不動産の税金

築浅物件で進める相続対策の極意

不動産を活用した相続対策は興味があっても、専門用語や制度が多く、最初の一歩でつまずく方が少なくありません。とくに「築浅」の物件を使った方法は、節税効果と安定運用を同時に狙える一方で、購入価格が高めになる点が気掛かりです。本記事では、築十年以内の物件を中心に、相続税評価の考え方、2025年度の税制優遇、そして出口戦略までを丁寧に解説します。読み終えたときには、築浅物件を使うメリットと注意点が整理でき、ご自身に合った相続対策の方向性が見えてくるはずです。

築浅物件が相続対策に向く理由

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ポイントは、資産価値の目減りが小さい一方で、相続税評価額を時価より抑えられる点にあります。土地と建物を合わせても、現金で保有するより納税額が低くなる可能性が高いのです。

まず建物は、固定資産税評価額を基準に相続税が計算されます。築浅でも評価額は建築費の五〜七割程度に圧縮されるため、現金で持つより税負担が軽くなります。また、築浅物件は修繕費が当面少なく、入居者募集の広告コストも抑えやすいので、相続発生前から安定した家賃収入を確保できます。

さらに、国税庁の令和6年(2024年)相続税申告データによると、相続財産のうち現金・預金が37.7%を占め、次いで土地が34.4%です。現金比率が高いほど課税対象が膨らむ傾向があるため、築浅物件への組み替えは有効な分散策になります。つまり、相続税評価額を抑えながら収益性も確保できる点が、築浅物件の最大の魅力といえます。

築浅物件を選ぶ際のチェックポイント

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重要なのは、単に築年数が浅いだけでなく、賃貸需要を長期的に見込めるエリアを選ぶことです。具体的には、人口が緩やかに増加している政令市や、大学・病院が集積する駅徒歩圏が狙い目です。

立地を絞り込んだら、周辺の平均空室率を必ず調べましょう。東京都の住宅市場動向調査(2025年版)によると、23区内の築五年以内マンションの空室率は3.1%と、築二十年以上の9.4%を大きく下回ります。築浅物件でも郊外やバス便エリアでは空室リスクが高まるため、データ確認は怠れません。

価格交渉では、売主が個人か法人かで進め方が変わります。法人売主の物件は瑕疵担保保険が付帯しやすく、長期修繕計画が明示されるため安心材料となります。ただし個人間売買のほうが値下げ余地が大きいケースもあるので、仲介会社に過去の成約事例を引き出してもらい、相場感を固めておくと良いでしょう。

キャッシュフローと節税効果のバランス

まず押さえておきたいのは、年間手取りと相続税評価の二兎を追うには、物件の利回りと借入条件を総合的に判断する必要がある点です。利回りだけを優先すると築古物件に傾きがちですが、修繕コストが膨らめば手残りは減ります。

一方で、築浅物件の利回りは表面で4〜5%が目安となり、築古の7%以上には及びません。ただし、修繕積立金や修繕一時金を考慮した実質利回りでは差が縮まることが多く、日本不動産研究所の試算では築浅と築古の差は平均1.2ポイントにとどまります。つまり、収益性をある程度確保しながら、建物評価額を圧縮できるバランスが築浅の強みです。

融資面では、築年数と返済期間が連動します。銀行は法定耐用年数までしか融資期間を伸ばしにくいため、築浅のほうが返済期間が長く取れ、月々のキャッシュフローが安定します。例えばRC造マンションを築三年で購入し、残存耐用年数四十七年中の三十年で融資を組めば、金利1.5%・フルローンでも元利均等返済後の手残り率は家賃収入の25%前後を確保しやすくなります。

2025年度の税制優遇を活用する方法

実は、2025年度も相続対策に使える代表的な制度は大きく三つあります。小規模宅地等の特例、住宅取得資金贈与の非課税枠、そして相続時精算課税制度です。それぞれの適用要件を把握し、築浅物件への投資計画に組み込みましょう。

小規模宅地等の特例は、被相続人の自宅や賃貸用不動産の土地評価を最大80%減額できる制度です。賃貸経営用なら上限200㎡まで適用されるため、都市部の築浅マンション一棟を取得しても、大半が特例枠に収まるケースが多いです。ただし、相続発生後も賃貸経営を継続することが条件なので、入居率を保てる運用計画が欠かせません。

次に、住宅取得資金贈与の非課税枠は、父母や祖父母からの贈与で最大1000万円(省エネ住宅は1500万円)まで非課税となります。2025年12月31日までの契約締結が要件で、資金を受け取った子世代が自宅として使用する必要がありますが、築浅区分マンションを購入して将来賃貸へ転用する戦略も可能です。

最後に、相続時精算課税制度は2500万円まで贈与税がゼロとなり、相続時に合算して精算する仕組みです。2024年の税制改正で年間110万円の基礎控除が併用可能になったため、複数年にわたり築浅物件の頭金を贈与し、残りをローンで賄う組み立ても選択肢に入ります。

相続後を見すえた運用・出口戦略

基本的に、築浅物件は時間の経過とともに減価償却が進み、評価額も下がるため、相続発生後は税務上の負担がいっそう軽くなります。それでも、保有し続けるか売却するかは、家族構成と資産ポートフォリオ次第です。

保有を選ぶなら、築二十年目前後で大規模修繕が必要になる点を忘れてはいけません。修繕積立金の積み立てが不足している場合、追加の一時金が発生し、キャッシュフローを圧迫します。購入時に長期修繕計画書を精査し、毎年の積立額を試算しておくと、将来の資金繰りが読みやすくなります。

一方、売却を検討する場合は、新築から十五年以内が有利です。不動産ポータルの成約事例では、築十五年を境に坪単価の下落スピードが加速する傾向があります。相続人が複数いて分割が難しいときは、早期に売却し現金で分けるほうがトラブルを避けやすいでしょう。その際、2025年現在も続く長期譲渡所得の税率20.315%を念頭に、取得費加算の特例や譲渡損失の繰越控除など、出口時の税制にも目配りが必要です。

まとめ

築浅物件を使った相続対策は、節税効果と資産運用の両面で魅力があります。建物評価額の圧縮、長期融資による安定キャッシュフロー、そして2025年度の各種税制優遇が重なり合うことで、現金より効率的な資産移転が可能です。ただし、立地の将来性や修繕計画の精査を怠ると、空室リスクや追加負担に悩まされます。まずは自分と家族の資産状況を整理し、専門家とシミュレーションを行いながら、最適な築浅物件と活用制度を選び取ってください。

参考文献・出典

  • 国税庁「令和6年分 相続税の申告状況」 – https://www.nta.go.jp
  • 国土交通省「地価公示2025年」 – https://www.mlit.go.jp
  • 東京都都市整備局「住宅市場動向調査2025」 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp
  • 日本不動産研究所「不動産投資家調査2025」 – https://www.reinet.or.jp
  • 財務省「2025年度税制改正のポイント」 – https://www.mof.go.jp
  • 国土交通省住宅局「長期修繕計画ガイドライン(改訂版)」 – https://www.mlit.go.jp

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