最新の審査動向を踏まえながら「収益物件 融資条件 対策」を具体的に解説します。初心者でも無理なく実践できるよう、金融機関の考え方と必要書類の整え方、さらには公的制度の活用法まで丁寧に紹介します。読み終えた頃には、自分に合った資金計画が描けるはずです。
なぜ融資条件が年々厳しくなるのか

重要なのは、融資条件が厳しくなる背景を正しく理解することです。これを知らないと、対策も的外れになりやすいからです。
まず、日本銀行が低金利政策を続ける一方で金融庁は不動産向け融資の健全化を強く求めています。2023年に改訂された監督指針では、投資用不動産ローンの返済原資を家賃収入だけでなく債務者本人の給与まで確認するよう明記されました。その結果、金融機関は属性審査を以前にも増して重視しています。
一方で、地方の人口減少や空室率の上昇が統計で浮き彫りになり、担保価値の劣化リスクが問題視されています。国土交通省の賃貸住宅市場データによると、地方中核都市でも空室率は平均18%に達しました。銀行は将来の収益予測をより保守的に見積もり、融資額を絞る傾向を強めています。
また、コロナ後の資材高騰で新築アパートの建築費が約20%上昇しました。価格高騰と賃料上昇が比例しない地域では、利回りが縮小しキャッシュフローが不足しやすくなります。この構造的な変化が、審査を厳格にさせるもう一つの要因です。
つまり、金利水準の低さだけに目を向けていると、審査の難化という別の壁にぶつかります。背景を把握したうえで、自分が対処すべきポイントを明確にすることが第一歩になります。
銀行が重視する三つの審査ポイント

ポイントは、銀行が「どこを見るか」を知り、その基準に沿って準備を進めることです。ここでは多くの金融機関が共通して重視する三項目を確認します。
最初にチェックされるのが返済能力、いわゆる属性です。具体的には年収、勤務先の規模、勤続年数、そして既存借入の有無が主要な指標になります。都市銀行の住宅ローン統計では、投資用融資の平均年収は850万円と報告されており、収益物件でも同水準が目安と考えられます。
次に重視されるのが担保評価です。Loan to Value(LTV)比率は、融資額を不動産評価額で割った指標で、70%以内なら減額なし、80%を超えると大幅に融資額が下がるケースが多いです。特に地方物件は机上評価が低くなりがちで、自己資金を厚めに求められる傾向にあります。
三つ目は返済余力を示すDSCR(Debt Service Coverage Ratio)です。家賃収入から運営費と税金を引き、元利返済額で割って算出します。一般的に1.2倍以上が合格ラインですが、2025年に入ってからは1.3倍を求める金融機関も増えています。
これらは互いに関連しており、属性が高ければLTVやDSCRで多少の緩和が期待できる場合もあります。逆に三つすべてが弱いと融資自体が困難になるため、どの指標を補強するかを早期に決めることが対策につながります。
収益物件の評価を高める実践的対策
実は、物件自体のポテンシャルを高めることで審査結果が大きく改善することがあります。具体策を順に見ていきましょう。
まず、外壁塗装や設備更新などの改修計画を事前に示す方法があります。国交省の『賃貸住宅管理業報告』では、築20年以上でもリフォーム済み物件の成約率は未改修より12ポイント高いとされています。将来的な空室リスクを数値で低減できるため、評価が上がりやすくなります。
次に賃料査定を世間相場より少し低めに設定し、その裏付けとして不動産会社の査定書を提出します。慎重な収支計画は銀行に安心感を与え、DSCRの改善につながります。一方で、リフォーム後に賃料アップ可能な余地を説明しておくと、回収可能性をアピールできます。
さらに、テナント分散が効く間取りや用途地域を選ぶことも有効です。単身者向けワンルームだけでなく、ファミリー型と混在させると入居者属性が分散し、空室リスクが抑えられます。この点は銀行のストレステストにも好結果として反映されます。
最後に、これらの施策をA4二枚程度の簡潔な事業計画書としてまとめます。図表よりも文章で合理的な根拠を説明すると、担当者が上席に話を通しやすくなります。資料の質は審査可否に直結するため、丁寧に作り込みましょう。
自己資金と返済計画の作り方
基本的に、自己資金比率と返済計画の設計が融資条件を左右します。ここでは現実的な数字を用いて考え方を示します。
東京都心で価格6000万円、表面利回り6%の区分マンションを例に取ります。諸費用込み総額は約6500万円になります。自己資金を20%の1300万円用意すると、借入金は5200万円となり、LTVは80%を切ります。これだけで金利優遇幅が0.3%下がる銀行もあります。
ただし、自己資金をすべて頭金に充てるのは危険です。入居付けの広告費や突発的な修繕費として、物件価格の5%程度を別枠で残すのが安全策になります。日本政策金融公庫の融資相談でも、運転資金の確保が重要視されています。
返済計画では、長期固定金利と元利均等返済を基本としつつ、ボーナス返済は避けることが無難です。金利1.5%、期間25年の融資では、毎月返済額は約21万円となり、満室時の手取りキャッシュフローは6万円前後になります。空室率20%のストレスシナリオでも黒字が保てるか確認しましょう。
また、既存の住宅ローンが残っている場合は繰上返済で債務比率を下げる方法もあります。借換えにより返済負担率が変われば、収益物件融資の金利が下がる例も少なくありません。こうした「前さばき」も立派な対策の一つです。
2025年度に活用できる公的支援と税制
2025年度に利用できる公的支援や税制優遇を知っておくと、自己資金の圧縮やキャッシュフロー改善に役立ちます。ただし、制度には期限や条件があるため注意が必要です。
まず、所得税対策として減価償却を有効に活用します。木造アパートの法定耐用年数は22年ですが、中古で築15年なら残存期間は7年となり、短期間で大きな経費計上が可能です。2025年度税制ではこの方式に変更はなく、黒字部分を圧縮する基本的手段となります。
更に、一定の省エネ性能を満たす賃貸住宅を取得した場合、登録免許税の税率が通常の2.0%から1.6%に軽減される特例が2026年3月まで延長されています。適用を受けるには「認定低炭素住宅」などの証明書類を登記前に整える必要があります。
加えて、国土交通省が2025年度に実施する「既存住宅省エネ改修補助」は、賃貸物件の断熱改修にも最大200万円の補助が可能です。補助金は工事完了後に交付されるため、つなぎ資金を計画に入れることがポイントになります。
最後に、住宅金融支援機構の長期固定金利商品「フラット35(投資用)」は依然として利用可能です。金利は2025年10月時点で年2.05%前後と民間より高めですが、LTVが70%以下なら金利引き下げ特約が適用されます。安定志向の投資家には選択肢となりえます。
まとめ
結論として、収益物件の融資条件を突破するカギは、①銀行の審査ロジックを理解し、②物件と自己属性の双方を強化し、③制度や税制を組み合わせてキャッシュフローを底上げすることに尽きます。ご紹介した対策を一つずつ実践すると、融資の可否だけでなく、長期運営の安定度も大きく向上します。まずは手元の物件候補を使ってDSCRとLTVを試算し、必要な自己資金と改善策を洗い出すことから始めてみてください。行動を重ねるほど、金融機関との交渉は確実に有利になります。
参考文献・出典
- 金融庁 – https://www.fsa.go.jp
- 国土交通省 賃貸住宅市場データ – https://www.mlit.go.jp
- 日本銀行 経済統計データ – https://www.boj.or.jp
- 住宅金融支援機構 – https://www.jhf.go.jp
- 日本政策金融公庫 – https://www.jfc.go.jp