不動産融資

金利上昇期でも資産価値を守るビル・マンション投資戦略

ビルやマンションへの投資を考えているものの、「金利上昇期に買っても大丈夫なのか」と不安を抱く人は少なくありません。実際、借入金利が上がれば毎月の返済額が増え、キャッシュフローが圧迫される恐れがあります。しかし、物件の選定や管理の工夫次第で、金利上昇局面でも資産価値を確保しながら安定収益を得ることは十分に可能です。本記事では、金利動向が不動産市場に及ぼす影響を整理し、ビル投資とマンション投資で取るべき戦略、さらには2025年度時点で利用できる制度まで丁寧に解説します。読み終えるころには、金利上昇期でも自信を持って投資判断できる視点が身につくでしょう。

金利上昇が不動産市場に与える三つの波

金利上昇が不動産市場に与える三つの波のイメージ

まず押さえておきたいのは、金利が上昇すると不動産市場全体の資金コストが上がり、利回りの期待値も変化する点です。日本銀行の2025年9月金融政策決定会合では長期金利の誘導目標を1.0%前後に引き上げる方針が示され、実際に10年国債利回りは1.08%前後で推移しています。この動きは、不動産融資の店頭金利にも緩やかに波及し、平均0.4ポイントほど上昇しました。つまり、同じ家賃収入でも手取りは減るリスクがあるわけです。

一方で、金利上昇が即座に価格下落につながるわけではありません。不動産経済研究所によると、2025年10月時点の東京23区新築マンション平均価格は7,580万円で前年比+3.2%を維持しています。理由は、都市部の需要が依然として強く、建築費や人件費の高騰が価格を下支えしているためです。また、インフレ局面では「実物資産」である不動産が資産価値の保存手段になると考える投資家が増え、買い支えが入ることも価格下落を抑制します。

重要なのは、金利上昇が物件ごとの収益力を一律に下げるわけではなく、立地や管理レベルによって影響度合いが大きく変わる点です。だからこそ、投資家は金利とキャッシュフローの関係を理解したうえで、個別物件の競争力を見極める必要があります。

キャッシュフローを守るビル投資の着眼点

キャッシュフローを守るビル投資の着眼点のイメージ

ポイントは、ビル投資ではテナントの入れ替えコストと運営効率が収益を左右するという事実です。オフィス需要はリモートワークの定着で弱含みというイメージがありますが、日本政策投資銀行の2025年上期調査では、大規模ビルの空室率は前年同期比0.8ポイント改善し、10%を割り込みました。大型優良ビルへ需要が集中する「選択と集中」が進んでいるためです。

まず、築15年以内で基準階200坪以上のビルは設備の更新負担が低く、ESG(環境・社会・ガバナンス)対応を求める企業に人気があります。こうした物件は平均賃料も上昇傾向にあり、金利上昇分を賃料改定で吸収しやすいのが特徴です。実際、東京都心5区のプレミアムクラス賃料は前年比+4.1%で推移しており、堅調さが際立ちます。

次に、運営コストを抑える工夫が欠かせません。共用部のLED化や空調のBEMS(ビルエネルギー管理システム)導入は、エネルギー費を2割程度削減できる例もあります。管理費を圧縮できれば、金利上昇による返済負担を相殺できるため、長期保有戦略でもキャッシュフローが安定します。

最後に、テナントリテンション(既存入居者の維持)が鍵を握ります。賃料を下げずに空室リスクを減らすには、フレキシブルな契約形態や共用ラウンジの設置など、テナント満足度を高める施策が有効です。結果として、稼働率が高いビルは金融機関の評価も上がり、リファイナンス時に有利な条件を引き出しやすくなります。

マンション投資で資産価値を維持する三つの要素

実は、マンション投資では「収益性」と「資産価値」のバランスを取ることが重要です。家賃利回りだけで物件を選ぶと、将来の売却時に値下がりリスクが高まるケースがあります。ここでは立地、管理組合の健全性、建物の長期修繕計画という三つの視点から考えましょう。

まず立地です。総務省の「住民基本台帳人口移動報告」によれば、2025年の東京都世田谷区、目黒区など人気エリアは転入超過が続いており、単身世帯の割合も増えています。駅徒歩5分圏や再開発エリアのワンルームは家賃が下がりにくく、金利上昇で返済額が増えてもキャッシュフローを維持しやすいのが強みです。

次に管理組合の財務健全性です。国土交通省のマンション総合調査では、修繕積立金が不足するマンションは築30年超で4割に達します。積立不足が続くと、買い手がリスクを感じて売却価格が下がり、結果として資産価値が目減りします。購入前に総会議事録や長期修繕計画を確認し、適正な積立金が確保されているかを点検しましょう。

最後に建物スペックです。新耐震基準(1981年以降)を満たすことは最低条件ですが、2025年度の省エネ基準に適合する断熱性能や給湯効率も評価ポイントになっています。特にZEH-M(ゼッチ・マンション)対応物件は、エネルギーコストが低いだけでなく居住者の満足度が高く、将来の賃料下落リスクを抑制できます。

立地と管理が利回りを左右する理由

基本的に、不動産投資で長期的な利回りを確保するには、物件そのものの品質よりも「場所」と「管理」が占める影響が大きいとされています。都市再生機構のデータでは、同一築年・同一面積でも駅距離が徒歩10分伸びると家賃水準は平均8〜12%下落します。つまり、金利が上がっても利回りを守るには賃料を維持できる立地が必須です。

しかし、立地が良くても管理状態が悪ければ評価は下がります。日本マンション管理センターによると、築20年以上でも管理評価が高い物件は空室率が平均3%台にとどまり、評価が低い物件の半分以下です。清掃、修繕、セキュリティ対応が行き届くことで、住民やテナントが長期入居し、安定収益につながります。

また、管理状態が優れると金融機関の担保評価も高まります。評価額が上がれば、金利上昇期でも借り換えや追加融資が受けやすくなり、投資家の資金繰りに余裕が生まれます。言い換えると、管理の質は見えにくいものの、利回りだけでなく資金調達にも影響を及ぼす要素なのです。

2025年度の融資環境と活用できる制度

ポイントは、金利上昇期でも条件の良い融資を得る余地がある点です。2025年度は、環境性能の高い建物に対して低利融資を行う「グリーンリース支援融資(2027年3月申請分まで)」が全国銀行協会加盟行で継続中です。適用金利は店頭金利から最大0.3%の優遇があり、ZEH-MやBELS(建築物エネルギー性能表示制度)五つ星の物件が対象となります。

さらに、賃貸住宅向けの「住宅金融支援機構フラット35リノベ」は2025年度も存続し、一定の省エネ改修を前提に借入金利が0.5%優遇されます。区分マンションを一棟買いする際でも、個人がリノベーション後に賃貸へ転用するケースで適用可能です。期限は2026年3月契約分までなので、利用を検討している人は早めに相談すると良いでしょう。

一方で、金融機関の審査は総じて厳格化しています。とくに返済比率(年間返済額÷年間家賃収入)は50%を上限とする銀行が増えており、これを超えると融資条件が悪化しがちです。そのため、融資を申し込む際には保守的な収支計画を提示し、空室率20%や金利上昇2%といった厳しめのシミュレーションを用意することが信頼獲得につながります。

まとめ

本記事では、金利上昇期におけるビル・マンション投資のリスクと対策を解説しました。要するに、借入コストが上がる局面でも、立地選定と管理の質を高めれば家賃収入を維持でき、資産価値を守ることができます。ビル投資ではテナントリテンションと省エネ改修、マンション投資では健全な管理組合と長期修繕計画の確認が欠かせません。また、2025年度に利用できる金利優遇制度を活用すれば、キャッシュフローの健全性をさらに高められます。まずは候補物件の立地データと管理状況を徹底的に調べ、金融機関へ提出するシミュレーションを精緻に作り込むことから始めてみてください。

参考文献・出典

  • 日本銀行 – https://www.boj.or.jp
  • 不動産経済研究所 – https://www.fudousankeizai.co.jp
  • 国土交通省「マンション総合調査」 – https://www.mlit.go.jp
  • 総務省「住民基本台帳人口移動報告」 – https://www.stat.go.jp
  • 日本政策投資銀行「不動産マーケットレポート」 – https://www.dbj.jp

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