不動産投資ローンでどこまで借りられるのか、特に事務所物件を検討していると、金融機関の評価基準やリスクの捉え方が住宅とは違うことに戸惑う方が多いでしょう。自己資金だけでは足りず、借入限度額が伸びなければ好条件の物件を逃すかもしれません。本記事では、借入限度額を左右する要因、事務所物件特有の評価ポイント、2025年度の最新金利動向までを整理し、初心者でも納得できるよう丁寧に解説します。読み終えたとき、あなたは金融機関との交渉材料を手に入れ、次の一手を自信を持って決められるはずです。
不動産投資ローンの基礎と借入限度額を決める3つの軸

まず押さえておきたいのは、借入限度額は「担保評価」「返済能力」「資金使途」の三つの軸で決まるという事実です。金融機関はこの三点がそろわない限り、融資上限を引き上げません。
担保評価とは、物件の売却可能価格を基に算出される担保価値です。レインズの成約事例や公示地価を参照し、一般に70〜80%程度の掛目をかけて融資額を決めます。収益還元法だけでなく、実勢価格の下落リスクを織り込むため、想定より厳しい数字が提示されることも珍しくありません。
次に返済能力です。個人の場合、年収に占める年間返済額の割合(返済負担率)が30〜35%を超えると与信が伸びにくくなります。法人では税引後利益と減価償却費を合計したキャッシュフローが重視され、3〜5年分の決算書が求められます。借入限度額を広げるためには、家賃収入だけでなく本業の安定性も示すことが大切です。
最後に資金使途です。居住用マンションと比べ、事務所物件は空室リスクや賃料変動の幅が大きいため、金融機関は保守的にみます。収益シミュレーションを提出する際は、平均空室率20%、賃料下落率10%といった厳しめのシナリオでも黒字化する計画を添付すると信頼を得やすくなります。
事務所物件に特有の評価ポイント

重要なのは、事務所物件では「テナントの質」と「立地の商業ポテンシャル」が住宅以上に重視される点です。レントロール(賃貸借条件一覧)を提出する際、入居企業の業種や創業年数を併記すると、金融機関が安定性を判断しやすくなります。
具体例として、東京23区でも駅徒歩3分以内の築20年オフィスと、郊外駅徒歩10分の築10年オフィスを比較すると、表面利回りは後者が高く見えます。しかし、国土交通省の「都市再生特別地区統計」によると、都心5区の空室率は2025年上期で3.5%に対し、郊外は6.8%まで上昇しており、長期的な安定度では都心に軍配が上がります。金融機関はこのデータを前提に担保評価を下げるため、郊外物件の借入限度額は想定より低くなることがあります。
また、事務所物件は共用部の維持コストが高い傾向があります。エレベーター、空調、セキュリティといった設備更新費を毎年積立てる計画書を用意すれば、運営リスクを減らす姿勢が評価されます。いわば、融資審査は物件だけでなく、オーナーがどれだけリスク管理を徹底できるかを測る場でもあるのです。
さらに、法律面でも住宅と違い「用途地域」「防火基準」「耐震性能」が収益性に直結します。2025年4月施行の改正建築基準法では、大規模改修時に省エネ基準適合が義務化されました。改修計画を示さずに融資申請すると、長期的には担保価値が毀損すると見なされ、借入限度額が抑えられる恐れがあります。
借入限度額を引き上げるための実践的対策
ポイントは、金融機関が重視するデータを先回りして用意し、リスクを数値で管理している姿勢を示すことです。それだけで、同じ物件でも融資額が10〜15%変わるケースがあります。
まず、家賃保証契約や長期テナントとの更新合意書を添付し、キャッシュフローの安定性を証明しましょう。次に、事務所物件にありがちな大規模修繕費を見越して、3年分の資金繰り表を提示します。金融機関は将来の追加融資を避けたがるため、修繕積立の裏付けがあると借入限度額を高めやすくなります。
自己資金比率も重要です。住宅では1〜2割の自己資金でも通りますが、事務所では2〜3割が標準的なラインになります。例えば1億円の物件なら、自己資金2500万円以上を示すと審査がスムーズです。もし資金が不足する場合は、低金利の政策金融公庫「中小企業経営力強化資金」を併用し、総自己資金を底上げする方法も有効です(2025年度制度、融資上限7200万円)。
さらに、法人スキームを活用すると借入余力が拡大します。法人名義であれば、役員報酬を抑えて内部留保を厚くし、自己資本比率を高めやすいからです。ただし赤字決算を続けると格付けが下がるため、減価償却を活用して表面上の利益をコントロールしつつ、キャッシュを残すバランスが求められます。
2025年度の融資環境と金利動向
実は、金利動向は借入限度額と表裏一体です。全国銀行協会の統計では、2025年10月時点の投資用ローン金利は変動1.5〜2.0%、固定10年2.5〜3.0%が主流となっています。金利が低いほど返済能力判定が甘くなるため、借入限度額が伸びやすいのです。
一方で、日本銀行は2025年7月に長期金利の誘導目標を0.1%引き上げました。市場金利が上昇局面に入ると、金融機関は今後の金利リスクを見越して審査を保守的にします。つまり、今はまだ低金利のメリットを享受できるものの、半年後には限度額が縮小する可能性があるため、投資タイミングが重要になります。
また、2025年度の「中小企業成長投資促進保証」は、不動産賃貸業を営む法人も対象ですが、保証枠は最大2億円までで、無担保ではありません。この保証を付けると金利が0.2〜0.3%上乗せされるものの、借入限度額そのものは拡大します。保証料と返済額のトレードオフを把握し、総コストで判断する姿勢が求められます。
さらに、都市銀行より地方銀行や信用金庫のほうが、地元需要の把握を理由に事務所物件へ積極融資する傾向があります。特に地方中核都市では、賃料が安定しているエリア限定で最大評価額90%まで貸し出すケースも報告されています。複数行を比較し、金利と評価掛目のバランスを見極めると、借入限度額を最適化できます。
リスク管理と出口戦略の考え方
基本的に、借入限度額を最大化することとリスクを抑えることは相反します。しかし、長期保有を前提としつつも、売却出口を具体的に描くことで両立が可能になります。
まず、5年ごとに売却価格を想定したDCF(割引キャッシュフロー)を作成し、ローン残債との関係を可視化します。ローン残高より売却予想価格が常に上回る計画であれば、金融機関は「安全域」があると判断し、借入限度額を押し上げることがあります。
また、リファイナンス(借換え)戦略を初回融資時に盛り込むと、金利上昇時の負担増をヘッジできます。例えば変動金利でスタートし、残高が減ったタイミングで固定金利へ切り替える案を示すと、金利リスク管理が評価されます。その結果、初回から高めの融資比率で承認されやすくなるのです。
最後に、保険活用も出口戦略の一部です。団体信用生命保険だけでなく、収入補償保険を併用して、オーナー不在時の返済リスクをカバーすると、金融機関は長期安定性を認識します。借入限度額を高める交渉材料として、保険加入は意外に強力なカードになります。
まとめ
本記事では、不動産投資ローンの借入限度額がどのように決まり、事務所物件では住宅以上に厳しい評価が行われる理由を解説しました。担保評価、返済能力、資金使途の三つを整え、テナントの質や修繕計画を数値で示すことで限度額は確実に伸ばせます。さらに、2025年度の低金利環境を活かしつつ、金利上昇リスクを織り込んだ出口戦略を描くことが成功の鍵です。今後の物件選定や金融機関との交渉では、ここで紹介したデータと対策を具体的に適用し、持続的なキャッシュフローを確保していきましょう。
参考文献・出典
- 全国銀行協会 – https://www.zenginkyo.or.jp
- 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp
- 日本銀行 金融政策決定会合資料 – https://www.boj.or.jp
- 中小企業庁 令和7年度中小企業施策 – https://www.chusho.meti.go.jp
- レインズ マーケットインフォメーション – https://www.reins.or.jp