事故物件に興味はあるものの「本当に借り手が付くのか」「家賃をどれほど下げればいいのか」と迷う方は少なくありません。実は、適切な家賃設定と情報開示を徹底すれば、事故物件でも安定したキャッシュフローを生み出せます。本記事では事故物件を活用したアパート経営の考え方、家賃設定の手順、さらに2025年10月時点の法制度まで丁寧に解説します。読み終える頃には、市場調査の方法から入居者の信頼を得るコツまで具体的にイメージできるはずです。
家賃設定の前に押さえる事故物件のリスクと魅力

重要なのは、リスクとリターンを同時に把握したうえで家賃を決めることです。事故物件は心理的瑕疵(かし)と呼ばれるマイナス要因を抱える一方、購入価格が相場より2〜3割下がるケースが珍しくありません。
まず、リスク面を整理しましょう。入居者が感じる不安は「過去の事件そのもの」より「周囲の目線や噂」に起因します。そのため、告知義務を正しく遂行し、情報が後から出てくる事態を防ぐことが最優先となります。また、国土交通省のガイドラインでは発生から概ね3年を経過した場合、告知義務の範囲が緩和されるものの、事件性の強さ次第では長期的に影響が残る点は見落とせません。
一方で、魅力はキャッシュフロー改善にあります。購入価格が低い分だけ融資額が抑えられ、毎月の返済負担も軽くなります。2025年8月の全国アパート空室率は21.2%ですが、都心駅近であれば13%台にとどまるデータもあり、立地が良ければ事故物件でも稼働率を高めやすいのが実情です。つまり、リスクを数値化し、収益改善策を併用すればチャンスは十分に残されています。
市場調査で導く適正家賃の考え方

まず押さえておきたいのは、家賃を「事故物件だから一律で○割引く」という発想を捨てることです。周辺相場、立地、築年数、設備、そして事故内容の程度を総合的に勘案する姿勢が欠かせません。
最初のステップは周辺5〜10件の類似物件を調べ、平均家賃と空室期間を把握することです。SUUMOやホームズなどのポータルサイトだけでなく、現地の仲介会社にヒアリングして、「決まる家賃」と「決まらない家賃」を具体的に聞き取ります。成約事例に触れることで、表面だけの掲載家賃に惑わされずに済みます。
次に、事故物件という要因が家賃に及ぼす値引き幅を定量化します。筆者の経験では、築15年以内で立地が駅徒歩10分圏内の場合、心理的瑕疵割引は相場の10〜15%に収まることが多いです。逆に郊外で築古なら20%を超えてもなお決まりづらいので、長期空室コストとのバランスを慎重に見極めましょう。
最後に、「家賃の下限」を計算します。ローン返済額、管理費、固定資産税、修繕積立の見込みを月額に換算し、その合計を超える設定が絶対条件です。ここで重要なのは単月の黒字だけでなく、年間CF(キャッシュフロー)を想定し、空室率10〜15%を織り込んでおくことです。シビアなシミュレーションこそ、事故物件を武器に変える第一歩となります。
事故物件の付加価値を高めるリフォーム戦略
ポイントは、「負のイメージを薄める」のではなく「別の魅力で上書きする」発想です。原状回復にとどめず、設備やデザインを一段格上げすることで、相場よりやや高い家賃すら実現できるケースもあります。
具体的には、第一印象を左右するエントランスと水回りに予算を集中させましょう。システムキッチンの交換や浴室乾燥機の追加は、単身者だけでなく共働きカップルにも響く訴求ポイントです。加えて、壁全面のアクセントクロスやスマートロック導入など、SNS映えする要素を盛り込むと内見数が増えます。
さらに、事故物件ならではの情報開示と合わせてリフォーム内容を公開することで、透明性が高まり入居者の安心感も向上します。「ここまで手を入れたなら大丈夫だろう」と感じてもらえれば、競合物件より長期入居につながる確率が上がります。
費用対効果を測る際は、追加投資額を家賃アップ分で割って回収期間を試算してください。例えば80万円の設備更新で月1万円の家賃増なら、6年8カ月で投資を回収できます。木造アパートの耐用年数と修繕周期を考慮すれば、十分に採算が合う計算になります。
2025年度の告知義務と関連法規を整理する
実は、2021年に国交省が公表したガイドラインにより、事故物件の告知義務は内容と時期に応じた判断が示されました。2025年度時点でも大枠は変わっておらず、殺人・自殺などの事件性が強いケースは原則として次の入居者へ告知が必要です。
まず、告知の範囲には「物件そのもの」だけでなく共用部や敷地内も含まれます。万一、情報を隠してトラブルになれば、損害賠償の可能性が高まるため、家賃収入どころではありません。また、賃貸住宅管理業法(2021年改正、2025年度も有効)により、管理業務の外部委託でもオーナー責任が問われる点は忘れないでください。
一方で、事故から概ね3年を経過した場合や自然死・孤独死などのケースでは、告知義務が不要と判断されることもあります。とはいえ、地域住民の記憶や過去の報道がネット上に残る時代です。実務的には、告知不要であっても「任意告知」を選択し、トラブルを未然に防いだほうが長期経営にはプラスに働きます。
補助金については、2025年度の国土交通省「既存住宅省エネ改修補助金」が利用可能です。事故物件のリフォームでも、高性能断熱材や高効率給湯器を導入する場合は上限60万円の補助を受けられます(申請期限は2026年2月末)。家賃設定を維持しつつ光熱費を下げられるため、入居者への訴求力も高まるでしょう。
賃貸管理で信頼を得るコミュニケーション術
まず押さえておきたいのは、入居希望者との接点で「安心」を言葉と行動で示すことです。募集図面や内見時に事故物件である事実を明確に伝え、質疑には即答する姿勢が信頼の基盤となります。
シンプルな質問に対して曖昧な答え方をすると、不安は一気に増幅します。ですから、告知内容は口頭だけでなく書面にも残し、署名をもらうプロセスを徹底しましょう。これはトラブル抑止と同時に、オーナーを守る証拠づくりにもなります。
また、入居後1カ月以内にフォローコールを入れると、設備不具合や近隣問題を早期に把握できます。小さな不満を解消する行動が長期入居に直結するため、管理会社任せにせず、オーナー自身も状況を確認してください。
家賃滞納対策としては、保証会社との契約を標準化することが有効です。保証料は入居者負担が一般的ですが、事故物件に対する不安を和らげるため、初年度だけオーナーが負担するなどの施策も検討できます。わずかなコストで未収金リスクが減り、結果として安定経営に寄与します。
まとめ
ここまで、事故物件を活用したアパート経営で家賃設定を成功させる流れを見てきました。リスクを正確に把握し、周辺相場と差別化ポイントを数値で示すことで、家賃を過度に下げずに済みます。さらに、付加価値リフォームや透明な情報開示を組み合わせれば、入居者との信頼関係が深まり、長期的なキャッシュフローが安定します。今日紹介した調査手順とコミュニケーション術を実践し、事故物件を「敬遠される資産」から「選ばれる資産」へ変えてみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計調査 2025年8月概要版 – https://www.mlit.go.jp
- 国土交通省「宅建業者による人の死の告知に関するガイドライン」2021年版 – https://www.mlit.go.jp/report
- 国土交通省「既存住宅省エネ改修補助金」2025年度概要 – https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku
- 賃貸住宅管理業法(令和2年法律第60号) – https://elaws.e-gov.go.jp
- 東京都都市整備局「賃貸住宅市場動向レポート」2025年4月 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp