オフィス需要が回復しつつある今、手持ち資金で店舗兼事務所を取得しようか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。住宅と違い、賃料単価が高めの事務所物件は利回りを高めやすい一方、融資条件やリスクの読み方に独特のコツがあります。この記事では、初心者でも理解しやすいように「不動産投資ローン 事務所」の基礎から審査対策、2025年度の最新金利動向までを丁寧に解説します。読み終える頃には、あなた自身の投資計画を具体的に描けるようになるはずです。
事務所物件に投資する魅力とは

重要なのは、事務所物件が住宅系にはない安定した賃料水準を持つ点です。テレワーク定着で一度縮小したオフィス需要は、2024年以降ハイブリッド勤務に対応した小規模拠点のニーズ増加で息を吹き返しました。国土交通省の「オフィスマーケット動向調査2025」によると、主要五大都市の空室率は前年より0.8ポイント改善しています。つまり需要が底打ちし、投資環境が落ち着きを取り戻しつつあるのです。
また、住居系に比べ賃貸借契約期間が3〜5年と長めになりやすく、短期解約リスクを抑えられる点も魅力です。法人契約が中心になるため、家賃滞納率が低いのも特徴です。一方で退去時の原状回復費が大きくなる傾向があるため、初期契約時に負担区分を明確にしておくことが欠かせません。この点を理解していれば、キャッシュフローのぶれを最小限に抑えられます。
さらに、事務所物件は用途変更やリノベーションによる賃料改善効果が大きいとされています。古いビルのワンフロアをシェアオフィスへ転用するだけで月額賃料が15〜20%伸びる例も珍しくありません。こうしたバリューアップ戦略は、ローン返済期間中の収益向上に直接貢献します。実は投資家の腕が最も試される部分でもあります。
もっとも、住宅ローンとは異なり融資期間が短めになる、自己資金比率を高めに求められるといったハードルも存在します。そこで次章では、不動産投資ローン自体の仕組みを整理し、事務所物件ならではの違いを確認していきましょう。
不動産投資ローンの基本仕組み

まず押さえておきたいのは、不動産投資ローンが事業性融資に位置づけられる点です。この区分によって金利設定や審査基準が住宅ローンと大きく異なります。
投資ローンでは返済原資が賃料収入と想定されるため、金融機関は物件の収益性を重視します。年間家賃収入から空室損失や維持管理費を差し引いたネット利回りが5%以上あるかが一つの目安です。全国銀行協会の2025年10月データでは、同利回りが7%を超える案件の融資実行率が約1.3倍に上昇しています。数字で示すことで金融機関の視点が理解しやすくなります。
金利は変動で1.5%〜2.0%、10年固定で2.5%〜3.0%が相場です。金利差が0.5%あるだけで、融資額5000万円・期間20年の場合、総返済額が約280万円変わるため、金利交渉は欠かせません。団体信用生命保険の加入有無や保証料の支払い方法など、実質コストに関わる項目を漏れなくチェックすることが大切です。
期間は事務所物件だと15〜25年が中心で、住宅系より5年ほど短く設定される傾向があります。築古ビルの場合、残存耐用年数の範囲内でしか貸し付けられないため、購入前に建物の構造と築年数を念入りに調べてください。耐用年数が切れていても、適切なリノベーションで延命計画を示せば交渉の余地は残されます。
最後に、自己資金比率は20%前後を求められるケースが一般的ですが、法人設立後2期以上黒字決算を維持していると10%程度に緩和されることもあります。このように、融資条件は投資家の属性と物件の組み合わせで変動します。次章では、具体的に審査で何が評価されるのかを深掘りします。
事務所向けローン審査で見られるポイント
ポイントは、事務所物件ならではのリスクを融資担当者がどう評価するかを理解することです。ここを押さえて準備すれば、審査通過率は大きく変わります。
まず物件評価では立地とテナント需要が最重視されます。駅徒歩5分圏内か、主要幹線道路沿いかで査定が一気に変わるため、商業地の地価公示価格を事前に確認しておくと説得力が増します。国土交通省「地価LOOKレポート2025年第2四半期」では、都心Aランク地区の上昇率が年4.2%と報告されており、金融機関はこうしたデータを裏付けとして利用しています。
一方でテナントの業種分散も重要な視点です。単一業種に偏ると景気変動リスクが増すため、契約予定企業の業種や規模を提示できると好印象です。たとえば、ITスタートアップと士業事務所をフロアごとに分ける計画を示すだけで、安定性の評価は一段高まります。
借り手自身の属性については、過去の与信情報だけでなく、事業計画の実現可能性が問われます。年間収支計画書に空室率10%、修繕積立を年間家賃収入の5%として織り込むと、現実的と判断されやすいです。資金繰り表で毎月の返済比率(DSCR)を1.2倍以上確保すれば、余裕を示せます。
最後に、決算書や給与収入など自己資金の裏付け資料は早めに整理しておきましょう。書類の不足で審査が長引くと売買契約の期日が迫り、結果的に好条件での交渉を逃すリスクがあります。つまり、準備段階で勝負が決まると言っても過言ではありません。
キャッシュフローの組み立て方とリスク管理
実は、事務所投資の成否はローンの組み方と運営中のリスク管理にかかっています。ここでは現実的な数値を用いてキャッシュフローの考え方を示します。
購入価格6000万円、自己資金1200万円、融資4800万円、金利1.8%、期間20年で試算すると、年間返済額は約289万円、月額では24万円となります。月額賃料が40万円、共益費を含む年間総収入が480万円の場合、運営費を20%と見込めば年間純収入は384万円です。返済後の手残りは約95万円となり、利回り換算でおおむね7.9%になります。
一方で入居率が80%に低下し、金利が2.3%に上昇した場合、手残りは25万円まで縮小します。このシナリオを許容できるかどうかが投資判断の分岐点です。金融機関も同様のストレステストを行うため、自身で先に試算しておくと審査で慌てません。
空室対策としてはフリーレント期間を1ヶ月設ける、新規テナントの内装施工を一部負担するなどの施策が有効です。ただし、これらは一時的にキャッシュアウトを伴うため、資金繰りを慎重に見積もる必要があります。修繕費については外壁塗装や空調機器更新など大規模修繕が10年おきに発生する前提で、毎年積み立てておくのが安全策です。
さらに、火災保険に加えて2025年度の中小企業向け事業継続計画(BCP)策定補助金を活用すれば、テナント企業の災害対策費用を一部賃貸人として支援できます。この制度は2026年3月申請分までと期限があるため、早めに情報収集して資産価値向上につなげると良いでしょう。
2025年度の支援制度と節税の基礎
まず押さえておきたいのは、事務所投資でも利用できる公的支援や税制優遇が意外に多い点です。ここでは代表的な制度を紹介します。
2025年度も継続される「中小企業省エネ促進補助金」では、LED照明や高効率空調への更新費用の1/3が補助対象です。省エネ性能を高めればテナントの光熱費削減という付加価値を提供でき、賃料の維持向上にも寄与します。住宅向けのポイント制度と違い、事務所用途でも申請可能な点が特徴です。
固定資産税については、市町村による創業支援特例を活用すると、新規取得ビルの固定資産税が3年間半減されます。延床面積2000平方メートル以下、中小企業者が所有することなどが条件で、都心部の中規模ビルが該当しやすいです。税負担の軽減はキャッシュフロー改善に直結するため、忘れずにチェックしてください。
消費税の還付スキームも見逃せません。建物取得時に課税仕入れとして消費税を支払うと、テナントへの賃料が課税売上であれば翌期に還付を受けられる可能性があります。ただし、簡易課税を選択すると還付ができないため、課税事業者選択届出書の提出タイミングを税理士と相談することが不可欠です。
最後に、法人化による所得分散効果も有効です。個人では最高税率55%ですが、資本金1億円以下の法人なら所得800万円以下部分の税率は23.2%に抑えられます。利益を内部留保し次の物件取得に再投資すれば、雪だるま式にポートフォリオを拡大できます。
まとめ
結論として、事務所物件は高利回りと長期賃貸契約が期待できる一方、融資期間や空室リスクへの備えが欠かせません。本記事で紹介した金利相場、審査ポイント、キャッシュフロー試算、そして2025年度の支援制度を組み合わせれば、初心者でも堅実な投資設計が可能です。まずは自己資金と属性を整理し、金融機関に提出する事業計画書を作り込んでみてください。行動を起こすことで、将来の資産形成が一歩前進します。
参考文献・出典
- 全国銀行協会 – https://www.zenginkyo.or.jp/
- 国土交通省 オフィスマーケット動向調査2025 – https://www.mlit.go.jp/
- 国土交通省 地価LOOKレポート2025年第2四半期 – https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/
- 中小企業庁 省エネ促進補助金2025 – https://www.chusho.meti.go.jp/
- 総務省統計局 2025年事業所・企業統計調査 – https://www.stat.go.jp/